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灰色の精霊術師  作者: ミモリ
―第6章― 白い悪魔
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【2】

 淡々と、ラウルは語る。

「モルモスがいるあいだは、比較的まともに暮らせるんだ。でも、それが切れると、ひどく情緒不安定になって、人が変わってしまう」

 まあ、もういないはずの人間をいると思いこんでる時点で、まともじゃないんだけど、と微苦笑を浮かべる。

「………」

 なんと言ったらいいのかわからず、ネイは黙って耳をかたむけるしかなかった。

「俺には弟がいるんだ。年は、君より少し下くらいかな」

 可愛がっているのだろう。ラウルの表情が柔らかくなる。

「父親が亡くなったのは、弟が生まれてすぐだった。俺はちょうど、君くらいの年で……」

 過去を思い起こすように、暗青色の瞳が細められた。

「残されたのは、心を壊した母親と、生まれたばかりの赤ん坊――」

 正直、途方にくれたよ、と苦笑う。

「そのうち、母親はどこからかモルモスを手に入れてきた……。けっこう高価なものなんだけどね」

 そして、幻におぼれるようになった。

「でも、幸か不幸か、それからわりと、穏やかな生活が送れるようになったんだ」

 ある意味、幻が母親の心を救ってくれたのかもしれないな……と呟く。

「もちろん、本当の意味での救いじゃないけどね」

「……だから、ラウルさんはお母さんのためにモルモスを……?」

 ネイは考え考え、言葉をつむいだ。

 ラウルは静かに首を振る。

「言ったろう?幻覚の効果が切れると、人が変わってしまうって」

 その声音が固くなった。

「――弟に、なにをするかわからない」

 ネイは息を飲んだ。

「弟は父親に似て、身体が弱くてね。日々の大半をベッドの上で過ごしてるんだ。だから、せめて家の中では、穏やかな日常を与えてやりたい。

 ……たとえそれが、まやかしだとしてもね」

 ネイの表情を見て、

「もちろん、母親のことは好きだよ」

 どこか困ったような顔で、ラウルは微笑んだ。

(ラウルさんは、弟さんのために、この村に来たんだ……)

 そして、モルモスを捕らえるために、一人洞窟に入った。

 魔物の飼育は難しいと言っていたが、不可能というわけではないのだろう。

「――ごめん。長々とこんな話をしてしまって」

 ラウルが短く息をついた。ぶんぶん、とネイは首を振る。

「わたしこそ、ごめんなさい……」

 自分が、無理に聞き出してしまったようなものだ。

「君にはつい、いろいろ話してしまうな……。弟とあまり変わらない年なのに」

 ラウルは微苦笑を浮かべる。

「俺からも、あらためて聞いていいかな。ネイ、君はどうしてローニエに?」

「わたしは――」

 ネイは、自分がこの村に来ることになったいきさつを話した。


「そうか……」

 口元に手をあてて、ラウルは考えこむ。

「ここに初めて着いたとき、人っ子一人いなくて驚いたけど――お祖父さんが受けた仕事と、村がこんな状態になっていることは、やはり、なにか関係があるんだろうな……」

 ラウルが部屋の中をぐるりと見渡す。

 ネイも、同じように室内を見回してみた。床やテーブルもわりと綺麗で、ほこりもあまり積もっていない。

「どう思う?」

 尋ねられ、ネイは感じたままを口にした。

「きれいだと思います」

「うん。村や家の中の状態を見るに、ごく最近まで、村人たちはここで暮らしてたんだろうね」

 たしかに、村全体の様子にしても、長い間、放置されていた感じではなかった。

「でも、村人全員が姿を消さなければならないような〝なにか〟があった」

「なにか……」

 起こりえそうな可能性を、ネイは懸命に思い浮かべる。

(病気が流行った、とか……?)

「これは、あくまで俺の予想なんだけど」

 そう言いおいて、ラウルが口を開いた。

「昨夜、俺たちが襲われたあの魔物……。たぶん、今までも頻繁に村を襲っていたんじゃないかな」

 ネイはえっ、と顔をあげる。

「村に下りてきたのは、きっと昨日が初めてじゃない」

「どういうことですか……?」

「自分の縄張りの外に来たにしては、あまり警戒心がなかったんだ。なんというか、人里に慣れている感じがした」

 それに――とラウルは眉根を寄せる。

「ヤツが、わざわざ村までやってきて人を狩るのは、おそらく捕食が目的じゃない」

「食べるのが目的じゃない……?」

「うん。……実は昨日、ヤツに追われているときに一度、危うく捕まりそうになったんだ。でも、ヤツはわざと俺を逃がした」

「どうして……」

 あ、とネイは思い出す。

(そういえば、昨日もラウルさん言ってた)

「逃げ惑う獲物を追いつめる――その行為自体を、楽しんでいたんだろう」

(まるでゲームみたいにって……)

「……じゃあ、村の人たちがみんないなくなったのは、あの魔物が原因……?」

 昨夜のように、村人たちを追いつめて、楽しんでは殺していたのだろうか。

(だとしたら、なんて……)

 ネイは膝の上に置いた手を、ぎゅっと握る。

「今わかっていることだけを元に推測すると、とりあえずは辻褄があう。本当のところは、まだわからないけどね」



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