【2】
「ラ、ラウルさん……」
「弓じゃ、らちがあかないな」
矢をつがえたまま、ラウルは唇を噛む。
「風でけちらしましょうか」
ネイが言うと、ラウルは首をふった。
「いや、ダメだ。羽を使われるとマズい。きっと一斉に飛んでくる」
(たしかに、あれだけの数のビークルが、一斉に飛んできたら……)
想像して、背中がゾッとなる。
だが、そうしている間にも、ビークルたちはカサカサと、こちらへ近づいてきていた。
(炎もダメ。相手の数が多すぎる――。どうすれば……)
下手に身動きできず、焦りがつのる。
「――ここは、二手に分かれよう」
意を決したように、ラウルが言った。
「囲まれる前に、ヤツらを分散するんだ。そのほうが逃げやすい」
「でも――!」
「考えてるヒマはない。ある程度まいたら、村の出入口で合流しよう」
ラウルが走り出すと、周りのビークルが、つられたようにそちらへ集まっていく。
「ネイ!」
ラウルの声に、ネイは弾かれたように、逆方向へ駆け出した。
カサカサ、カサカサ、とビークルたちがついてくる。
家々のあいだを走りながら、ネイは後ろを振り返り、どれくらい来ているのか確認した。
二、三十匹といったところだろうか。
(なるべく、ラウルさんから離れないと……。どうにか数を減らすんだ)
引きつれたまま合流してしまうと、二手に分かれた意味がなくなる。
(けっこう足はやい……)
立ち止まると追いつかれてしまうので、走り続けるしかないのだが、だんだん息があがってきた。
ただでさえ、地面がぬかるんでいて足をとられるのだ。
(どうしよう……)
こんな民家の近くじゃ、飛び火が怖くて炎は使えない。
(冷気がうまく使えたら、相手を凍らせることもできるのに――)
だが残念ながら、精霊術の四つの属性の中で、ネイは冷気の術の扱いが、最も不得手だった。
集中すれば出来ないこともないだろうが、今そんな余裕はない。
「――!」
ネイは足を止める。
目の前には、とてもよじ登れそうにない高さの板壁。
(しまった――)
行き止まりだった。
退路をふさがれ、戻ることもできず、あっという間に取り囲まれる。
(ラウルさん、毒があるって言ってたよね……)
じりっと後ずさると、靴に泥がくいこむ。
隙間なく密集するその様子は、さながら黒い絨毯のようだ。虫嫌いの人なら、卒倒してしまいそうな光景だった。
(風もダメ。炎も冷気も――)
もう逃げ場がない。
(それなら)
バチイッ!
ネイの周囲を、まばゆい閃光がほとばしった。
雷を発生させたのだ。ビークルたちは一斉にひっくり返り、手足をバタつかせる。
「え……?」
予想外の効果に、自分でもびっくりして、ネイは目をしばたたかせた。
追いつめられ、とっさに放った攻撃だったが、雨で濡れた大地は、雷を通しやすくなっていたのだろう。
結果的に、多くの敵を一度に無力化することができた。
どうやらビークルは、ひっくり返ると、攻撃はおろか、なかなか元の体勢に戻ることもできないらしい。
(雷が弱点だったのかな……)
とにかく、今が好機だ。
ふたたび起きあがってくる前に、ネイはしっかりとどめをさし、取り囲んでいたビークルたちを一掃した。
(これでだいぶ減ったよね)
ラウルとの合流地点である、村の入り口へ急ぐ。
途中、曲がり角で、向こうから飛び出してきた人影とぶつかりそうになった。
「ラウルさん……!」
「ネイ……!」
ラウルはさっと背後に目をやる。
「すまない、あらかたまいたけど、少しついてきてる」
たしかに、五、六匹ほど、ビークルがこちらにカサカサと向かってきていた。
だが、あれだけいた数を、ここまで減らすとは、さすがとしか言いようがない。
「とりあえず、このまま村の入り口へ!」
ラウルがうながす。
「そっちのビークルは?」
尋ねられ、
「あの、雷を放ったら地面に流れて、みんなひっくり返って……」
ネイは走りながら、一生懸命、説明した。
「なるほど」
後ろを振り返ると、移動しているうちに合流したのか、追いかけてくるビークルの数が、少し増えていた。
ラウルは周囲に視線を走らせる。
「――ネイ、あそこへビークルを誘いこもう」
指さしたのは、家と家のあいだの袋小路。
「ここで一気に片をつけるんだ」
「で、でも……」
言っていることはわかるが、
「ラウルさんが危険です」
近くで雷を放てば、ラウルまで感電してしまうおそれがある。
「大丈夫。考えがある。――できるかい?」
「わ、わかりました」




