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古竜は勇者の夢を見る  作者: akaru
第一章:古竜の旅立ち編
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第九話:冒険者ギルド

(金(きん)……わしの金……)


 市門をくぐりながら、イリアはまだちょっと泣いていた。


 ――うおお、人界の世知辛さよ! なぜわしの手から金を取る?


 竜は宝物に目がないのである。

 その手から金が取られ、張り裂けそうな気分だった。


(いかんいかん、わしとしたことが……)


 胸の中でひとしきり嘆くと、イリアは気を取り直して前を向く。

 共に怪物イノシシと戦った冒険者たちが待っていた。


「ちょっと揉めたみたいだな……まあ元気出せ」


 慰めてくれた。いい奴らである。

 気恥ずかしくて、イリアは胸の中がもにょもにょした。


「俺等はギルドへ行くが……」


「そうじゃのう……わしは先に宿を取ろうかのう」


 なんだか一緒に行くのが面映ゆくて、イリアは宿を優先した。

 おすすめの宿屋を聞き、手を振って別れる。


 宿――街に逗留するなら、仮の棲家が必要だ。

 かつて吟遊詩人の語る英雄の歌を聞いたのも、そうした宿だった。


 教わった通りの道を行くと、看板が見えてきた。


【踊る雌鶏亭】


 ――ここか、なかなかの店構えじゃ。


 イリアは外観をひと目で気に入り、宿に入った。


 中は入ってすぐ、左手に階段があり、右手にカウンターがあった。

 奥に部屋が見え、どうやらそこが食堂になっているようだ。


 イリアはまずカウンターに向かう。


「のう、よいかのう」


「はい、踊る雌鶏亭へようこそ。食事なら一階の奥の部屋、二階で宿屋もやってますよ」


 受付の女が、溌剌と応えた。


「泊まりたいんじゃが」


「じゃあ、こちらにお名前と――何泊でしょうか?」


「一先ず、3日分いいかのう」


「3日ですね。部屋代が3トールだから、3日で、えーっと――」


 宿の店員が計算をしている間に、イリアは台帳にさらさらと自分の名前を書く。


「9トールです、銀貨でね」


「これでいいかのう」


 イリアは、行商人の釣り銭や冒険者の礼金があったので、その中から小銀貨9枚を出した。


「はい。部屋の鍵も、どうぞ」


 部屋の鍵を受け取って、イリアはさっそく二階へ上がろうとした。


 すると、受付の女は思い出したように声をかける。


「そうそう、出かける時は、部屋の鍵――ここに預けてくださいね」


「あいわかったー」


 イリアは後ろ手に手を振って返事をしながら、階段を上がっていった。


 部屋に入ると、決して豪華とは言えないが、なかなかの部屋だった。

 ベッドに、小物を置くちょっとした棚。調度品はそれだけだ。

 ベッドは藁の上にシーツを掛けてあって、思いの外柔らかそうである。


 イリアは窓を開け放つ。


 そっちはちょうど裏路地で、所狭しと洗濯物が、路地を渡すように吊るされていた。


 窓を締めたイリアは部屋に鍵をかけ、さっそくそれを預けて外出する。


「冒険者ギルドに行ってくる。場所を聞いてもいいかのう?」


 ギルドへの道順を聞いて、イリアはクライスルの街に出た。


 歩くことしばし。冒険者ギルドについた。

 ギルドの建物は比較的古く、年季が入っているように見える。正面扉にはエンブレムが掲げられていて、剣とジョッキの紋章だ。


 扉を開けて中に入ると、そこはさながら酒場だった。


 テーブルとイスが並べられ、そこに座る屈強な男たちが、昼間から酒を飲んでいる。


(なんじゃろう、駄目な奴らを見ている気がしてきた)


 冒険者ギルドと言うくらいだから、腕に自信のある者たちのギルドだろう。


 眺めながら中を進んでいくと、お、あれは今しがた別れた冒険者たちではないか。こっちに気づいて手を振ってくれる。


「はい、クライスル冒険者ギルドです。御用は何でしょうか?」


 受付らしきところまでやってくると、女の従業員が話しかけてきた。

 イリアの外見年齢よりも、3つか4つ年上の風貌だ。


「イリアじゃ。冒険者ギルドに入りたい」


「あなたがイリアさんでしたか! お話は伺っています」


 どうやら、先にギルドに戻った冒険者たちが、イリアの話を伝えておいてくれたらしい。


「うちの冒険者がお世話になったそうで。ギルド加入ですね」


 受付嬢はそういうと、なにやら羊皮紙とペンを準備している。


「イリアさんは魔術師――でいいんですよね? 実力はいかほどで」


「魔法使いじゃ。戦ごともかなりできるぞ」


 なるほどと頷きながら、受付嬢が視線を落とす。


「魔術ギルドではなく、冒険者ギルドでよかったんですか?」


 ――ほう、魔術ギルドというものがあったのか。


 イリアは今更ながら認識し、そっちでも良かったかもしれないと思った。


「魔術ギルドはどこにあるんじゃ?」


「クライスルにはありませんが、トランスバールのような大都市になら」


 この街にはないという話だった。


(あう、ここで免状が欲しいのじゃー)


 イリアは魔術ギルドにも興味を持ったが、そもそも免状目当てである。切実に。

 それに旅の身の上だ。一つの街に居座る気はないから、冒険者のほうが何かと都合がいいと思った。


「冒険者で構わん。入れるかのう」


「うちは大歓迎ですけれど……では、こちらに記入を」


 紙とペンを出され、そこに名前やらなにやら必要事項を書いていく。

 書き終えると、受付が内容を確認し、大丈夫と見て印章を押す。


「はい。では、組合料として12トールをお納めください」


 ギルドに入るのに、銀貨が必要なのか。


 行商人からのお釣りにソルド銀貨とやらがあったはずだが、ちょっと考えがあって、イリアは山から持ってきた銀貨を出す。


「これでいいかのう」


「これは……骨董品ですか。ちょっとお待ちを」


 待たされることになった。

 古い貨幣だから、どうやら重さを計るらしい。天秤に乗せて、銀の含有量を計るのだ。


 いくつかの手順のあと、釣りとしてソルド銀貨1枚が返ってきた。


「古い銀貨をお持ちだったんですね。紛れもない古代帝国の大銀貨です。それ1枚で、ソルド銀貨2枚分の価値がありますよ」


 そういうことらしい。

 イリアは山から持ってきた銀貨の価値がどんなものか分かり、知りたいことが知れたとばかりに納得する。


「では改めまして。ようこそ、クライスル冒険者ギルドへ。魔術師イリア、あなたを歓迎します」


「ありがとう、よろしく頼む」


「つきましては、いくつかお渡しするものがありますので、少々お待ちください」


 どうやらこの後受け取るものがあるらしく、少し待つことになる。


(免状じゃろう)


 お待ちかねのイリアは、一先ず酒場の方へ行って、あの冒険者たちと合流する。


「なんだ、ペスターの知り合いだったのか」


「ああ、例のイノシシの件で知り合ってな」


 何やら話し込んでいた、ペスターという男に声をかける。

 隣の男は知らないが、イリアに注目していたのだろう。


「さっそくギルドに入ったか。よろしくな嬢ちゃん」


 ペスターが笑いかけてくる。礼金をくれたり、色々教えてくれたのはこの男だ。


「よろしく頼むぞ」


 イリアが応えると、他にも見知った顔が近づいてくる。


「テスだ。イノシシの件では世話になった」


「俺はオットー。まあ嬢ちゃんは免状目当てだろうから、すぐ別の街へ行っちまうかもな」


 イリアも実はそのつもりだったので、苦笑いで返す他無い。

 しばらく彼らと話をし、色々と教わるイリア。


「イリアさん、こちらへ!」


 おっと、受付に呼ばれた。


 イリアは手を振って3人の元を離れると、改めて受付に向かう。


「こちらが、ギルド章になります。当ギルド員の証です。それから、こちらが通行税の免状。こちらが『ギルドの誓い』です」


 ギルド章は薄い金属製で、イリアの名前と、本日の年月日、それにクライスル・アドヴァーズ・ギルドという銘が刻印されていた。


 免状は布製で、ギルドのエンブレムといくつかの文言が焼き付けられている。


 そしてギルドの誓いだが、これは羊皮紙にインクで、いくつかの宣誓文が書かれたものだ。


「では、どうぞ」


 どうぞと言われて、イリアは目が点になった。


 受付嬢がギルドの誓いを見ながら、顎で何かを促してくる。

 状況から言って、宣誓すればいいのだろうか。


「我、イリアは、いかなる時もギルドの名誉を穢さない」


 一番上から順に読み上げていった。

 ギルドにたむろしていた他の冒険者達が耳をそばだてる。


「我、イリアは、いかなる時も仲間を見捨てて逃げない」


 ギルドの心得だ。この誓いを宣誓して、晴れてギルドの一員として認められるというわけだろう。


「我、イリアは、懸命に己が義務を果たし、ギルドに利益をもたらす」


 宣誓文はしばらく続いたが、ギルド員なら当然と言えるもので、とても高潔で好感のもてる内容だった。


 願わくば、全てのギルド員が、この宣誓を守る戦士であることを祈ろう。


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