表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰色の精霊術師  作者: ミモリ
―第1章― 訪問者
4/35

【3】

 翌日、ネイはダズおじさんの手伝いで、メレニスの町へ行った。

 おじさんはノルが出かけたのを知って、

「寂しかったら遠慮せずうちに来い。なにかあったら言うんだぞ」

 と気づかってくれた。


 その次の日は、近くの森にある小さな湖で、精霊術の修業を行った。 

 修業といっても、地道な訓練のようなもので、日々の積み重ねにより、徐々に術の扱い方を身につけていく。

 ちなみに、ネイは特に火の精霊との相性がいいので、万が一にも周囲に火を燃え移らせてしまわないよう、修行はいつも湖で行っている。


 ノルが出かけてから、四日目。再びダズおじさんと、メレニスへ行商に。

 村に戻って来ると、マンナおばさんが夕飯のおかずをわけてくれた。

 おばさんは、ダズおじさんの奥さんだ。

「いつでもうちに来ていいんだからね。なにか困ったら、遠慮なく言うんだよ」

 と優しく抱きしめてくれた。


 五日目は、また精霊術の修業。

 家に帰ってから、庭や畑の手入れをしていると、あっという間に日が暮れた。


 六日目、この日はいいことがあった。

 ダズおじさんの手伝いで、メレニスに行ったついでに本屋をのぞいたら、予約していた例の本が届いていたのだ。

 祖父の誕生日まで見つからないよう、それを自分のベッドの下に隠した。


 ――そして、七日目。

 ネイは朝からそわそわしていた。

 窓をあけて風を通したり、テーブルや棚の上をふいたり、花瓶に庭の花を生けたり。

 すみずみまで気を配って、家の中を整える。

 疲れて帰ってきたノルが、気持ちよく眠れるよう、布団もふかふかに干しておいた。

(まだかな……) 

 扉をあけ、何度も外を見に行く。

 適当に本を読んだりしてみたものの、あまり身に入らなかった。

 昼が過ぎ、そのうち夕方になり、

(夕飯、なんにしよう)

 いろいろと迷ったが、身体が温まるものがいいかと、ポトフを作ることにした。

 たっぷりの野菜とソーセージを、スープでコトコト煮込む。

 日が落ちて、あたりが暗闇に包まれても、いっこうにノルは帰ってこない。

(おそくなるのかな……)

 一緒に食べようと待っていたが、しかたなく先に夕飯をすませた。

(まだかな……)

 夜も更けてきたので寝巻きに着がえる。

 暖炉の前で本を読みながら、ネイはあくびをかみころした。

(おじいちゃん、おそいなあ……)


 ニワトリたちの、にぎやかな鳴き声。

「んん……」

 ネイは身を起こし、寝ぼけまなこをこすりながら、ぼんやりとあたりを見まわした。

 窓ガラスから、白い朝日が差しこんでいる。

 どうやら祖父の帰りを待っていて、床でそのまま眠ってしまったらしい。絨毯の上とはいえ、節々が痛かった。

 暖炉の熾火もとっくに消えており、身体中が冷えきっている。

(おじいちゃん、結局、帰ってこなかったんだ……)

 一週間と言っていたが、予定が少しずれてしまったのだろう。

(きっと、今日は帰ってくるよね)


 ――九日目。

 まだノルは戻っていなかった。

 ダズおじさんは、沈みがちなネイを心配して、いろいろと元気づけてくれた。

 ネイはメレニスの町で、乗り合い馬車の御者に、ローニエの村までどのくらい距離があるのか聞いてみた。

(ここから馬車で二日。往復で四日……)

 移動の日数をのぞいても、祖父はもう五日、むこうに滞在していることになる。

(そんなにかかるものなのかな……)

 もしかしたら、なにか突発的なトラブルが起こったのかもしれない。

 でもそれならそれで、連絡の一つくらい、くれそうなものだ。

 祖父が、いたずらに心配をかけるようなことをするとは思えなかった。

(連絡、したくてもできないんだとしたら……?)

 心の中に、じわりと得体の知れない不安が広がっていく。

 ネイは振りはらうように、首を振った。

(村に戻ったら、おじいちゃんもう帰ってきてるかも)

 だいじょうぶ、と自分に言い聞かせる。


 祖父が出かけてから十日がたった。

(おじいちゃん……。今日、おじいちゃんの誕生日だよ)

 ベッドの下から包みを取り出す。少し前までは、これを渡すのがただ待ち遠しくて、ワクワクしていたのに。

 この十日間、ネイは毎日淡々と、一人分のご飯を作って、食べて、しんと静まりかえった家で眠った。

 祖父のいない家は、まるで体温を失ってしまったかのように寒々しかった。

 一週間で終わると思っていたから、耐えられたのだ。

(おじいちゃん、どうして帰ってこないんだろ……)

 ノルがいつも使っている揺り椅子につっぷして、考える。

 精霊術の力は強大だが、危険な仕事であることに変わりはない。

 大きな怪我をしたり、ときには――

 慌てて頭をふり、ネイは胸のあたりをぎゅっと握った。

 実際は、予想より仕事に手間どったとか、思わぬところで足止めされたとか、そんなところなのだろう。

(早く帰ってきてよ、おじいちゃん……)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ