第八話:人の輪、街へ到着
イリアは知り合った冒険者に付いて、街へと向かった。
肉とパンの包みも忘れずに持ってきている。
イリアは道中、仲良くなった冒険者から次に訪れる街の情報を集めることにした。
なんでもクライスルの街といい、この辺りではそこそこの大きさの街らしい。
通行税を取られるという話だった。
手に持った荷物は何かと聞かれ、肉とパンだと答えると、課税対象だと教わる。
ちょっと街に入るのをためらいたくなるような話だ。
冒険者は免状があるそうだが。
そして、クライスルの街では、今ちょっとした騒動が起きているらしい。
「ほう、ギルドがのう」
「ああ、商人ギルドが幅利かせてるのが面白くないってんで、職人ギルドが立ち上がってえらい騒ぎになってるぜ」
「冒険者はどうなんじゃ?」
「様子見さ。職人ギルドに肩入れするやつが多いがね」
なんでも街の政治をめぐって、ギルドが対立しているようだ。
ギルドと言えば、同業者の助け合いの組織。
だが、政治に参加できるのは商人ギルドだけで、職人ギルドは参加できないらしい。
それで職人ギルドも政治に一枚噛むために、色々動いているとのことだった。
話しているうちに、空を見上げれば、夕日が暮れかかっている。
向こうに街の城壁が見えだしていたが、まだかかるだろう。
日が沈めば、市門は閉まってしまう。
どうやら今日中に街の門をくぐることはできなさそうだ。
「どうするんじゃ?」
「あー、こりゃ野宿だな」
「まあ、明日には着くさ」
けが人を連れてのことだったので、一行の歩みが遅かったのが原因だろう。
一行は街道を逸れ、草地で野宿の準備をした。
彼らは荷物が少なく、武具、ナイフ、水筒、腰の巾着といったモノしか持っていなかった。
イリアは手に持った二つの包みを置きながら、通行税のことを考える。
この肉とパンは課税対象だそうだ。
(こりゃいかん、取られてしまう)
イリアは、せっかく買った肉とパンが税に取られてしまうことを憂慮した。
手荷物は構わないようだが、旅人は小銀貨1枚の人頭税と、荷物分の現物か金銭を支払わないといけない。
荷物というのは、市内で商いが出来る荷物のことだ。
冒険者ギルドの組員は、通行税の免状を持っているそうで、それがあれば通行税は取られないという。
「免状、うらやましいのう」
「そうだなあ。嬢ちゃんは冒険者じゃないのか」
「生憎とのう」
「そりゃ災難だ。まあ、あんだけ戦えるんだ。どうせなら冒険者でもやればいいと思うぜ」
「違いない。金級だって狙える」
「ごーるど?」
「金貨を稼ぐ組員、って意味さ。俺等は銀級だからな」
なるほど、稼げる貨幣が金貨なのか、銀貨なのかによって、ギルド員のランク分けがあるようだ。
「考えておこう。ところで、わしの肉とパンなんじゃが、税に取られると言っておったな」
「ああ、手荷物には見えないからな」
「せっかくじゃ。どうせ取られるなら、わしからみなに振る舞おうかと思っての」
なんたって8人いる。
行商から買った肉とパンだが、銀貨1枚分ずつ買ったので量が多い。
イリアがちびちび食べても、まだ半分以上残っていた。
ここにいる全員に回る分だけはあるだろう。
「おい、いいのかい?」
「なに、色々教わった礼じゃよ」
「そいつはいい、腹減ってたんだ」
「すまないな、肉を食えるのはありがたい」
そう口々に言う冒険者たち。
イリアは包みを広げると、魔法を使ってさくっと切り分けた。
「ほれ、肉とパン、それぞれ持っていっとくれ」
冒険者たちは口々に礼を言いながら、広げられた布から肉とパンを取っていった。
「こりゃあ食いでがあるな」
「久々にガッツリ食えるぜ」
「ありがとな」
そうして9人の車座になって、わいわいと話しながらの晩餐となった。
翌朝早く、一行は9人で連れ立って出発した。
昨日食い物を分け合ったお陰か、お互いの距離感が近づいた気がする。
半刻ほどで街に到着し、入市のための列に並ぶ。
大して長い列ではなかった。馬車が2台、徒歩が数名といったところ。
馬車は商人のようで、荷を改められた後、一台目は布織物を、二台目は袋を一抱え降ろしている。どうやら税の現物納入のようだ。
通行人はみな荷物が少なく、金銭を払っていた。
会話しながら気長に待っていると、順番がやってきた。
冒険者たちは、懐から布切れのようなものを出して見せる。
あれが免状とやらだろう。
イリアの番が来た。旅人であることを告げる。
「旅人ね。杖に……その鞄は?」
「わしの手荷物じゃ」
「中を見せてくれ」
「ほれ」
魔法の鞄である。頑丈で、中身が零れず、雨に濡れても染みない優れモノ。
保存の魔法が掛かっていて、中に入れたものは腐敗から保護される。
その中には、山から持ってきた金貨に銀貨、磨かれた宝石が5つ。
霊薬の瓶が3本。謎のよくわからない物体。
あとは肉とパンを包んでいた布地などが入っていた。
「またずいぶん高価なものを」
徴税人から胡乱げな目を向けられた。
「わしの財産じゃ。持ち運んどる」
「ふん、どうかね」
徴税人はなかなか納得してくれない。
「宝石の持ち込みには税がかかっている」
徴税人は情け容赦なく、宝石を鞄から抜き取った。
――ああ?!
秤にかけられ、どれくらいの価値か割り出される。
イリアは愕然とした顔でその様子を眺めた。
「その薬は?」
「霊薬じゃ……」
「霊薬……? なんだそれは。上級のポーションということか」
手荷物は大丈夫と聞いていたが、この流れはまさか――。
霊薬も、よく分からない物体も、なんと課税対象とされた。
顔から余裕の表情が消えていくイリア。
やがて、徴税人の計算が終わった。
「税として、金貨2枚。それと1トール」
イリアは観念した。
山から持ってきた金貨と、行商のお釣りの銀貨を1枚を渡す。
渡す手がプルプルと震えている。
徴税人は仏頂面で受け取った。
「ようこそ、クライスルへ」
イリアは涙目になった。




