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灰色の精霊術師  作者: ミモリ
―第10章― 暴走
33/35

【3】

「みんな、きみわるがってた。だれがやっただんだろうって……」

 鶏、うさぎ、ヤギ――知らぬ間に、次々と消えていく動物たち。

「ぼくがやったんじゃないかっていうひともいたよ」

「そんな……」

 あまりの心無さに、ネイは眉根を寄せる。

「そういうひとは、おじいちゃんがおこってくれたから」

 フィオが少し微笑んだ。

「みんな、ふあんだったんだとおもう。だれがやってるのかも、ぜんぜんわからなかったから……。いなくなるのは、はじめはどうぶつだったけど、だんだんひどくなって――とうとう、ロロがいなくなっちゃった」

「……ロロって」

「ぼくと、おないどしのこ」

 フィオがぽつりと答える。

「みんなずいぶんさがしたけど、みつからなかった。それから、ダンとマリエがいなくなって……。つぎはじぶんのばんかもって、みんな、すごくこわがってた」

 それはそうだろう。村をおおったであろう得体のしれない恐怖は、想像に難くない。

「にげだすひともいたよ」

 ネイは、ローニエに来る途中で泊まった、ガロの宿屋の主人が聞いたといううわさを思い出した。

(たしか、村から人が逃げてきたって……。おじさんが聞いたのは、その人たちのことだったのかな)

 気をつけてな、と見送ってくれた宿屋の主人とおかみさん。

「ぼくも、おじいちゃんにきいたんだ。ぼくたちもにげないの?って」

 闇の中に、フィオのいとけない声が響く。

「おじちゃんは、ロイドさんが、せいれいじゅつしのひとをつれてくるまで、まつっていった」

 フィオは自分の膝に顔をうずめる。

「ぼくがいたから……。だから、にげられなかったんだ」

 そんなフィオの頭に手を置き、

「――きっと、それだけじゃないよ」

 ラウルがやんわりと言った。

「君のお祖父さんは、この村の村長だね?」

 ラウルの問いに、フィオは小さくうなずく。

(そうだったんだ……)

 他と比べて、ずいぶん大きな家だとは思っていたが。

「たとえ君のことがなくても、お祖父さんは村の人たちを置いて逃げはしなかったと思うよ。自分の力で逃げられる人もいたかもしれない。……けど、そうできない人のほうが、この村には多かったんだろう?」

 フィオはゆっくりと顔をあげ、ラウルをじっと見つめた。

(そっか、モルモスの依存症で……)

「君のためというのはもちろんだけど、村の人たちのために、ロイドというお医者さんのことも待っていたんじゃないかな」

 フィオはしばらく押し黙っていたが、やがて、力なく首を振った。

「――あのよる、ぼく、みたんだ。まどから……」

「なにを、見たの……?」

 ネイの問いに、フィオが答える。

「あかいひかり」

 赤い光。

「それって――」

「うん。まもの。あれが、はんにんだっておもった。……それで、ぼく」

 フィオが言いよどむ。

「ぼく……こっそりおいかけたんだ」

 ネイは息をのんだ。――あまりに危険すぎる。

「はんにんがわかれば、おじいちゃんがぼくのことで、いろいろいわれることもなくなるとおもって……」

「うん」

 ラウルが相槌をうつ。

「おいかけて……。でも、すぐみつかって。くらくて、すがたはあんまりみえなかったけど、すごくおおきいのはわかって、にげなきゃっておもったけど、こわくて、あしがうごかなくて……」

 声が震えている。ネイは思わず、フィオの小さな手をぎゅっと握った。

「ぼく、ここで、ころされちゃうんだっておもった。……でも、おじいちゃんが」

 フィオが言葉につまる。ラウルが励ますように、その背中に手を置いた。

「……おじいちゃんが、ぼくをさがしにきてくれたんだ」

 たぶん、ぼくがうちにいなかったから、とうつむく。

「おじいちゃん、まものにランプをなげて、いったんだ。にげなさいって――。そしたら、あいつ、おじいちゃんのほうにむかっていって……。でもぼく、うごけなかった」

 握った手から、小刻みな震えが伝わってくる。

「おじいちゃんをたすけなきゃって、おもったのに」

 声音にまじるのは、悔恨。

「まっくらで、なんにもみえなくて……。そのままずっとたってたら、あさになってた。むらのひとたちがぼくをみつけて、ぼくはみんなに、まもののことをはなしたよ。おじいちゃんは……どこをさがしても、いなくて……」

 ネイは言葉が出てこなかった。

「そうか……。よく話してくれたね」

 ラウルが半分抱きしめるように、フィオの頭を引きよせる。

「みんなは、むらからすぐにげようって――」

「そうだろうね」

「だから、こっそりかくれたんだ。おじいちゃんがかえってくるかもしれないから、ぼく、まってないと……」

 ラウルとネイは顔を見合わせた。

(きっともう、フィオのおじいちゃんは……)

 ――いや。フィオもそれは、うすうすわかっているのだろう。

「フィオ」

 ラウルがゆっくりと口を開いた。

「ここで、おじいさんを待っていたいという、君の気持ちはよくわかる。でも、このままここに留まり続ければ、いつ、あの魔物に見つかるかわからないし、食べものだって、いずれはなくなってしまう」

 フィオの目をじっと見つめ、話す。一言一言、噛んで含めるように。

「大丈夫。君のおじいさんは、きっと賢い人だ。家に帰って君がいなければ、事情はすぐにわかるだろうし、君のこともちゃんと探し出してくれる」

「……でも」

 フィオの瞳が揺れる。

「まずは、自分の身を守らなくては。おじいさんは、最後に君に、なんて言ったんだい?」

 尋ねられ、フィオは唇を動かす。

「にげなさい、って……」

 ラウルは深くうなずいた。

「それが、おじいさんの望みだよ」


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