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灰色の精霊術師  作者: ミモリ
―第4章― 出会い
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【3】

 ネイの先導で、通路を逆にたどっていく。

 ほどなく、ネイが方向を見失ってしまった分岐点にたどりついた。

 目の前には通路が三つ。

「ここで、どっちから来たか、わからなくなってしまって……」

 なるほど、とラウルは口元に手をあてる。

「こっちは今通ってきた道だから、帰り道は残りの二つのどちらかってわけか」

 そのとき、パタパタ、と覚えのある羽音が聞こえた。 

 ぎく、と身体がこわばる。

「――炎を消して、とりあえず、こっちに!」

 ラウルが早口でささやき、ぐっとネイの手を引いた。

 片方の通路に飛びこみ、二人して壁ぎわに身を寄せる。

 そのまま暗闇の中でじっと押し黙っていると、羽音はだんだんと遠ざかっていった。

 ふーっとラウルが息をつく。

「近くに巣があるのかもしれないな……」

「もう、炎をつけても大丈夫でしょうか……?」

「うん。でも念のためにおさえめに」

 ネイはうなずいて、ぼおっと弱めの炎を生み出した。

「引き返すのもなんだし、こっちに進んでみようか」


 通路を進みながら、ラウルが言った。

「モルモスの鱗粉には、幻覚を見せる力があるんだ。心に強く思っていることや、人が現れると言われてる」

(ああ、だから――)

 わたしにはおじいちゃんが見えたのか、とネイは納得する。

「だけど、その鱗粉には強い依存性があって、やがて、それ無しではいられなくなってしまう」

「え……」

 ネイは思わず足を止め、かたまった。

「一度くらいなら、大丈夫だよ」

 ラウルが安心させるように笑う。でも――と、その顔がスッとかげった。

「危険だとわかっていても、使わずにはいられない人もいる。……たとえば」

 ラウルは苦く微笑んだ。

「もう二度と会えない人に会うために、とかね。それが、白い悪魔と呼ばれる由縁だよ」


 通路の出口にあった石の矢印を見て、ラウルが笑った。

「どうやら当たりみたいだ」

 ネイも胸をなでおろす。

「ここからは、右の通路を選んでいけば戻れると思います」

 途中、大型のネズミのような魔物に遭遇したが、幸い、ネイの炎でわりとあっさり撃退することができた。

 その後は順調に進み、行きに延々と下ってきた坂を、今度はひたすら登る。

 登っても登っても地上に出られないので、途中、不安になりかけたが、なんとか無事に、洞窟の出口にたどりつくことができた。


 洞窟を出た途端、世界の明るさに、ネイはどっと全身が安堵するのを感じた。

 真っ赤に染まった空を、ラウルが眩しそうに見やる。

「日没には、ぎりぎり間に合ったみたいだね」

 光の下で見ると、ラウルの髪と瞳は、真夜中の空のような深い青色をしていた。

 同じように空を見上げ、ネイは新鮮な空気を思いきり吸いこむ。

 二人して、しばらくその場にたたずんでいたが、やはり、じっとしていると風の冷たさがこたえる。

「――とりあえず、村に戻ろうか」

 声をかけられ、ネイはうなずいた。

 ラウルの後について、村へつながる細い道を降りようとした、そのとき。

 ネイはふと、なにかの気配を感じて、背後を振り返った。

 そこには、今しがた出てきた洞窟が、真っ黒な口をぽっかりと開けている。

 まるで、異界への入り口のようだ。

 あの向こうが同じ世界とは、とても思えなかった。またあそこに入るには、少し身体と精神を休ませなければ……。

 それはともかく、周囲に変わったところはないし、

(気のせいかな……)

 向き直ろうとしたのだが、なにげなく視線を上向けて――ネイはぎくりと固まった。


(な、に……?)


 切り立った山肌の上に、なにかがいた。

 真っ白な毛皮。姿はヒヒに似ている。人間の大人より、一回りは大きい。

 あごの下には、翁のごとく長い髭をたくわえており、それが猿のような顔面と相まって、やけに人間じみているのが不気味だった。

 それは、紅色に燃え上がる空を背にして、ネイたちをじっと見下ろしていた。

 がらんどうの、赤い瞳で――。

「ネイ……?」

 ネイがついてきていないことに気づき、ラウルが道を引き返してきた。

 ネイは振り向き、

「ラウルさん、今――」

 また山肌の上に視線を戻すと、そこにはもう、なんの姿もなかった。

「いない……」

 呆然と呟く。

「なにか見たのか?」

 尋ねられ、ネイはさっき目にしたものについて説明した。

「そうか……」

 ラウルは口元に手を当てて考えこむ。

「そんなヤツが近くにいるとは厄介だな。襲ってこなかったということは、様子を見ていたのか……」

 山肌の上を振りあおぐ。

 夕闇が一段濃くなっていた。

「なんにせよ、向こうが俺たちに気づいているということは、十分警戒しないと」

 ネイは神妙にうなずいた。



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