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灰色の精霊術師  作者: ミモリ
―第4章― 出会い
12/35

【1】

(こんなに長かったかな……)

 行けども行けども、分岐点にたどりつかない。

 元の通路は、これほど歩かなかったような気がする。

(間違えた……?)

 ネイは足を止めた。

(……戻ろう)

 引き返しかけたときだ。パタパタ、と覚えのある羽音が微かに聞こえた。

「っ!」

 ネイは慌てて炎を消し、なるべく気配を絶って壁ぎわにうずくまる。

 どうやら羽音は、今通って来たほうの通路から聞こえてくるようだ。

(どうしよう……)

 やりすごせるまでここで待つか、それとも――。

 考えているうちに、いつの間にか羽音は聞こえなくなっていた。だが、今戻ったら鉢合わせしてしまう可能性がある。

 またあの鱗粉を吸いこむことは、絶対に避けたい。

 少しためらったあと、結局、引き返さずに、このまま進んでみることにした。

(先の様子を見てから、どうするかまた考えよう)

 例の魔物を引きつけないよう、少しおさえめの炎をともす。

 しばらく歩いていると、今度は水の流れる音が聞こえてきた。

(川……?洞窟の、こんな地下に?)

 ちょうど分岐点についたが、やはり元の通路ではなかったらしく、石の目印はない。

 通路は、三つに枝分かれしていた。

 ネイは水の音に引き寄せられるように、右端の道を選ぶ。

 もちろん、目印を作るのは忘れずに。

 進むにつれ、だんだん水音が大きくなり、湿気も増してきた。

 やがて、唐突に通路を抜ける。

 目の前を、川が流れていた。幅は大人が一人横たわったくらいだが、水量はかなりある。

 水面をのぞきこんだ。

(飲めるのかな……)

 まわりが真っ暗な中、炎の明かりだけが頼りなので、色がわかりにくい。けれど、極端ににごってはいないようだ。

 ネイは水筒を空にしてしまったことが、気になっていた。

 足を踏み外さないよう気をつけながら、左手で水をすくう。

 口にふくんで、変な味がしないか確かめてから、飲みこんだ。

(うん。だいじょうぶそう。……たぶん)

 鞄から水筒を取り出し、中を満たんにする。

(よかった……)

 水という命綱を補給できたことで、心にも少しゆとりが生まれてきた。

(ここでちょっと休憩したら、来た道を戻ろう)

 途中でまた魔物に会ったら、そのときはそのときだ。どうにかやりすごそう、と腹をくくる。

 とりあえず、あたりの様子を把握しようと、ネイは炎をかかげて周囲を見回してみた。

(――え)

 視界の端に映ったものに、ギクッと体がこわばる。ほとんど本能的に。

 おそるおそる、もう一度、それが映った方向に明かりを向けた。

 ぼんやりと浮かびあがったのは――

(人の、足……)


 足から胴へ、そして顔へ。徐々に明かりを照らしていく。

 ――やはり、人間だった。

 岩壁にぐったりともたれかかっており、うつむいているせいで顔はわからないが、体型からして男性だろう。

 それにしても、ピクリとも動かない。

 普通、こんな場所で自分以外の人間に会ったなら、声をあげるなり、なにか反応するものではないだろうか。

(どうしよう……)

 心臓が早鐘を打ち始める。

 もしかすると、なんらかの理由で帰れなくなり、ここですでに力尽きてしまったのかもしれない。

 だが発見してしまった以上、見て見ぬふりはできなかった。

「あ、あの……」

 一歩か二歩近づいて、声をかける。

 しかし、流れる水の音にかき消されてしまった。

 思いきって、もう少し近づいてみる。

「あの……っ」

 人影は微動だにしない。

(やっぱり、この人、もう……)

 目をふせる。

 心がくじけそうだった。それでも、万が一ということがある。

 ネイは心臓のあたりでギュッとこぶしを握り、そろそろと人影に歩み寄ると、その体を軽く揺さぶってみた。

「だ、だいじょうぶですか……?」

 すると、微かに空気がもれでるような音がした。

 ネイは慌てて、顔を近づける。

 男性の唇が、ほんのわずかに動いていた。

(この人、生きてる……!)

「あの、わかりますか……?」

 うかがうように尋ねると、男性はまぶたをあげて、ぼんやりとネイのほうを見た。

 ネイよりは年上だろうが、まだ若い。肩口まである髪を、首の後ろで結っている。

 男性は、炎が眩しいのか目をすがめ、

「…カーム……?」

 かすれた声でなにか呟いた。

 ネイが戸惑っていると、今度ははっきりと目があう。

「きみ、は……」

 男性はあたりに視線をやった。

「ここは……」

 記憶が少し混乱しているのだろうか。

「ローニエの、村の近くの洞窟です」

 ネイが答えると、

「ローニエ……ああ、そうだ」

 瞳に、じわじわと理解の色が広がった。



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