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灰色の精霊術師  作者: ミモリ
―第9章― 新たなる事態
29/35

【2】

 え?とネイは戸惑ったようにフィオを見る。

 ラウルはそんなフィオをじっと見つめ、

「――なにか、理由があるんだね」

 静かに言った。

「よければ、話してくれないかい?」

 フィオは目をあけ、おずおずとラウルとネイを見た。

「……そとへいくみちは、むらのひとしかしらないんだ。めいろみたいだから、おにいちゃんたちだけじゃ、まよってしまう」

「つまり、案内してくれる人が必要ということだね」

 フィオはこく、とうなずく。

(案内してくれる人――)

 ネイたちにとっての頼りは、目の前の幼い子供しかいない。

(でも、フィオはおじいちゃんを置いていけないって……)

 フィオは心苦しそうにうつむいている。

「……なんにせよ、今から洞窟に入ったら日が暮れてしまうな」

 ラウルが話を変えるように言った。

「とりあえず、今夜は、ここに泊まらせてもらってもいいかい?」

 フィオはこくこく、と首をたてに振る。その様子を見る限り、歓迎されていないわけではないようだが――。


(それにしても、いったい、だれが橋を爆破したんだろう……)

 そんなことをしなければ、普通に橋を渡ってイシェンに戻れたのに。

 ネイがそう口にすると、ラウルは考えこみながら言った。

「誰が――というのはわからないけど、意味もなくあんなことをするとは思えない。そうする目的があったんだろうね」

「目的……」

 なにか、心当たりはないかい?と、ラウルはフィオに向けて尋ねた。フィオは首を横に振る。

「そうか……」 

 橋を爆破した目的――。

 ネイは自分なりに考えを巡らせてみた。

(橋をこわしたら、外との行き来ができなくなる)

 フィオの言う洞窟内の通路をのぞけば、あの沈下橋が唯一、外につながる道なのだ。

(それって、まるで〝なにか〟を閉じこめようとしたみたい)

〝なにか〟とは。普通に考えれば、

(あの魔物……)

 倒すことができないのなら、外に出ないよう、どうにかして閉じこめておこうとするのではないだろうか。

(でも、いったいだれが――)

 村の人が戻ってきたのか。 

(ここにはフィオも、フィオのおじいちゃんも、まだいるのに……?)

 橋を壊したのがこの村の人だったとしたら、それが腑に落ちない。

(もしかして、フィオたちがここに残っていることを村の人たちは知らないのかな。それとも、まさかイシェンの人が……?)

 うーん、と首をひねる。いくら考えたところで、今の時点ではすべて憶測にすぎない。

 ふとフィオのほうを見ると、いつの間にか、こくり、こくり、と舟をこいでいた。

(疲れちゃったのかな……)

 気づいたラウルが、自分のコートを脱いで小さな背中にそっとかけてやった。戻ってきたラウルの服のすそを、ネイはくいっと引っ張る。

「……ラウルさん」

 小声で呼びかけた。

「ん?」

「あの、実は……」

 チラッとフィオを気にするように目をやると、意図が伝わったのか、ラウルが心持ち耳を寄せる。

「ラウルさんが、外に様子を見に行ってくれてたとき、上からトントンって、足音みたいな音が聞こえたんです。もしかしたら、昨日の魔物かもしれないと思ったんですけど、フィオは〝おじいちゃん〟って……」

 この話をしなければと思っていたのだが、フィオの目の前では、なかなか言い出せなかったのだ。

「〝おじいちゃん〟……」

 ラウルが訝しげな表情を浮かべる。

「あの、フィオは、わたしたちと一緒に行かないのは、おじいちゃんを置いていけないからだって言ってましたよね」

「ああ。それは俺も気になっていたんだ」

「わたし、フィオのおじいちゃんはこの家にいるんじゃないかと思うんです」

 一層、声を落として言う。

「この家に?」

「はい。上から聞こえた音は、フィオのおじいちゃんがたてたんじゃないかなって」

 ラウルは口元に手をあて、二階を見上げる。

「……まあ、あれこれ考えるより、実際に確認したほうが手っとり早いか」

 呟くと、ネイに視線を戻した。

「じゃあ、俺は二階を見てくるから、ネイは念のために一階を見てくれるかい?フィオを起こさないように」

ネイはうなずく。フィオはテーブルの上にうつぶせになり、本格的に寝入っていた。

 ラウルは足音をほとんどたてず、素早く二階に上がっていく。ネイもそっと移動を開始した。

 台所、貯蔵室、風呂場……順番に見て回ったが、人の気配はまったくない。

(それにしても、広い家……)

 間取り自体はネイの家とそう変わらないのだが、一回りほどゆったりとしている。

 最後に書斎をのぞいた。つやつやとした飴色の木で作られた広い机と、座り心地の良さそうな椅子。ずらりと本の並んだ棚。

 祖父の書斎を思い出して、懐かしい気持ちになる。

 もちろん、ここにも人影はなかった。ネイは部屋を出ようと、きびすを返す。

 ――だが、かすかな違和感を感じて、振り返った。

(なんだろう……)

 違和感の正体を見極めようと、ぐるりと慎重に部屋の中を見回す。

 机の上に置いてあるメモ用紙の束が、パタパタと、ほんのわずかだが揺れていた。

(……風?)

 しかし、窓はぴたりと閉ざされている。カーテンも揺れていない。

 ネイは机に近寄った。しゃがんで、床に手をかざす。

(下から風が……)

 冷たい風の流れを感じた。ちょうど、机の下あたりからだ。

(すきま風かな……?) 

 まあ、古い家ならそういうこともあるのだろうと、ネイは立ち上がった。


 




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