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灰色の精霊術師  作者: ミモリ
―第4章― 出会い
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【2】

 納得したように息をつくと、男性はふたたびまぶたを閉じ、自分の身体を抱くように、片手を腕にやった。

(寒いんだ……!)

 ネイは慌てて、だらんと下がったもう片方の手を握る。

(つめたい……)

 それに、細かく震えていた。

(なんですぐに気づかなかったんだろう!)

 自分だって、さっき目覚めたとき、身体中が冷えきっていたではないか。

 まして、こんな水辺だ。彼がいつからここに、こうしていたのかはわからないが――。

(あったかい飲み物とかがあればいいんだろうけど……)

 ここにはない。

 ネイは精霊術の炎で、火傷をさせないよう気をつけながら、じんわりと冷えた身体をあたためた。

 根気強く炎をかざしていると、だんだんと握っている手にぬくもりが戻ってくる。

 震えも、いつの間にか止んでいた。

「――ありがとう」

 目を開けた男性が、しっかりとした口ぶりで言った。

 ネイはほっと息をつく。

(よかった……)

 握っていた手を離すと、

「あの、よかったら、これ……」

 ネイは鞄から水筒を取りだし、差し出した。

 ああ、と男性は微笑む。

「自分の分があるんだ。大丈夫、ありがとう」

 言葉通り、男性は自分の水筒を取りだして、中の水を少し飲んだ。

 人ごこちついたのか、ネイに向き直ると、

「君のおかげで助かった……。君がいなかったら、俺はきっと、そのまま死んでいただろうな」

 あらためた様子で頭をさげた。

「本当に、ありがとう」

 ネイはふるふると軽く首を振る。

「君は、村の子かい?」

 問われて、もう一度、首を振った。 

「そうなのか?てっきり――」

 男性は驚いたように目を見開く。

「まさか、こんな迷宮みたいな洞窟の奥深くで、人に会えるとは思ってなかったから……」

 まして君みたいな女の子に、と。

「ローニエには、祖父を探しにきたんです」

 ネイが答えると、

「そうか……。じゃあ俺は、本当に幸運だったんだな」

 男性はしみじみと言った。

「あのまま誰にも気づいてもらえず、こんなところで孤独に……と思うと、心底ぞっとするよ」

 男性はネイに左手を差し出す。

「俺はラウル。君は……?」

「ネイです」

 ネイがおずおずと手を取ると、しっかりと握り返された。

 今はもう、すっかりあたたかい。

 そのことに安堵していると、ラウルは目を閉じて、噛みしめるように言った。

「ネイ――君は俺の命の恩人だ」


 背後の岩壁に寄りかかり、ラウルはため息をついた。

「実は、どこをどうやって来たか、あまり記憶がないんだ……。最初は目印をつけながら進んでたんだけど、途中で魔物に襲われて……」

 もうろうとする意識の中、水の音だけを頼りにここにたどりついたらしい。

「松明もどこかで落としてしまったみたいだし……」

 からっぽの両手を広げ、肩をすくめる。

 わたしも、とネイは口を開いた。

「白い蛾みたいな魔物に襲われました。そのあと、なんだかぼうっとして……」

「――幻を見た?」

「あ、はい。祖父の……」

 ラウルには心当たりがあるようだった。

「そいつはモルモスだよ。俺が襲われた魔物と同じだ」

「モルモス……」

「白い悪魔、とも呼ばれてる」

 ところで――と、ラウルはネイに尋ねた。

「君がここに入ったのは、いつ頃だった?」

「たしか……お昼すぎでした」 

「それからどのくらい経ったかわかる?」

 ネイは少し思案する。モルモスに襲われたあと、しばらく意識を失っていたので、正確なところはわからないが、

「まだ、夕刻にはなってないと思うんですけど……」

「そうか。俺が入ったのは朝方なんだ」

 一日は経ってないというわけか、とラウルが呟く。

「どちらにせよ、急いで出たほうが良さそうだ。ここは魔物もいるから、夜になるとやっかいだし」

 ラウルは壁に手をつきながら、ゆっくりと立ち上がった。

 手足を動かし、

「……なんとか動けそうだな」

 自身の状態を確認すると、ネイに視線を向ける。

「とりあえず、一度、村に戻ろう」

 ネイはうなずいた。

 ここまでずっと一人だったのだ。一緒にいてくれる人がいるのは心強い。

 ラウルはぐるりと周囲を見渡した。

「どっちから来たかわかる?」

「ええと、あっちの入り口から……」

 指し示すように炎を向ける。手のひらの上で揺らめくその炎を見つめ、

「――君は精霊術が使えるんだね」

 ラウルが言った。

「はい。祖父が精霊術師で……」

 ネイはバッと顔をあげ、

「あの、ラウルさんは村の人ですか!?」

 勢いこんで尋ねた。ラウルは静かに首を横に振る。

「いや、俺も外から来たんだ。ここに来て人に会ったのは、君が初めてだよ」

「そうですか……」

 なんとなく事情を察したのだろう。

 うつむくネイの頭を、ぽんぽん、と軽くラウルがなでてくれた。

「お祖父さん、必ず見つかるさ。なんだったら一緒に探すよ」

「ありがとうございます……」

 年の離れた兄がいたら、こんな感じだろうか……。

 なでられた頭に手をやり、ネイは思った。


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