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灰色の精霊術師  作者: ミモリ
―第2章― ローニエへ
5/35

【1】

 ――その夜、夢を見た。

 覚えていないはずの、両親の夢。

 ネイは今よりずっと小さく、日なたの中で母と手を繋いでおり、そこに父がやってきて、大きな手で頭をなでてくれた。

 ネイが両親を見上げると、二人は優しく微笑みかけてくれる。

 あたたかかくて、満たされていて、胸がつまるほど幸せな光景――。

 けれどある日、父と母はどこかに出かけ、それきり戻ってこなかった。

 幼いネイは、なぜ二人が帰ってこないのかわからず、待って、待って、ずっと待って――…


 目を開けると、闇の中に見慣れた天井が、ぼんやり浮かんでいた。

 むくりとベッドの上で身を起こす。気づくと、頬がぬれていた。

 (……ちょっと前にも、こんなことあったな)

 怖い夢を見て、心細くなって。

 ネイはベッドを抜け出し、部屋を出て、ゆっくりと階段をおりた。

「おじいちゃん……」

 小さな声で呼んでみる。

 階下は真っ暗で、もちろん誰もいない。

(これも夢なんじゃないのかな)

 実は自分はまだ眠っていて、起きたら、今までのことは全部夢なのだ。

 下に降りてみると、そこにはちゃんと祖父がいて、心の底から安堵する。

(ああ、夢でよかったって――)


 ネイはベッドには戻らず、ダズおじさんとマンナおばさんに手紙を書いた。テーブルの上にも、簡単な書き置きを残す。

 手早く身支度を整え、灰青色のひざ丈のコートをはおると、荷物をまとめたバッグを肩にかけた。

 コートは、去年の誕生日にノルが買ってくれた、お気に入りのものだ。

 外に出ると、あたりはまだ暗く、空には星が瞬いていた。

 最後に一度、自分の家を振り返る。

(すぐに帰ってくるから。おじいちゃんと一緒に)

 冷えた空気を思いきり吸いこむ。

(――いってきます)


 歩き慣れた道でも、闇の中、まわりの景色や足下が見えないのでは勝手が違う。

 ネイは立ち止まり、手のひらに意識を集中させた。すると、ボッと火がともる。

 炎は手のひらの少し上で踊っており、直接肌には触れていない。触れたとしても、術師は耐性をもっているため、あまり熱くは感じないのだが。

 炎をかざして道を照らしながら、ダズおじさんの家の門のそばまでくると、飼い犬のランディがピクッと起きあがった。

 体は大きいけれど、気が優しくて賢い。

 ネイがしーっと人さし指を口の前に立てると、おとなしく伏せてくれた。

「ありがとう」

 小声で言い、郵便受けにそっと手紙を入れる。

 この手紙には、黙って出かけることのお詫びや、心配しないでください、ということが書いてある。

 自宅の書き置きには、祖父と行き違いになってしまったときのために、ローニエへ向かいますと一言、残しておいた。

 ネイは門の前で、まだ眠っているであろうおじさんとおばさんに、軽く頭をさげる。

 ノルとネイの二人分、心配をかけてしまうかもしれない。

(ごめんなさい……)

 それでも、これ以上、ただ待っていることはできなかった。

「――じゃあ、またね」

 こちらをじっと見つめるランディに、小さく手をふる。

 四本足の友人は、しっぽをパタパタさせて、静かに見送ってくれた。


 メレニスの町をめざして、薄暗い街道をひたすらに歩く。

 いつも馬車で通っている道のりだが、やはり徒歩では勝手が違った。

 町までの距離が、果てしなく感じる。

 なんとかメレニスにたどり着くと、朝もやに包まれた通りには、すでに忙しく行き来する人たちがいた。

 朝一番に出発する、二頭だての乗合馬車を見つけ、行き先を御者に確認する。

(この馬車でいいみたい)

 定員は十名ほどだが、ネイの他には、寡黙そうなおじさんが一人、乗っているだけだった。

 端っこの席に座り、鞄に入れてきたパンを水で半分だけ流しこむ。

 ――ほどなく、馬車が出発した。

 揺れに身をまかせているうちに、だんだん眠気がおしよせてくる。

 寝不足と、歩き続けたことによる疲労もあるだろう。

 鞄を抱きしめるようにして、ネイは眠りに誘われていった。


「んん……」

 目をさますと、もう昼前だった。あたりはすっかり明るくなっている。

 いつの間にか、乗客も増えていた。最初に一緒だったおじさんは、どこで降りたのか姿がない。

 車窓に目をやると、見知らぬ風景が広がっており、ネイはなんだか心もとない気分になった。

 しばらくして、馬車はシロンという町に到着した。

 ローニエへ向かうには、ここで一度、馬車を乗りかえる必要がある。

 逆に、メレニスへ戻るときもここに寄るはずなので、もしやと祖父の姿を探してみたが、やはり見つからなかった。

(……とりあえず、お昼ごはん食べよう)

 町の食堂は、時間帯のせいもあり、かなりにぎわっていた。

 一人ぽつんと食べている子供がいても、誰も気にとめない。おかげで、かえって落ちついて食事をすることができた。

 食堂を出ると、次の目的地へ向かう馬車を探し、乗りこむ。

 出発して少しもたたないうちに、ネイはまた、睡魔におそわれた。

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