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灰色の精霊術師  作者: ミモリ
―第6章― 白い悪魔
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【3】

『頼む。ノル、あんたしか頼れる者がいないんだ!』


 ネイの脳裏に、客人の切羽詰まった声がよみがえる。

(おじいちゃんはきっと、あの魔物の退治を依頼されたんだ)

 あれを倒そうと思うなら、精霊術師の力を頼るのは当然のことだ。

(でも、でも、それなら……)

 あの魔物はまだいるのに、ノルはどこに行ってしまったのだろう――。

「あ、あの」

 唇が震えた。

 口に出すのが怖い。でも、口に出さずにはいられなかった。

「村の人たちは、みんな、あの魔物に……」

 殺されてしまったのか。

(誰もいないのは、だから……?おじいちゃんは――)

「いや、それはないと思う。だったらもっと、痕跡が残ってるよ」

 ラウルはきっぱりと否定した。

「家もきちんと施錠されているし、どこかにみんなで逃げた可能性が高い。

 君のお祖父さんも、もしかしたら、その人たちと一緒にいるんじゃないかな」

「そうなんでしょうか……」

 ぎゅっと胸元をにぎり、すがるようにラウルを見る。

「――考えてみたら、君のお祖父さんが受けた依頼は、魔物の退治じゃなくて、住民たちの避難だったのかもしれない」

「え…?」

「ヤツを退治するには、相当な危険がともなう。下手をすれば命さえ落としかねない。でも、そうなったら元も子もない」

 ならば、どうしたか。

「まず、村の人たちを逃がすことを優先したんじゃないかな」

 こじんまりした村とはいえ、全員を移動させるのは大変なことだし、とラウルは言う。

「この村の事情を知っていて、なおかつ魔物にも対処できる協力者が必要だったんだ」

 それに……、とネイを見つめる。

「いくら人助けのためだって、お祖父さんは、自分の命まで懸けるような真似はしないと思うよ」

「どうして――」

 簡単なことだ、と言うふうにラウルは微笑んだ。

「君がいるからだよ」

(わたしが、いるから……?)

「君をたった一人、残すようなことはしないだろう」

(じゃあ、おじいちゃんは無事……?)

 少なくとも、その可能性は低くないと納得でき、ネイは小さく息をつく。

「あの、それなら……村の人たちは結局、どこへ行ってしまったんでしょうか」

「うーん……」

 ラウルはうなる。

「普通に考えると、ここから一番近いイシェンだろうけど……。さすがに村一つぶんの人間が避難していたら、気づくだろうしね」

 隠していても、と意味ありげに呟く。

 ネイが首をかしげると、ラウルは苦笑った。

「イシェンの人たちは、ローニエを忌避しているようだからね。まあ、わからなくもないけど」

(それは……)

 やはり、モルモスの幻にとらわれた人たちの村だからだろうか。

「寄ることは寄ったかもしれないけど、滞在は断られたのかもしれないな。なるべく、関わりたくないと思ってるはずだから」

「そんな――」

 しかたがないんだよ、とラウルは穏やかに言った。

「幻を見ている間はともかく、切れたときが厄介なんだ。場所が近いだけに、イシェンの人たちは、それをよく知っているんだろう。

 ……誰だって、自分の家族や大切な人を守りたいだろう?」

 そう言われると、なにも言えなくなってしまう。

「でも、イシェンに戻って、あらためて情報収集してみたら、なにかわかるかもしれないな……」

 ラウルは口元に手をやり、思案にふける。

 あ、とネイは口を開けた。

「ラウルさん、あの――」

 ん?とラウルが顔をあげる。

「わたし昨日、一度イシェンに戻ろうと思って、渡ってきた橋を探したんです。でも、なくなってて……」

 何度も何度も探したんですけど……とネイは必死に訴えた。

 橋のことは、ずっと聞かなければと思っていたのだ。

 ラウルは二、三回まばたきをし、

「ああ……」

 と思いあたったようにうなずく。

「それは――知らなかったなら、相当焦っただろう」

 深く同情するように言われ、

「え……?」

 今度はネイのほうが目をしばたたかせた。

「あれは沈下橋だよ」

「ちんかばし……」

 耳慣れない単語だった。

「川の水量が増えると、水の下に沈んでしまうんだ。上流にダムでもあるのかもしれないね」

 でも、そうか……と、ラウルはなにかに気づいたように呟く。

「明け方まで雨が降ってたから、通れるかな……」

 一方、ネイは呆気ない種明かしに、ぽかんとするしかない。

「まあ、実際に見てみるしかないか」

 そう結論づけ、ラウルはネイを見やった。

(やっぱり、消えたわけじゃなかったんだ……)

「――ネイ?」

 呼びかけられ、ハッと我にかえる。

「とりあえず、イシェンに戻って情報収集してみよう。村人たちの行方がわかれば、お祖父さんの足取りもつかめるさ」

「あの、でも」

 ネイは思わず尋ねた。

「いいんですか?わたしにつきあってもらっても……。その、まだモルモスを捕まえてないのに……」

 ああ、とラウルは得心したように軽く笑う。

「気にしなくていいよ。さすがに、もう一度洞窟にもぐるのは、危険すぎるし」

 たしかに、洞窟の中であのヒヒのような魔物と鉢合わせしたら、ひとたまりもない。

「それに、モルモスなら――」

 ラウルは天井を指差した。

「あ……」

 そうだった。この村には――。

「ここのは空っぽだったけど、前の家で君が見たっていうほうを回収していくよ」

 それでなくとも、とラウルは表情をあらためて、ネイを見つめた。

「君には返しきれない恩がある。少しでも助けになれることがあるなら、手伝わせてほしい」

 正直、一人で祖父を探すのは心細かったのだ。ラウルが手伝ってくれるなら、これほど心強いことはない。

「ありがとうございます」

 ネイは感謝をこめて、頭をさげた。


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