【3】
翌日、ネイはダズおじさんの手伝いで、メレニスの町へ行った。
おじさんはノルが出かけたのを知って、
「寂しかったら遠慮せずうちに来い。なにかあったら言うんだぞ」
と気づかってくれた。
その次の日は、近くの森にある小さな湖で、精霊術の修業を行った。
修業といっても、地道な訓練のようなもので、日々の積み重ねにより、徐々に術の扱い方を身につけていく。
ちなみに、ネイは特に火の精霊との相性がいいので、万が一にも周囲に火を燃え移らせてしまわないよう、修行はいつも湖で行っている。
ノルが出かけてから、四日目。再びダズおじさんと、メレニスへ行商に。
村に戻って来ると、マンナおばさんが夕飯のおかずをわけてくれた。
おばさんは、ダズおじさんの奥さんだ。
「いつでもうちに来ていいんだからね。なにか困ったら、遠慮なく言うんだよ」
と優しく抱きしめてくれた。
五日目は、また精霊術の修業。
家に帰ってから、庭や畑の手入れをしていると、あっという間に日が暮れた。
六日目、この日はいいことがあった。
ダズおじさんの手伝いで、メレニスに行ったついでに本屋をのぞいたら、予約していた例の本が届いていたのだ。
祖父の誕生日まで見つからないよう、それを自分のベッドの下に隠した。
――そして、七日目。
ネイは朝からそわそわしていた。
窓をあけて風を通したり、テーブルや棚の上をふいたり、花瓶に庭の花を生けたり。
すみずみまで気を配って、家の中を整える。
疲れて帰ってきたノルが、気持ちよく眠れるよう、布団もふかふかに干しておいた。
(まだかな……)
扉をあけ、何度も外を見に行く。
適当に本を読んだりしてみたものの、あまり身に入らなかった。
昼が過ぎ、そのうち夕方になり、
(夕飯、なんにしよう)
いろいろと迷ったが、身体が温まるものがいいかと、ポトフを作ることにした。
たっぷりの野菜とソーセージを、スープでコトコト煮込む。
日が落ちて、あたりが暗闇に包まれても、いっこうにノルは帰ってこない。
(おそくなるのかな……)
一緒に食べようと待っていたが、しかたなく先に夕飯をすませた。
(まだかな……)
夜も更けてきたので寝巻きに着がえる。
暖炉の前で本を読みながら、ネイはあくびをかみころした。
(おじいちゃん、おそいなあ……)
ニワトリたちの、にぎやかな鳴き声。
「んん……」
ネイは身を起こし、寝ぼけまなこをこすりながら、ぼんやりとあたりを見まわした。
窓ガラスから、白い朝日が差しこんでいる。
どうやら祖父の帰りを待っていて、床でそのまま眠ってしまったらしい。絨毯の上とはいえ、節々が痛かった。
暖炉の熾火もとっくに消えており、身体中が冷えきっている。
(おじいちゃん、結局、帰ってこなかったんだ……)
一週間と言っていたが、予定が少しずれてしまったのだろう。
(きっと、今日は帰ってくるよね)
――九日目。
まだノルは戻っていなかった。
ダズおじさんは、沈みがちなネイを心配して、いろいろと元気づけてくれた。
ネイはメレニスの町で、乗り合い馬車の御者に、ローニエの村までどのくらい距離があるのか聞いてみた。
(ここから馬車で二日。往復で四日……)
移動の日数をのぞいても、祖父はもう五日、むこうに滞在していることになる。
(そんなにかかるものなのかな……)
もしかしたら、なにか突発的なトラブルが起こったのかもしれない。
でもそれならそれで、連絡の一つくらい、くれそうなものだ。
祖父が、いたずらに心配をかけるようなことをするとは思えなかった。
(連絡、したくてもできないんだとしたら……?)
心の中に、じわりと得体の知れない不安が広がっていく。
ネイは振りはらうように、首を振った。
(村に戻ったら、おじいちゃんもう帰ってきてるかも)
だいじょうぶ、と自分に言い聞かせる。
祖父が出かけてから十日がたった。
(おじいちゃん……。今日、おじいちゃんの誕生日だよ)
ベッドの下から包みを取り出す。少し前までは、これを渡すのがただ待ち遠しくて、ワクワクしていたのに。
この十日間、ネイは毎日淡々と、一人分のご飯を作って、食べて、しんと静まりかえった家で眠った。
祖父のいない家は、まるで体温を失ってしまったかのように寒々しかった。
一週間で終わると思っていたから、耐えられたのだ。
(おじいちゃん、どうして帰ってこないんだろ……)
ノルがいつも使っている揺り椅子につっぷして、考える。
精霊術の力は強大だが、危険な仕事であることに変わりはない。
大きな怪我をしたり、ときには――
慌てて頭をふり、ネイは胸のあたりをぎゅっと握った。
実際は、予想より仕事に手間どったとか、思わぬところで足止めされたとか、そんなところなのだろう。
(早く帰ってきてよ、おじいちゃん……)




