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灰色の精霊術師  作者: ミモリ
―第7章― 脱出
23/35

【2】

「ラ、ラウルさん……」

これじゃ、らちがあかないな」

 矢をつがえたまま、ラウルは唇を噛む。

「風でけちらしましょうか」

 ネイが言うと、ラウルは首をふった。

「いや、ダメだ。羽を使われるとマズい。きっと一斉に飛んでくる」

(たしかに、あれだけの数のビークルが、一斉に飛んできたら……)

 想像して、背中がゾッとなる。

 だが、そうしている間にも、ビークルたちはカサカサと、こちらへ近づいてきていた。

(炎もダメ。相手の数が多すぎる――。どうすれば……)

 下手に身動きできず、焦りがつのる。

「――ここは、二手に分かれよう」 

 意を決したように、ラウルが言った。

「囲まれる前に、ヤツらを分散するんだ。そのほうが逃げやすい」

「でも――!」

「考えてるヒマはない。ある程度まいたら、村の出入口で合流しよう」

 ラウルが走り出すと、周りのビークルが、つられたようにそちらへ集まっていく。

「ネイ!」

 ラウルの声に、ネイは弾かれたように、逆方向へ駆け出した。

 カサカサ、カサカサ、とビークルたちがついてくる。


 家々のあいだを走りながら、ネイは後ろを振り返り、どれくらい来ているのか確認した。

 二、三十匹といったところだろうか。

(なるべく、ラウルさんから離れないと……。どうにか数を減らすんだ)

 引きつれたまま合流してしまうと、二手に分かれた意味がなくなる。

(けっこう足はやい……)

 立ち止まると追いつかれてしまうので、走り続けるしかないのだが、だんだん息があがってきた。

 ただでさえ、地面がぬかるんでいて足をとられるのだ。

(どうしよう……)

 こんな民家の近くじゃ、飛び火が怖くて炎は使えない。

(冷気がうまく使えたら、相手を凍らせることもできるのに――)

 だが残念ながら、精霊術の四つの属性の中で、ネイは冷気の術の扱いが、最も不得手だった。

 集中すれば出来ないこともないだろうが、今そんな余裕はない。

「――!」

 ネイは足を止める。

 目の前には、とてもよじ登れそうにない高さの板壁。


(しまった――)


 行き止まりだった。

 退路をふさがれ、戻ることもできず、あっという間に取り囲まれる。

(ラウルさん、毒があるって言ってたよね……)

 じりっと後ずさると、靴に泥がくいこむ。

 隙間なく密集するその様子は、さながら黒い絨毯のようだ。虫嫌いの人なら、卒倒してしまいそうな光景だった。

(風もダメ。炎も冷気も――)

 もう逃げ場がない。

(それなら)


 バチイッ!


 ネイの周囲を、まばゆい閃光がほとばしった。

 雷を発生させたのだ。ビークルたちは一斉にひっくり返り、手足をバタつかせる。

「え……?」

 予想外の効果に、自分でもびっくりして、ネイは目をしばたたかせた。

 追いつめられ、とっさに放った攻撃だったが、雨で濡れた大地は、雷を通しやすくなっていたのだろう。

 結果的に、多くの敵を一度に無力化することができた。

 どうやらビークルは、ひっくり返ると、攻撃はおろか、なかなか元の体勢に戻ることもできないらしい。

(雷が弱点だったのかな……)

 とにかく、今が好機だ。

 ふたたび起きあがってくる前に、ネイはしっかりとどめをさし、取り囲んでいたビークルたちを一掃した。

(これでだいぶ減ったよね)

 ラウルとの合流地点である、村の入り口へ急ぐ。

 途中、曲がり角で、向こうから飛び出してきた人影とぶつかりそうになった。

「ラウルさん……!」

「ネイ……!」

 ラウルはさっと背後に目をやる。

「すまない、あらかたまいたけど、少しついてきてる」

 たしかに、五、六匹ほど、ビークルがこちらにカサカサと向かってきていた。

 だが、あれだけいた数を、ここまで減らすとは、さすがとしか言いようがない。

「とりあえず、このまま村の入り口へ!」

 ラウルがうながす。

「そっちのビークルは?」

 尋ねられ、

「あの、雷を放ったら地面に流れて、みんなひっくり返って……」

 ネイは走りながら、一生懸命、説明した。

「なるほど」

 後ろを振り返ると、移動しているうちに合流したのか、追いかけてくるビークルの数が、少し増えていた。

 ラウルは周囲に視線を走らせる。

「――ネイ、あそこへビークルを誘いこもう」

 指さしたのは、家と家のあいだの袋小路。

「ここで一気に片をつけるんだ」

「で、でも……」

 言っていることはわかるが、

「ラウルさんが危険です」

 近くで雷を放てば、ラウルまで感電してしまうおそれがある。

「大丈夫。考えがある。――できるかい?」

「わ、わかりました」



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