第十話:宿の夕餉と今後の予定
宣誓を終えたイリアは、拍手で迎えられた。
これで晴れて冒険者である。
受付嬢はほっとした顔を見せ、やがてギルドはいつもの空気に戻っていき、喧騒に包まれた。
――これでもう金を失わなくて済む……!
当のイリアは、念願の免状を手に入れてほっとひと安堵するのだった。
その後、顔見知りの冒険者と少し話をした。
口々に祝福の言葉を述べ、ギルドのいろはについて色々教えてくれた。
彼らは街や冒険者の事情に明るい。
これからも、なにかと頼りにさせてもらうかも知れない。
ひとしきり喜びと安心を噛み締めてから、イリアは冒険者ギルドを後にした。
ギルド章と、丸めたギルドの誓いの羊皮紙は魔法の鞄に。
布製の免状はローブの裏の隠しポケットに入れておく。
話では、通行税を取られるのは、門・広場・橋・街道の関所・港などだそうだ。
そこでこの免状があれば、税フリーで通れるという。
なんともありがたい話だった。
ただし注意点があって、同盟関係にある都市圏じゃないといけないらしい。
同盟関係とは、都市同盟のことだ。たがいに免状を出し合って、交通や商業の便を計っているらしい。
しかし、そうでない場所は免状の種類が違うので、普通に税を徴収されるのだとか。
世界を広く見て回る予定のイリアとしては、聞き逃がせない情報だった。
それに、お金のことも気になる。
山から持ってきた金銀があるから、お金に困っているわけではないのだが、どうも支払いが面倒になりそうだった。
なにせ、イリアが持つのは古代帝国の貨幣。
今の貨幣とは種類も価値も違うから、支払いの度に戸惑われることも多い。
なるべく今世の貨幣を手に入れて、支払いで揉めないようにしたいものだ。
(両替でもしておこうか。ギルドの仕事をして小銭を稼いでもよいが――)
色々と思案しながら、イリアは気がかりを一つずつ心中で消化していく。
そうして歩いているうちに、宿に戻ってきた。
受付がうたた寝しかかっている。
「もどったぞー」
「ああ、イリアさん」
受付は眠そうな目をこすりながら、カウンターの奥から鍵を取り出す。
「はい、お部屋の鍵です」
「ありがとう」
イリアは鍵を受け取ると、部屋に戻る前に腹ごしらえをしようと思い立つ。
「のうのう、夕餉を食いたいんじゃが、奥の部屋でいいのかの?」
「はい、そちらです。お金もそっちで払ってください」
「うむ、わかった」
カウンターを離れ部屋に入ると、テーブルが5つ並んでいて、正面の奥が食事を出すカウンターになっていた。
テーブルの一つに陣取り、杖を置くと、さっそく夕餉を頼む。
「すまんが、今晩の夕餉をもらえるかの?」
「あいよ、待ってな!」
威勢のいい返事が聞こえ、奥で食器を取り出したり、置いたりする音が聞こえる。
暫く待つと、カウンターに黒パン一片と、シチューが出された。シチューは大ぶりの深皿に、たっぷり注がれている。
「4分の2トールね」
また半端な数字が出たものだ。ものは試しにと、小銀貨1枚を出してみる。
「これでいいかの」
「あいよ、こっちが釣りね。どうぞ召し上がってくんな!」
返ってきたのは、1トール銀貨を半分にした切れ端1枚。
――なるほど、こうやるのか。
イリアはまた世間の事情を1つ知った。
カウンターで受け取った夕餉を持ち、また席に戻るイリア。
まずはシチューを木の匙でひと掬い。一口サイズに切られたにんじんや豆と一緒にパクリと頬張る。
もぐもぐもぐ。
(うむ、味が濃くて美味いのう)
塩とハーブが効いていて、独特の風味だった。
お次は、黒パンを千切って、シチューに浸して一口。
黒パンの仄かな酸味。シチューのコク。
イリアはなかなか満足のいく味だと思いながら、夢中で頬張った。
人間は竜と違って料理をするから、飯が味わい深くて面白い。
夕餉をあっという間に平らげて、イリアは食器をカウンターに返す。
「美味かった、ごちそうさま」
「あいよ! また来てくんな!」
気持ちのいい挨拶を交わし、食堂を後にする。
「夕餉はどうでしたか?」
「美味かったぞ!」
「ふふ、父も喜びます」
受付とも言葉を交わし、気分よく部屋に戻った。
ローブを脱いで、魔法の鞄を棚の上に置き、杖を立てかける。
窓を開ければ、ちょうど日が沈むところだった。
(今日も充実した一日じゃった)
イリアは満足気に、ベッドに横になった。眠気はないが、気分である。
(明日は何をしようかのー)
街を回って見聞を広めてもいいし、ギルドへ行って仕事を探し、小銭を稼いでおくのもありだ。
(今世の人の生活の様を眺めておきたいのう)
――決めた。明日は街を見て回り、その翌日はギルドで一件くらい仕事をしておこう。
ギルドの仕事は野外で数日かかることもあるだろうし、明日に行ったら、せっかく取った宿をふいにしてしまうかもしれない。
明後日にすれば、仕事で数日掛かったとしても、あまり不都合はなさそうに思えた。
そこまで決めると、イリアはピョコンと起きて窓を締め、ベッドで眠りに就くのだった。




