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灰色の精霊術師  作者: ミモリ
―第3章 ― 手がかりを求めて
8/35

【1】

(怖くない、怖くない、怖くない……!)

 暗示をかけるように、心の中で唱えながら、早足でずんずん歩く。

 トンネル内部は、真の暗闇だった。

 炎がなければ、自分の手足さえ見えなかっただろう。

 壁に揺らめく自身の影や、足音にさえ、ビクッと身体がはねる。

 曲がり角にさしかかるたびに、角の向こうでなにかが息をひそめているような気がして、足がすくんだ。 

 ――どのくらい進んだだろうか。

 暗闇の先に光が見えたときには、ほとんど駆け足になっていた。

 そのままトンネルを走り出て、ハァハァと肩で息をする。

 心臓がバクバクいっているのは、なにも走ったせいばかりではない。

(帰りも通らなくちゃいけないんだよね……)

 今から気が重くなり、ため息をつく。

(あ、でも、おじいちゃんに会えたら、帰りは一緒だ)

 そう考え、少しだけ心が軽くなった。


 トンネルの目の前には、渓流が横ぎっており、簡素な木の橋がかけられていた。

(やっぱり、川があったんだ)

 橋を渡って、川沿いの狭い道を歩いていく。片側は、山の斜面だ。

 しばらく行くと、やっと集落にたどり着いた。

「ここが、ローニエ……」

 なだらかな斜面に家々が寄りそいあう、素朴な山間の村だ。

 やけにひっそりと静まりかえっており、周囲を見渡しても、人影はまったくない。

(みんな、家の中にいるのかな。それとも仕事に出てる……?)

 とりあえず、ネイは村の中を歩いてみることにした。

 乾いた土を踏む音が響く。

(なんだろう。なにか……)

 かすかな違和感を感じる。

 原因はなにかと思ったら、小屋はあるのに、そこで飼っているはずの家畜の姿がなかった。

 もう一度、あたりをぐるっと見回す。やはり、どこにも村人の姿はない。

 空気はしんとしており、聞こえてくるのは鳥のさえずりくらいだ。

 ためしに何軒か、ドアをノックしてみた。

 ――なんの反応もない。

 つま先立ちして、窓をのぞいてみたが、中に人がいるような気配はなかった。

(どういうことだろう……)

 もしかして、この村には本当に、誰もいないのか。

(やっぱりなにかあって、みんなで避難でもしたのかな)

 だとすれば、ここから最も近いイシェンに向かった可能性が高いが……。

(でも、昨日、イシェンで話を聞いたときには、誰もそんなこと言ってなかった)

 というか、皆、総じて口が堅かった。

 しばらく村の中をうろうろ回ってみたが、人や家畜の姿がないということ以外、特に異変は見受けられなかった。

(どうしよう。戻ったほうがいいのかな)

 ここにいても、これ以上わかることはなさそうだ。

 イシェンに戻って、もう一度話を聞いてみるくらいしか、他に手がかりを得る方法を思いつかなかった。

 あの村の人々は、なにか知っているような気がする。

(――戻ろう)

 せっかくここまで来たが、仕方がない。

 正直、ローニエに着きさえすれば、すぐに手がかりが得られると思っていたが、そう簡単にはいかないようだ。

(そういえば、帰りにまたあのトンネルを通らなきゃ……)

 思わずため息をついた、そのとき。


 ガタッ


 背後で、物音がした。

 心臓が跳ねる。

 バッと振り返り、耳をすましたが、それ以上はなにも聞こえなかった。

(……風?)

 それとも――

 慎重に近づいていく。

 音のした民家の裏手をのぞきこむと、雑然と物が積み重ねて置いてあった。

 人や魔物が隠れられそうなスペースはない。

 ほっと胸をなでおろした。

 おそらく、なにかの拍子に物が倒れでもしたのだろう。

 ごちゃごちゃしていて、なにが倒れたのかまではわからないが……。 

 両手で頬を、パチッとたたく。

(油断してた……)

 気を新たに引きしめ、ネイは村を後にした。


(あれっ?)

 行きに通った橋のあたりまで来たとき、思わず足が止まった。

(橋がない……)

 戸惑ったように、まばたきをする。

(たしか、ここらへんだったと思うんだけど……)

 周囲の景色を確かめるように見回す。目の前にはただ川が流れているだけで、どこをどう見ても橋の姿はなかった。

(もう少し、先だったかな?)

 そのまましばらく歩いてみたが、

(やっぱりない……)

 ――ということは、知らぬ間に通りすぎてしまっただろうか。

 来た道をふたたび戻る。だいぶ戻ったが、やはり橋はなかった。

(……ないはずないよね。わたし、たしかに橋を渡ってきたんだから)

 さっきの場所より、もっと先にあったのかもしれない。

 気を取り直して引き返す。

 かなり歩いたが、橋の姿は跡形もなかった。というより、道が途切れてしまって、これ以上は進めない。

(じゃあ、もっと手前……?)

 ネイはまた、来た道を戻った。

 とにかくひたすら歩いていると、見覚えのある集落にたどり着く。

(ローニエ……)

 戻ってきてしまった。


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