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灰色の精霊術師  作者: ミモリ
―第5章― 襲撃
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【3】

 念のために真ん中のほうへ行き、ネイはしゃがんで膝を抱えた。

 炎を消してしまうと、どこまでが床下なのか、外との境目がわからなくなる。

 自分が目を開けているのか、閉じているのかさえ――。

 黒一色の世界の中、ネイは息を殺して神経を研ぎ澄ませた。


   ハアァ、ハアァ、ハアァァ

  

(きた――)

 膝を抱える手に、ぎゅっと力がこもる。

 闇の中、響く魔物の息づかい。

 

     ハアァ、ハアァ


 近づいたと思ったら遠ざかり、遠ざかったと思ったら、また近づいてくる。

 タン、タン、という屋根をつたう音。また上から探しているようだ。

(はやくあきらめて……)

 立ち向かっても、ネイ一人でどうにかなる相手ではない。

 どうにかやり過ごすしかないのだが、こうして隠れているだけでも、気力と体力はどんどん削られていく。

 一体、いつまで耐えればいいのか――。

 時間が異様に長く感じられる。

「……?」

 ネイは訝しげに眉をひそめた。

 足音の響き方、振動、この息づかいの近さ。

 ドッドッと心臓が脈打つ。


 ――真上に、いる。


(気づかないで……!)

 ぎゅっと目を閉じ、祈るように念じる。

 見つかれば、逃げきれる保証はない。

  


     ――怖い。



 少しでもはやく、この悪夢のような時間が終わってほしかった。

 そのとき、


 ドオオオオオン!


 なにか、大きな爆発音が響いた。

 衝撃で地面が震える。

(な、なに……!?)

 状況がわからず、ネイは呆然とかたまる。

 かすかにただよってくる、きな臭いにおい。

 なにが起こったのか確かめたいが、今出て行けば、魔物と鉢合わせしてしまう可能性が高かった。

 うずくまったまま、じっと耐える。

 

 ――どのくらい経っただろうか。

 耳をすましても、魔物の足音や息づかいは聞こえない。

(もう、出てもだいじょうぶ……?)

 炎をひかえめに灯し、そろそろと床下からはい出る。

 警戒しながらあたりを見回すが、魔物の姿はなかった。

 ほっと息をつく。

 さっきの爆発音で、さすがにどこかへ行ってしまったのだろう。

(一体、なにが……)

 とにかく状況を確認しようと、注意をはらいつつ村の中を歩いていると、見知った姿が視界に映った。

「ラウルさん……!」

 急いで駆けよる。

「ネイ」

 気づいたラウルが、こちらに向き直った。

「よかった……無事で……」

 安堵のあまり、しゃがみこみそうになる。

「すまない、心配かけたね」

 ラウルはネイを支えながら、ぽんぽん、と頭をなでてくれた。

「荷物を取りに行った帰りに、ヤツに出くわしたんだ。君が見たっていう魔物だと、すぐにわかったよ」

 ラウルが言った。

「あの魔物、村まで降りてきてたんですね……」

「もしかしたら、俺たちの後をついてきていたのかもしれない」

 想像して、ネイは背中がぞっとした。

「なんとかまいたんだけど、一向にあきらめてくれなくて。なんというか、あれは……」

 適切な言葉を探すように、ラウルは口元に手をやる。

「そう、楽しんでいた――」

「楽しむ……?」

「うん。獲物が恐れて逃げ惑うのを。そして自分がそれを追いつめるのを……。まるでゲームのようにね」

 ネイは言葉も出ない。

「魔物は本能や習性のみで行動すると思っていたけど、ヤツには知性があるんだろうね。人に近い……」

 おそろしいヤツだよ、とラウルは呟いた。

「そういうわけで、なかなか戻れなくて。どうにか君に、外に出るなと伝えられればよかったんだが……」

「わたし、全然、気づかなくて……」

「そりゃあ、ヤツに気づかれないよう、全力で気配を消してたからね」

 ラウルが軽く笑う。

「そういうのはわりと得意なんだ。本職は狩人だから」

 そういえば、いつの間にか、ラウルは弓と矢筒を背おっていた。

「洞窟に入るときは、かえってジャマになるかと置いてきたんだけどね」

 ラウルは背中の弓に触れる。

「獲物を追いかけるのは慣れてるけど、追いかけられるのは全然だな……」

 そこでネイは、ハッとした。

「そうだ、ラウルさん!わたし、隠れているときに、なにかが爆発したみたいな音を聞いて――」

「ああ、それは……」

 ラウルが微苦笑を浮かべる。

 そのとき、ポツ、ポツ、と冷たい雫が頬にあたった。

「雨……?」

 確かめるように、ネイは手のひらを広げて受ける。

「とりあえず、家の中で話そうか」

 どちらにせよ、このまま外で立ち話を続けるのは危険だ。 いつまた、あの魔物が 戻ってくるかわからない。

 ラウルはネイをうながし、歩き出した。

 


 

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