表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰色の精霊術師  作者: ミモリ
―第1章― 訪問者
3/35

【2】

 いつの間にか、うたた寝をしてしまったらしい。

 気がつくと部屋の中は薄暗く、窓の外は夕焼け色に染まっていた。

 ネイは軽く頭をふり、寝起き特有の気だるさを追いはらう。

 部屋を出て、ゆっくり階段を降りていくと、下では祖父が夕飯の支度をしていた。

 きょろきょろと見回すが、客人は姿はない。

「おじいちゃん、さっきの人は……」

「ああ、少し前に帰ったよ。私の古い知り合いなんだ」

 ノルは椅子に座って、もくもくとじゃがいもの皮をむいている。それ以上、なにか話してくれそうな気配はなかった。

(お父さんとお母さんのことも、知ってそうな感じだったけどな……)

 いろいろ聞きたいことはあったが、とりあえず袖まくりをして手を洗い、祖父のとなりに並ぶ。

「今日はなに作るの?」

「ああ、久しぶりにシチューにしようかと思ってな」

 牛乳と小麦粉を練ったソースで、鶏肉と野菜をじっくり煮こんだシチューは、ネイの大好物だ。

「やったあ!」

 ネイははりきって、たまねぎやにんじんの皮むきに取りかかる。

 夕闇が去り、夜のとばりが下りる頃、食事の仕度が整った。

 テーブルの上には、ほかほかとあたたかそうな湯気をたてる白いシチューと、胡桃のパン。

「いただきまーす!」

 ネイはシチューをぱくっと一口食べ、思わず顔をほころばせた。

「おいしいね」

「そうだな」

 ノルも微笑みながら、さじを口に運ぶ。

(結局、あのお客さん、なんの用事だったんだろう……)

 心の中で、ネイは首をかしげた。

 あまりに切迫した様子だったので、てっきり仕事の依頼に来たのかと思っていたが。

(でも、どこかに出かけるなら、おじいちゃん、言ってくれるよね)

 食事が終わり、寝る時間になっても、ノルからそんな話が出ることはなかった。

(やっぱり、仕事の話じゃなかったんだ)

 大事な仕事だとわかってはいるが、やはり待っているときは心配だし、誰もいない家は寂しい。

 ほっとした気持ちで、ネイは眠りについた。


 ――翌朝。

 ニワトリの餌やりなど、いくつかの日課をこなしたあと、ネイは朝食の席についた。

 朝の食事作りは交代制で、今日の担当はノルだ。

 テーブルには、香草パンと半熟の炒り卵、それに根菜のサラダとミルクが並べられている。

 食べ始めてからしばらくして、ネイは思わず、

「おじいちゃん……?」

 と声をかけた。ノルは手にフォークを持ったまま、口にも入れず、ぼんやり宙を見つめている。

「あ、ああ」

 我にかえったように食事を再開するが、心ここにあらずといった感じだ。

(どうしたんだろ……)

 やがて、祖父はなにか決心したように短く息をついた。

「――ネイ」

 改まった口調で、孫娘の名を呼ぶ。

「急ですまないが、出かけるよ。昼過ぎには発とうと思う」

「え?」

 ネイは炒り卵をすくったスプーンを中途半端に持ったまま、まばたきをする。

「……仕事?もしかして、昨日の人……」

 祖父がうなずく。

「ああ。ロイドというんだが、彼の故郷の村へ行ってくる」

「どこ?」

「……ローニエという村だ」

 聞き覚えのない名前だった。

「ここからは、少し遠いな」

「どのくらい……?」

 ノルは少し考えこむ。

「そうだな、戻ってくるまでに一週間はかかるだろう」

「一週間……!?」

 今まで祖父が、二、三日以上、家を留守にすることはなかった。

「なんだったらその間、ダズさんのところに――」

「だ、だいじょうぶだよ、一週間くらい!」

 ネイは安心させるように笑ってみせる。

「わたし、ちゃんと留守番できるよ」

「そうか……?」

 祖父は微笑んだものの、すぐに難しい顔で考えごとに沈みこんでしまう。

 ネイの脳裏に、昨日の客人の、切羽つまったような表情が浮かんだ。

(やっかいな仕事なのかな……)

 孫娘の視線に気づくと、ノルは何事もなかったように、再び食事にとりかかった。

「うん、うまい。やはり、家で作るものが一番だな。明日からしばらく食べられないのが残念だよ」

 ネイも、努めて普段通りにふるまう。

「帰ってきたら、わたしがおいしいの作ってあげるよ」

「ほお、それは楽しみだ」

 ノルは灰色の瞳を優しく細めた。


「――では、行ってくるよ」

 扉を出たところで、祖父がふり返った。 

「うん。気をつけてね」

「ああ、おまえも」

 大きな手が、くしゃくしゃと頭をなでてくれる。

「いってらっしゃい……」

 小さく手を振りながら、ネイは祖父の背中が見えなくなるまで見送った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ