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灰色の精霊術師  作者: ミモリ
―第9章― 新たなる事態
28/35

【1】

(もしかして……)

 思い浮かんだことが、するりと口をついて出る。

「上に、おじいちゃんがいるの……?」

 フィオがビクリとこちらを向いた。その反応に、疑念が深まる。

(フィオのおじいちゃんは、この家に――上の部屋のどこかにいる……?)

 では、さっき聞こえたトントンという音は、フィオの祖父がたてた音だったのだろうか。

 フィオはうつむき、押し黙っている。ネイは二階へと続く階段を、チラッと見やった。

 フィオの祖父がこの家にいるかいないか、確認すること自体は簡単だ。実際に上にあがって、すべての部屋を見て回ればいい。

 本当にフィオの祖父がいれば、どういう状況なのかも、おのずとわかるだろう。

(でも……)

 目の前の少年を無視してそれを行うのは、さすがにはばかられた。

(ずっとここにいるのはどう考えても危険だし、フィオもフィオのおじいちゃんも、一緒に行けたら一番いいんだけど……)

 そっと目をやると、フィオはうつむき、まるで置物のように座っている。かたく口をつぐんで、開こうとする気配はなかった。

(ラウルさんがいたときは、もっと普通にしゃべってたのに……)

 ネイは息をつく。やはり、自分の接し方がまずいのだろうか。

(ラウルさん、まだかな)

 人を待つ時間というのは、いやに長く感じるものだ。

(どこまで行ったんだろう……)

 じっと座っていると、不安が黒いシミのようにジワジワと胸の中に広がってくる。思わずふるっと首を振ったとき、キイッと扉が開く、かすかな音がした。

「!」

 ネイはガタッとイスから立ち上がり、フィオもハッと顔をあげる。

「ラウルさん……!」

 ネイは戸口にかけよった。

「遅くなってすまない」

 無事な姿を見て、ほっと胸をなでおろす。だが、ラウルはどこか難しい顔をしていた。

「……なにかあったんですか?」

 うかがうように尋ねる。

「――橋が」

 ラウルが重苦しく告げた。

「橋が、落ちていた」


「――どうやら、あの震動と音は、橋を爆破したときのものだったらしい」

 すぐには事態が飲み込めず、ネイはとりあえず、まばたきをした。

「橋って……あの、沈下橋ですか?」

 ああ、とラウルがうなずく。

「橋のたもとについたときには、もう周辺に人はいなかった。爆破して、すぐに立ち去ったんだろう。遅くなったのは、他に道がないか探していたからなんだけど……」

 ラウルは言いにくそうに、言葉をとぎらせた。

 続きは口に出されなくともわかる。他でもない、ネイ自身が、昨日その道を必死に探したのだから。

(そんな……じゃあ、どうやってここから出れば……)

 ラウルはフィオを見た。

「フィオ、あの橋以外に、ここから出られる道を知らないかい?」

 二人の視線を受けたフィオが、口を開く。

「しってるよ」

(あるんだ、道が――!)

 無意識につめていた息をはく。

「やまのなかのどうくつに、むらのそとにいける、みちがあるよ」

(それって……) 

 ネイはラウルを振りあおいだ。

「それは、村のはずれの細い道をずっと登ったところにある洞窟のことかい?モルモスのすんでいる……」

 フィオはこく、とうなずいた。

「他に、道はないのかい?」

 ラウルが確認すると、フィオはもう一度、うなずく。つまり、ここから出るには、あの洞窟を通るしかないということだ。

(でも、もし洞窟の中で、あの魔物とはちあわせたら――)

 昨晩、あのヒヒのような魔物から必死に逃げたときのことを思い出し、ネイはコートのすそを、ぎゅっと握った。

 けれど、ラウルはフィオをまっすぐ見つめて言う。

「――その道を教えてくれるかい?」

 ネイは思わずラウルを見やった。

「あの、行くんですか……?」

「ああ。他に道はないようだからね。決断を遅らせても、状況は悪化するだけだろうし」

 ラウルは表情をやわらげ、ネイを見る。

「せっかく君が頑張ってくれたんだ。少しでも、ヤツに昨日のダメージが残っているうちに動こう」

 たしかに昨晩、ネイはあの魔物に何度か攻撃を行った。おそらく、たいしたダメージは与えらていないが――影響はゼロではないはずだ。

 一方、フィオは困ったようにうつむいていた。

「……フィオ?」

 ラウルが声をかけると、フィオはゆるゆると首を振る。

「ごめんなさい……」

 ぽつりと言って、ぎゅっと目をつぶった。

「おしえられない」

 



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