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灰色の精霊術師  作者: ミモリ
―第3章 ― 手がかりを求めて
11/35

【4】

 ネイはためしに、ずっと右手の上にともしていた炎を消してみた。

 途端に、あたりは真の闇に包まれる。

 そろそろと壁ぎわに寄り、うずくまってじっと息を殺した。

 しばらくパタパタと飛び回る羽音がしていたが、徐々に遠のいていき、やがてしんと静まりかえる。

 ほーっと息をついた。

 どうやら、やり過ごすことができたようだ。

(やっぱりあの魔物たち、炎の明かりに誘われてたんだ……)

 明かりがないと歩けそうにないが、すぐに炎をともすと、また彼らが戻ってくるかもしれない。

(もう少し、ここで様子をみよう)

 ――それにしても冷える。

 ネイはコートの襟をかきあわせた。歩いているときは、さほど感じなかったのだが。

(炎を持ってたからかな……)

 どうやら明かりだけでなく、暖もとれていたらしい。

 せめて、と自分の体を抱きしめるように丸めた。

 どのくらいそうしていただろうか。

 なんだか頭の芯がぼんやりとしてきた。

「……?」

 ネイはいぶかしげに眉根を寄せる。

 とりあえず立ち上がろうとしたが、ガクリと膝をついてしまった。力が入らない。

(なんで……)

 思い当たるのは、さきほどの魔物たち。

 あれがまきちらしていた鱗粉を、少し吸いこんでしまった。

(まさか、毒……?)

 背中を冷たいものが走る。遅効性のものだったのだろうか。

 ネイは鞄の中を探り、水を取り出すと、全て飲みほした。貴重なものだが、惜しんでいる場合ではない。

 これで、少しでも体内の毒が薄まるとよいのだが――。

 幸い、というべきか、苦しさはなかった。ただ、頭も体もふわふわとして、思考がまとまらない。

 岩壁に寄りかかり、少しでも楽な姿勢をとった。

 自分の手足さえ見えない真っ暗な闇の中、

だんだんと自分がどこにいるのかさえ、わからなくなってくる。

(あれ、わたし……)


(ここに、なにしにきてたんだっけ――)


 コツ、コツ、と足音が近づいてくる。

 それは、ネイの前でピタリと止まった。

(だれ……?)

 のろのろと顔をあげる。


〝――ネイ〟


 懐かしい声だ。そして、一番聞きたかった声。

「おじいちゃん……?」

 目の前で祖父が優しく微笑む。

「よかった……。わたし、ずっと探してたんだよ」

 わかってるよ、というようにノルは大きな手で頭をなでてくれた。

「会いたかった」

 祖父はうなずく。すまなかった、と。

「おじいちゃん、一緒に帰ろう」

 ネイは手を差し出す。


〝ああ、帰ろう――〟



 ピチャン――……

 なにか、冷たいものが頬をうった。

(み、ず……?)

 瞬間、状況がわからなくなる。視界が真っ暗でなにも見えないのだ。

 ついさっきまで、祖父の顔がはっきり見えていたのに――。


「……おじい、ちゃん……?」


 声がかすれる。

 喉を震わせる感覚に、ネイは悟った。さきほどまでのは、現実じゃない。

(そうだ、わたし……洞窟に入って、魔物の毒に――)

 あれは、あの蛾のような魔物の鱗粉が見せた、幻だったのだろうか。

 じんわりと目頭が熱くなる。

「おじいちゃん……」

 やっと、会えたと思ったのに――。

 ピチャン、とまた、なにかが頬にあたった。

 どうやら天井から水が滴っているらしい。

 ネイは壁に手をつき、よろよろと立ち上がった。まだ少しふらつくが、なんとか歩けそうだ。

 すっかり体が冷えきっている。 

 耳をすますが、羽音は聞こえなかった。ボッ、と右手の上に炎をともす。

 明るい炎を見ると、やはりほっとした。

(……戻ろう)

 こんな状態でこれ以上進むのは、どう考えても危険だ。

 戻って、村のどこかで一晩明かし、体調を見てまた出直そう。

 周囲を見回し、はた、と気づく。

(わたし、どっちから来たっけ……)

 自分を取り囲む三つの穴を、もう一度、ゆっくりと見やった。

 目印がない。

 ドク、ドク、と心臓が跳ねる。

(落ちついて……焦っちゃだめ)

 ネイは目をつむり、自分に言い聞かせた。

 ――ようは、来た方向を見失ってしまったのだ。魔物に襲われ、暗闇の中で混乱しているうちに。

 大きく息を吸ってはく。

「……だいじょうぶ」

 そこまで深刻な事態には陥っていない。

 ――通路はたった三つだ。

 順番に入っていけば、三分の一の確率で、元の通路に戻れるはず。

 とりあえず、ネイは一番近くの通路の脇に、石を並べて目印を作った。

 同じ矢印だとややこしいので丸にし、炎をかかげて、その通路に入った。


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