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灰色の精霊術師  作者: ミモリ
―第3章 ― 手がかりを求めて
9/35

【2】

 道は、一本道だ。

 だから、途中に必ず橋があるはずなのだ。来るときにネイが渡ってきた橋が。

(でも、なかった――よね)

 まるで、魔法のように忽然と消えてしまった。

 あるはずのものが、どうしてないのか。

 わけがわからず、頭の中を疑問符がぐるぐると渦巻く。

(もしかして、流されちゃったとか……?)

 たしかに水量も多く、流れも速い川だ。けれど、いくら簡素なつくりとはいえ、橋はきちんと固定されていた。

 それほど簡単に流されるだろうか。

 ……というより、現実問題として、橋がなければ帰れない。

 ここから出られない。


『悪いことは言わん。あの村には行かんほうがええ』


 イシェンで会った村人の言葉が、脳裏にこだまする。


『あの村に行った者は、誰も戻ってこんからな』

 

 ネイは、コートのすそをぎゅっと握った。

(ダメだ、落ちつかないと……)

 自分に言い聞かせ、村の入り口にある低い石垣に腰をおろす。

 朝から歩き通しで、だいぶ足がくたびれていた。

 そういえば、とっくに昼時も過ぎているというのに、なにも食べていない。

(おなかが空いてるから、よけい頭が混乱するんだ)

 鞄の中から、水筒とパンとチーズを取り出し、三分の一だけ食べ、残りは念のために取っておいた。

 食べ物を口に入れたことで、少し気分が落ち着く。

(なんで橋が消えたのかは、ひとまずおいとこう)

 とにかく、どうにかして帰らなければ。

(向こう岸に渡りたいけど、歩いて渡れそうにはないし……)

 泳いで渡るには、流れが急すぎる。

 上からではよくわからないが、深さもありそうだ。ネイでは、自らおぼれにいくようなものだろう。

(なら、川に沿ってくだってみる……?)

 さっそく立ち上がり、川沿いの小道を下流に向かって歩いていく。

 ところが、しばらくもたたないうちに、切り立った崖に行く手を阻まれてしまった。

 しかも、音から察するにこの先は滝――。引き返すしかなかった。


 あの一本の橋がないだけで、これほど孤立してしまう土地だとは――。

 ネイはため息をついてうずくまった。

(なにやってるんだろ、わたし……)

 祖父をむかえに来たはずなのに、自分のほうが帰れなくなって、途方にくれている。

(家でおとなしく待ってたほうが良かったのかな……)

 今頃、ノルは何事もなく家に帰り着き、ネイがいないことに驚いているかもしれない

 情けなさと心細さに、ますますギュッと膝を抱えこむ。

 ひんやりとした風が、背中をなでて通りすぎていった。

(……帰らなきゃ)

 ネイは奥歯をかみしめ、無理矢理にでも気持ちを奮い立たせる。

 うずくまっていたって、誰も助けには来てくれない。

(もう一度、村の中を歩いて、手がかりを探してみよう)


 こじんまりとした広さなので、一回りしても、さほど時間はかからなかった。

 特に荒れた様子もなく、ただひっそりと静まり返っているだけだ。

 とうとう村のはずれまで来たとき、山の中へと続く、細い通路を見つけた。

(ふもとに出られたりは――しないよね)

 上に向かって伸びているので、その可能性は低そうだ。

 けれど、この道をたどれば、村人たちの行方について、なにかわかるかもしれない。

 意を決すると、ネイは小道に踏みいった。

 もくもくと登っていたのだが、わりと傾斜があり、さすがに途中で疲れて、いったん足を止める。

 木々の隙間から、ローニエの村が見下ろせた。

(もうこんなに登ったんだ………あれ?)

 今、村の中央にある広場のあたりで、サッと影のようなものがよぎった気がした。

 目をこらしてみるが、なにも見当たらない。

(気のせいかな……)

 ふうっと息をついた。うっすらと汗ばんだ額や頬に、風が気持ちいい。

 しばらくぼーっとたたずんでいるうちに、ネイはふと思い出した。

(そういえば、イシェンで会ったおじさん、わたしの前にもだれか、ローニエへ向かったって言ってたっけ)

 戻ってこないと言っていたが、やはりネイと同じように、橋が消えて帰れなくなったのだろうか……。

 会わなかったということは、村人たちと合流したのか、それとも、そもそもここには来なかったのか――。

 ネイは首をふった。いくら考えたところで、わかるはずもない。

 ふたたび歩き始め、休憩をとった地点からさらに同じくらいの距離を登った頃、少し開けた場所に出た。

「…………」

 思わず立ち尽くす。

 山肌にぽっかりと空いた、真っ暗なたて穴。

(――なんで、行く先々にトンネルや洞窟があるんだろう)

 入り口の広さは大人が軽く両腕を広げたくらいで、かなり奥の方まで続いていそうな気配がした。

 ――正直、入りたくない。

(でも……)

 ここまで続く道があったということは、人の出入りがあるということだ。

 きっと、この中になにかあるか、この先がどこかに通じているのだろう。


(……行くしか、ないよね)

 

 他に道も手がかりもない。

 ネイはコートの裾をぎゅっと握り、一歩踏み出した。



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