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灰色の精霊術師  作者: ミモリ
―第10章― 暴走
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【2】

 噴き上がる炎を押さえこむように、フィオの体を抱きしめる。

(っ熱い……)

 けれど、耐えられないほどではなかった。この炎は、ネイにとっては馴染み深いものだ。

「ネイっ!」

 助けようと動く気配に、

「だ、だいじょうぶ、です」

 近づいてはダメだ、と首を振る。

(これは、精霊術の炎……)

 ただし、まったく制御できていない。

 ネイはフィオを抱える腕に、ぎゅっと力をこめた。激しい炎が見えない力によって、じょじょに押さえこまれていく。

「フィオ、落ちついて……」

 精霊術師は、他の術師の体に触れることで、その力の発動に干渉することができる。どの程度干渉できるかは互いの力量にもよるが、幸いなことに、今回はネイのほうが力と制御、共に上回っていた。

「だいじょうぶだから……」

 言い聞かせるように呼びかける。

 その声が届いたのか、弱まっていた炎はやがて完全に鎮まった。フィオは茫然自失の体で、ぐったりとネイの肩にもたれかかる。

「フィオ、ネイ」

 ラウルが二人のそばに来て、気遣うように片膝をつく。

「だいじょうぶかい……?」

 ネイはフィオを抱きしめたまま、こっくりとうなずいた。

「ぼ、ぼく……」

 腕の中の小さな体が、小刻みに震えている。その背中を、ネイはそろそろとなでた。

「――あなたも、精霊術が使えるんだね」


 部屋の中にふたたび、暗闇と静寂が戻ってきた。

 あれだけ派手に炎が噴き上げたというのに、あの魔物に気づかれることはなかったようだ。すでに立ち去っていたのだろう。

 なんとか、フィオも落ち着いてくれた。自分の暴走を止めてくれたからか、ネイが触れていると安心するようで、それぞれ肩から毛布をかけ、今は二人、並ぶように寄りそっている。

「ぼく……みんなからこわがられたんだ」

 フィオはぽつり、ぽつりと話し始めた。

「ときどき、さっきみたいになって……どうしたらとまるか、わからなくて。だれもきずつけたくないのに……」

 フィオはぎゅっと膝を抱きしめる。

 ネイは自分の手のひらを見つめた。この力は、魔物だけではなく、人を傷つける可能性もあるのだ――。

「……おじいちゃんも、ぼくのせいで、うまくあるけなくなっちゃった」

 震える声で、フィオはそう告白した。

(そう、だったんだ……)

 ネイは少なからず衝撃を受ける。自分の力のせいで、フィオは大切な身内を傷つけてしまったのだ。

「だからぼく、おじいちゃんに、そとにでちゃいけないっていわれてて、ずっといえのなかにいたんだ」

 誰も、傷つけないように。

「いつも、へやのまどからみてた。みんながあそんでるところ……。ぼくも、いっしょにあそびたかった。けど……」

 それは、できなかった。

 窓際で一人、楽しそうに遊ぶ子供たちを見つめるフィオを想像する。どんなにうらやましかったことだろう。そして、孤独だったことか。

「この村には、ほかに精霊術師はいなかったの……?」

 ネイは思わず尋ねた。フィオはふるふると首をふる。

「――精霊術師は希少だからね」

 ラウルが静かに言った。

(わたしにおじいちゃんがいてくれたみたいに、フィオにも、術のあつかい方を教えてくれる人がいたら……)

 また、変わっていただろうに。そう思い、そっと目をふせた。

「ロイドさんが」

 聞き覚えのある名前に、ネイはハッと顔をあげる。

「ロイドさん……?」

 ラウルが尋ねた。

「おいしゃさん」

 フィオが答える。

「ずっとむらのそとにいたんだけど、さいきんもどってきたんだ」

(おじいちゃんに会いに来た人だ……)

 褐色の髪と瞳を持った男性を思い出す。祖父が、ローニエに向かうきっかけになった人。

「ロイドさんが、ぼくのこのちからは、せいれいじゅつっていうんだっておしえてくれた。それで……」

 続きをうながすように、ラウルがうなずく。

「しりあいにせいれいじゅつしのひとがいるから、つれてきてくれるって。そのひとに、せいれいじゅつをおしえてもらえば、きっとまた、そとであそべるようになるよって」

「それって……」

 ネイは、ラウルと顔を見合わせる。


『頼む。ノル、あんたしか頼れる者がいないんだ!』


 ネイの家で、必死に祖父に頼みこんでいたロイド。

(ああ、そうか)

 すとん、と腑に落ちる。

(この子のためだったんだ……)

「――じゃあ、君のために、ネイのお祖父さんはこの村に来たんだね」

 話を整理するように、ラウルが言った。

「でも結局は、村の人たちみんなを連れて、逃げることになった。君を残して」

(そうだ。フィオに会いに来たはずなのに……)

 こんな危険な状態で、祖父が、幼い子を置き去りにするなんて考えられない。

「それは……」

 フィオがうつむく。

「きっと、ぼくが、もういないとおもったから……」

「……どういうことだい?」

 ラウルが、やわらかく問う。

「………」

 フィオはしばらく押し黙ったあと、なにかを覚悟するように、すうっと息をすった。

「ロイドさんがくる、ちょっとまえから、むらでへんなことがおきてたんだ」

「へんなこと……?」

 ネイが首をかしげる。

「さいしょは、にわとりが1ぴき」

 フィオは言った。

「そのつぎは、うさぎ。そのつぎは、やぎが――いなくなってた」


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