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灰色の精霊術師  作者: ミモリ
―第8章― もうひとつの出会い
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【3】

 家全体が、かたかたと細かく震動する。

「っ!?」

 ネイはあたりを見回し、ラウルは険しい表情を浮かべ、フィオは身をかたくした。

 昨夜の爆発を彷彿とさせる状況に、ネイは思わずラウルを見る。ラウルは心当たりがない、というように首を横に振った。

「すぐ近くではなさそうだけど、そう遠くでもないな――」

 カタッとイスを引いて、ラウルが立ち上がる。

「ちょっと様子を見てくるよ。ネイはフィオとここに」

 一緒に行きたかったが、フィオの様子を見やり、ネイはうなずいた。この子を置いて行くことはできない。

「ラウルさん、気をつけて……」

 ああ、と笑って、ラウルはネイの頭をなでた。

「行ってくるよ」


 ラウルを見送ってから、ネイはふたたびイスに腰かけた。だが、心配と不安で、そわそわと落ちつかない。

(なにが起きたんだろう……)

 フィオはというと、向かいの席でテーブルの一点を見つめ、じっと黙りこくっていた。ネイが視線をやっても反応がない。

(どうしよう……)

 膝の上でぎゅっと拳を握る。いざ二人きりで取り残されると、どう接したらいいのか、まるでわからなかった。

 なにか話しかけようと口を開いたが、結局閉じる。かわりに、先ほどのフィオの言葉を思い返した。


『おじいちゃんを、おいていけないから……』


(それって……)

 フィオの祖父も、まだこの村にいるということだろうか。てっきり、村に残っているのは、フィオだけだと思っていたが。

 もう一つ、気にかかっていることがある。

 この家ではじめてフィオに会ったときのことだ。鳥かごを抱えたその姿を見て、なぜこんなことを、とラウルは問うた。

(あのとき、フィオ、おじいちゃんに会いたかったからって言ってたよね)

 つまり、フィオは今、祖父に会えない状態にあるということだ。

(会いたいけど、会えない。でも、置いていけない……)

 どんな状況があるだろうかと、ネイはしばし考えこむ。

(……病気、とかかな)

 フィオの祖父はなにかの病気で動けず、うつるかもしれないので会うこともできない。これなら、つじつまが合う。

(でも、それなら別に、かくすこともないような……)

 いくら考えたところで想像の域をでない。やはり、本人から話を聞かないと、らちがあかないようだ。

 ネイは小さく深呼吸をし、

「……ねえ」

 思いきって、沈黙をやぶった。

「あなたのおじいちゃんは、どこにいるの?」

 フィオはビクリと肩を揺らし、目が合わないよう深くうつむいてしまう。

(えっと……言いたくないってことかな)

 これほど切羽つまった状況にあって、それでも口にできない事情とは、一体なんなのだろう。

(ラウルさんなら、上手に聞けるんだろうけど……)

 ネイは戸口のほうを見やった。爆発音の正体も気になるが、外を出歩けば、昨日の魔物やビークルに出くわす可能性もある。

(だいじょうぶかな……)

 ラウルなら、不測の事態が起こっても上手く対処するとは思うが。


 ドオン―――!


(っ、また……!)

 細かい震動をやり過ごす。

(なんなんだろう、一体……)

 フィオもさすがに顔をあげ、不安そうにしている。

(声とか、かけてあげたほうがいいのかな)

 そのとき、


 タン、タン、タン……


 屋根の上を、なにかが歩くような音がした。

 ネイの心臓がドッと跳ねる。フィオの瞳にも、さっと怯えの色が走った。


 タン、タン、タン……


 頭上から響く物音。

 ネイは天井をじっと見上げながら、音の正体を見極めようと感覚をとぎすませた。 

(また、あの魔物……!?)

 昨夜のことが否が応にもよみがえり、ドク、ドク、と緊張で動悸がする。フィオも身を強ばらせながら、一心に天井を見上げていた。

 ――どのくらいそうしていただろう。

 懸命に耳をすませても、足音はそれきり聞こえなかった。

 ネイは少し、肩の力を抜く。

(鳥とか、だったのかな)

 カラスなどの大きな鳥が屋根の上を歩くと、あんな音をたてるときがある。

 

「おじいちゃん……」


(え――?)

 思わず、フィオを見やる。空色の瞳は、まだ天井を見上げ続けていた。



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