【3】
家全体が、かたかたと細かく震動する。
「っ!?」
ネイはあたりを見回し、ラウルは険しい表情を浮かべ、フィオは身をかたくした。
昨夜の爆発を彷彿とさせる状況に、ネイは思わずラウルを見る。ラウルは心当たりがない、というように首を横に振った。
「すぐ近くではなさそうだけど、そう遠くでもないな――」
カタッとイスを引いて、ラウルが立ち上がる。
「ちょっと様子を見てくるよ。ネイはフィオとここに」
一緒に行きたかったが、フィオの様子を見やり、ネイはうなずいた。この子を置いて行くことはできない。
「ラウルさん、気をつけて……」
ああ、と笑って、ラウルはネイの頭をなでた。
「行ってくるよ」
ラウルを見送ってから、ネイはふたたびイスに腰かけた。だが、心配と不安で、そわそわと落ちつかない。
(なにが起きたんだろう……)
フィオはというと、向かいの席でテーブルの一点を見つめ、じっと黙りこくっていた。ネイが視線をやっても反応がない。
(どうしよう……)
膝の上でぎゅっと拳を握る。いざ二人きりで取り残されると、どう接したらいいのか、まるでわからなかった。
なにか話しかけようと口を開いたが、結局閉じる。かわりに、先ほどのフィオの言葉を思い返した。
『おじいちゃんを、おいていけないから……』
(それって……)
フィオの祖父も、まだこの村にいるということだろうか。てっきり、村に残っているのは、フィオだけだと思っていたが。
もう一つ、気にかかっていることがある。
この家ではじめてフィオに会ったときのことだ。鳥かごを抱えたその姿を見て、なぜこんなことを、とラウルは問うた。
(あのとき、フィオ、おじいちゃんに会いたかったからって言ってたよね)
つまり、フィオは今、祖父に会えない状態にあるということだ。
(会いたいけど、会えない。でも、置いていけない……)
どんな状況があるだろうかと、ネイはしばし考えこむ。
(……病気、とかかな)
フィオの祖父はなにかの病気で動けず、うつるかもしれないので会うこともできない。これなら、つじつまが合う。
(でも、それなら別に、かくすこともないような……)
いくら考えたところで想像の域をでない。やはり、本人から話を聞かないと、らちがあかないようだ。
ネイは小さく深呼吸をし、
「……ねえ」
思いきって、沈黙をやぶった。
「あなたのおじいちゃんは、どこにいるの?」
フィオはビクリと肩を揺らし、目が合わないよう深くうつむいてしまう。
(えっと……言いたくないってことかな)
これほど切羽つまった状況にあって、それでも口にできない事情とは、一体なんなのだろう。
(ラウルさんなら、上手に聞けるんだろうけど……)
ネイは戸口のほうを見やった。爆発音の正体も気になるが、外を出歩けば、昨日の魔物やビークルに出くわす可能性もある。
(だいじょうぶかな……)
ラウルなら、不測の事態が起こっても上手く対処するとは思うが。
ドオン―――!
(っ、また……!)
細かい震動をやり過ごす。
(なんなんだろう、一体……)
フィオもさすがに顔をあげ、不安そうにしている。
(声とか、かけてあげたほうがいいのかな)
そのとき、
タン、タン、タン……
屋根の上を、なにかが歩くような音がした。
ネイの心臓がドッと跳ねる。フィオの瞳にも、さっと怯えの色が走った。
タン、タン、タン……
頭上から響く物音。
ネイは天井をじっと見上げながら、音の正体を見極めようと感覚をとぎすませた。
(また、あの魔物……!?)
昨夜のことが否が応にもよみがえり、ドク、ドク、と緊張で動悸がする。フィオも身を強ばらせながら、一心に天井を見上げていた。
――どのくらいそうしていただろう。
懸命に耳をすませても、足音はそれきり聞こえなかった。
ネイは少し、肩の力を抜く。
(鳥とか、だったのかな)
カラスなどの大きな鳥が屋根の上を歩くと、あんな音をたてるときがある。
「おじいちゃん……」
(え――?)
思わず、フィオを見やる。空色の瞳は、まだ天井を見上げ続けていた。




