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灰色の精霊術師  作者: ミモリ
―第5章― 襲撃
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【4】

 前の家は、位置がバレているかもしれないということで、別の家にお邪魔することになった。

 申し訳ないが、再び鍵を壊し、中に入らせてもらう。

 明かりをつけることができないため、室内は真っ暗だ。床に敷かれた、かたい絨毯の上に、それぞれ座る。

 なんとか人ここちついた頃には、雨は本降りになっていた。

 ラウルが口を開く。

「追いかけられているとき、助けられなくてすまなかった。下手に出ていけば、かえって足を引っ張りかねないと思って」

「そんな、わたしが勝手に……」

 ネイは慌てて首をふった。

「幸い、君はうまく逃げてくれた。そのうち、ヤツがかくれんぼに飽きて、あきらめてくれればよかったんだが……」

 そのような気配はまったくなかった。

「きっと、俺たちを見つけるまで探し続けただろうね――」

 隠れていたときの心境を思い出し、ネイはきゅっと唇を引き結んだ。

「このままでは、君も俺も、もたないと思った。なんとかヤツを追いはらわなければと必死で考えたよ。だがおそらく、ヤツはちょっとしたことでは動じない――」

 ネイはうなずく。

「だから、爆発を起こしたんだ」

「えっ?」

 思わず、まばたきをしてラウルを見た。

「ちょうど家から程よく離れた場所に、ぽつんと小屋があったから、中に小麦粉を振りまいて火をつけたんだよ」

「こ、小麦粉……?」

 頭の中を、疑問符が渦まく。

「小麦粉とか砂糖とか、そういう細かい粉塵に、火花などが引火して爆発が起きるっていう現象があるんだ」

 上手くいってよかったよ、とラウルはしみじみ呟いた。

「派手に爆発したわりには、まわりに延焼せずにすんだし、おまけに雨も降ってきてくれた」

 小屋の持ち主には申し訳なかったけど、と苦笑いする。

 ネイは呆気にとられ、すぐには言葉が出てこなかった。けれど、彼の機転がなかったら、いずれあの魔物に見つかっていただろう。

「ラウルさん、ありがとうございました」

 深く頭を下げる。

「いや、そもそも君が外に出たのは俺のせいだ。俺が戻らなければ、君が探しに出るだろうということくらい予想できたのに……」

 ネイはただ、無言で首をふった。

「とにかく、二人とも無事でよかったよ」

 目が慣れてきたのか、ラウルはネイの頭を、ぽんぽん、となでた。


「そういえば、夕食がまだだったね」

 ネイも言われて初めて気づく。それどころではなかったので、すっかり忘れていた。

 ラウルが取ってきた荷物の中には、乾燥させたパンや干し肉など、日持ちのする食料も入っていた。

 それを分けてもらい、ささやかな夕食をとる。

 食べ終わった頃、ネイは唐突に思い出した。

「そうだ、わたし、ラウルさんに話さなきゃと思ってたことがあって……」

「うん?」

 前の家で見た、鳥かごの中の白い魔物について説明する。

「モルモスを……」

 ラウルが思案げに呟く。

「わかった。明日、あらためて調べてみよう」

 ネイはうなずいた。

「朝までまだ大分あるな……」

 ラウルは軽く伸びをする。

「今日はもう眠ろう。休めるときに休んでおかないと」

 壁にもたれるなり、まぶたをおろす。相当、疲れているのだろう。

「おやすみ、ネイ」

「おやすみなさい……」


「………」

 横になったものの、ネイの目は、ぱっちりとさえていた。

 神経が高ぶっているようだ。とりあえず目を閉じ、今日一日を振り返ってみる。

(本当に、いろいろあったな……)

 夜明け前にイシェンの村を出て。

 真っ暗なトンネルを通り、ローニエに着いたけれど、誰もいなくて。

 おまけに橋が消えて戻れなくなって――。

(そうだ。橋のことは、明日ラウルさんにも聞いてみなくちゃ)

 それから、また真っ暗な洞窟に入って。蜘蛛のような魔物や、白い蛾のような魔物に襲われて。

 祖父の幻を見て。ラウルに出会って。

(そういえば、イシェンで話を聞いたときにおじさんが言ってた若者って、やっぱりラウルさんのことなのかな)

 なんとか洞窟を出たところで、ヒヒのような姿の魔物を見かけ、その魔物が村まで降りてきて――。

 思わず、ふうっと息をつく。本当に長い一日だった。

 なんだか、当たり前のように祖父といた日常が、ずいぶん昔のことのようだ。

 ネイはもぞもぞと身体を小さく丸めた。

 絨毯の上とはいえ、やはり、薄手のコート一枚で眠るには肌寒い。

(おじいちゃん……)

 ザーザーという雨音を聞いているうちに、ネイは深い眠りに引きこまれていった。

 


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