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灰色の精霊術師  作者: ミモリ
―第7章― 脱出
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【3】

 実際、迷っている暇もなく、二人は目の前の袋小路に駆けこんだ。

 誘われるように、ビークルたちがついてくる。

 奥は、高い石垣だった。

 大人の背丈の二倍近くあるその石垣を、ラウルは驚くほどの身軽さで駆けのぼる。

「――ネイ!」


 バチッ、バチバチッ、バチイッ!


 すさまじい紫電が大地を走った。

 こちらに向かってきたビークルは、皆、跳ねるようにひっくり返る。そして、一斉に手足をバタつかせた。

 石垣の上から見下ろしていたラウルは目を見張り、

「精霊術が、ケタ違いといわれる理由がわかるよ……」

 しみじみと呟いた。

 何度目かの雷撃で、ひっくり返ったビークルたちは、どろりと溶けていった。

 それでもまだ、しぶとくもがいていた何匹かは、ラウルが上から矢を射て、とどめをさす。

 集まっていたビークルたちが片づくと、タンッ、と軽い動作で、ラウルが石垣から降りてきた。

「すまない、ネイ。大丈夫かい?」 

「だ、だいじょうぶです」

 さすがに肩で息をしながら、ネイは応える。

「それにしても、これだけの数、今までどこにいたんでしょうか……」

 ビークルたちが溶けていった跡を見つめて呟く。

「昨日、村の中を歩き回ったときは、一匹も見かけなかったのに……」

 うーん、と考えるようにラウルは口元に手を当てた。

「ビークルは普段、わりとおとなしくて、岩影や洞窟の中とか、本来、あまり太陽の光が当たらない場所をすみかにしてるんだ。

 さっきのビークルたちが、山から来たのか、もともとこの村にひっそり住んでいたのかはわからないけど、わざわざ日の下に出て襲ってきたのは……」

 ラウルはそこで一度、言葉を切った。ネイは首をかしげる。

「まあ、考えられるのは、昨日の爆発かな」

「爆発……って、あの、小麦粉の?」

「うん。彼らを刺激してしまったのかもしれないね。自分たちを脅かすと判断したものには、一斉に攻撃的になるから」

「そうなんですね……」

 ネイは感心した。

(ラウルさん、魔物のこと、本当にいろいろ知ってるんだな……)

 わたしも見習わないと、と決心を新たにする。

「あれっ、そういえば、鳥かごは……」

 ふと気づく。ラウルの手には弓しかない。

 ずっと、あのモルモスの入った鳥かごを持っていたはずなのに。

「ああ、途中で置いてきたんだ」

 ラウルが答える。

「片手がふさがってると、石垣に登れないし、弓も使えないからね。すぐそこだから、戻るついでに回収するよ」

 歩き出す背中に、ネイも続いた。


「あれ、たしかにここに……」

 少し戻ったところにある、民家の前の低い石垣の上。

 そこには、なにもなかった。

 ラウルはいぶかしげに眉根を寄せる。

(わたしならともかく、ラウルさんが記憶間違いするはずない)

 こつぜんと橋が消えたり、置いていたものが消えたりと、よくもまあ、不可解なことが次々と起こるものだ。

(橋が消えたのには、一応、理由があったけど……)

 ラウルはじっと、地面を見つめていた。

「一つ多い……」

「え?」

「足跡。俺と、君のと、もう一つある」

 言われて、ネイは足元をよく見てみる。生乾きの大地には、靴の跡がくっきりと残っていた。

「ほんとうだ……」

 目を見開く。

 たしかに、三人分の足跡がある。それぞれ大きさが違うから、すぐにわかった。

「これ、人のですよね」

「ああ。ずいぶん小さい……。子供……?」

 石垣のちょうど前で、立ち止まったような痕跡が見て取れる。

 そのとき、パタン、と扉を閉めるような音が、かすかに聞こえた。

 二人は顔を見合わせる。

 てっきりこの村には、自分たちの他に誰もいないと思いこんでいたが――。

「……足跡を、追ってみよう」

 ラウルが静かに言った。

「ビークルたち、襲ってきませんね……」

 足跡を追いつつ、ネイは辺りを気にしてきょろきょろと視線をやる。

 相変わらず、そこかしこでカサカサと気配はするが、先ほどまでのように、こちらに攻撃してくる様子はない。

「たぶん、警戒体制が解けたんだろう」

「えっ?でも、あれだけ倒したのに……」

「だからだよ」

 ラウルが言った。

「ビークルたちは、目に見えない信号のようなもので互いに繋がってるんだ。けど、一気に大半を倒したことで、その信号が途絶えたんだろうね」

「ええと、じゃあ今は……」

「個々にバラバラな状態だと思う。よっぽど刺激しなければ、群れで襲ってくることはないんじゃないかな」

 ネイは感嘆の息をつく。

「ラウルさん、本当に詳しいんですね……」

「まあ、仕事柄ね。なんにせよ、俺たちの方は警戒しておくに越したことはない」

「はい」


 


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