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灰色の精霊術師  作者: ミモリ
―第8章― もうひとつの出会い
26/35

【2】

 鳥かごは置いたまま、三人は一階に降りた。

 とりあえず、おのおのテーブルにつく。ラウルのとなりにネイ、二人と向き合うかたちで、フィオが座っている。

 まだ少しぼんやりしている様子のフィオに、ラウルは自分の水筒のふたを開けて、差し出した。

 フィオは両手で受け取り、

「……ありがとう」

 コクコク、と二口ほど飲んでから返した。

「そうだ。先に謝っておかないといけないな。今さらだけど、勝手にあがりこんですまない」

 ラウルの横で、ネイも同じように頭をさげる。

「ううん。ぼくも、とりかごをもっていっちゃって、ごめんなさい……」

 フィオも頭をさげた。しばらくして、三人、同時に顔をあげる。

「おにいちゃんたち、むらのそとからきたんだね」

「ああ。彼女――ネイは、ここにお祖父さんを探しに来たんだ」

 ラウルは自分の事情には触れなかった。たしかに、こんな幼い子供にあえて聞かせる話ではないかもしれない。

「おじいちゃん……?」

 フィオは興味を示したようだ。じっと見つめる視線を受けて、ネイは口を開く。

「わたしのおじいちゃんは精霊術師で、仕事でこの村に行くって……。でも全然帰ってこなくて……」

「なにか知っていることはないかい?」

 ラウルが尋ねると、フィオは二、三度まばたきをして答えた。

「……おにいちゃんたちのまえにも、むらのそとからひとがきたよ。みんなが、そのひとはせいれいじゅつしだって」

「!」

 ネイはバッと顔をあげる。精霊術師はそう数多くいるわけではない。フィオが言っている人物が、ノルである可能性は高かった。

「でも、もういないよ」

「え……?」

「みんなといっしょにいっちゃった」

「……みんなって、村の人たちのことかい?」

 ラウルが確認すると、うん、とフィオはうなずく。

「みんなが、どこに行ったかわかるかい?」

「わかんない……」

 ふるふると横に首を振る。

 ネイは肩を落とした。だが、祖父らしき人物の動向がわかっただけでも進歩だ。

「君はどうして、みんなと一緒に行かなかったんだい?」

 ラウルが重ねて問う。

(そうだ、なんでこんな小さな子を一人置いて――)

「………」

 フィオはうつむいてしまう。よほど言いにくい、もしくは言いたくないことなのだろうか。

「……今まで、一人でどうやって暮らしていたんだい?食べ物とかは?」

「うちにあったのを、ちょっとずつ……」

「そうか。君は賢いんだね」

 ラウルが小さな頭をぽんぽんとなでる。フィオはきょとんとしていたが、いやがるそぶりは見せなかった。

「村の人たちは、どうして出ていってしまったのかな」

「それは……」

「この村で、一体なにがあったんだい?」

 答えやすい質問と答えづらいであろう質問を、意図的に織りまぜている。

 フィオはうつむいたまま、ぎゅっと目を閉じた。その小さな肩も、小刻みに震えている。

「……もしかしたら、君にとって、とても辛いことを聞いているのかもしれないね」

 気遣うように、ラウルは言った。

「けど、ネイはずっとお祖父さんのことを探してるんだ。少しでも手がかりが欲しい」

(ラウルさん……)

 フィオはそろそろと目を開け、じっとネイを見た。空色の瞳が揺れ、幼い唇が何度も開いたり閉じたりする。

 祖父のことがなければ、思わず、もういいよと言ってあげたかった。


「しんじゃったんだ……」


 ぽつりとこぼれた言葉。

「――え?」

「ロロもダンもマリエも、ラスおじさんやカーラおばさんも、にわとりも、やぎも……。たくさん、たくさんしんじゃった」

「どうして……」

 ネイは呆然と呟く。フィオは暗い顔で、またうつむいた。


『俺たちが襲われたあの魔物……。たぶん、今までも頻繁に村を襲っていたんじゃないかな』


(あ――)

 ラウルが聞かせてくれた推測を思い出し、ネイは口に出す。

「魔物……?白いヒゲのある大きな……」

 フィオは目を見開き、かろうじて小さくうなずいた。

「せいれいじゅつしのひとでも、たおすのはむずかしいって……。だから、みんなでにげようってなったんだ。これいじょう、だれもしなないようにって……」

「それなのに、どうして君だけここに残ったんだい?――とても危険なのに」

 ラウルの質問はもっともだった。そもそも、この子の家族が、この子を置いて逃げるだろうか。

(もしかして、家族も魔物に……?)

 たとえそうだとしても、周りの大人がこんな幼い子を放っておくとは思えないが。

「………」

 フィオはうつむいたまま、堅く唇を引き結んでいる。

 ラウルはふっと息をついた。

「俺たちは、ちょうど村を出るところだったんだ。まさか、他に人がいるとは思わなかったけど、気づいて良かった」

 そう言って微笑む。

「君も一緒に行こう」

 フィオは黙って首を横に振った。

「村の人たちが戻ってくるのを待っているのかい?でも、その前に食べる物がなくなってしまうかもしれないし、魔物に襲われてしまうかもしれないよ」

「ぼくはいかない……」

 フィオはかたくなだった。

「どうして――」

 声をあげたのはネイだ。

「いっしょに行こう」

 たまらず立ち上がり、手を差しのべる。

「……から……」

 フィオの唇が、わずかに動く。

「え?」

 

「おじいちゃんを、おいていけないから……」

 

 ドオン―――!

 唐突に、どこかでなにかが爆発したような音が響いた。


 


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