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古竜は勇者の夢を見る  作者: akaru
第一章:古竜の旅立ち編
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第三話:久しぶりの人界

 そこから歩いて森を抜けるのに、半日掛かった。


 ユークスは森での過ごし方を心得ているようで、食べられそうな木の実や野草を採取しては、イリアにも与える。


 なかなか美味しい。ちょっとした腹の足しだ。


 途中、弱い怪物とも遭遇する。

 ユークスは心得たもので、戦いにならないよう、怪物を避けるようにイリアを誘導した。


 その手に掴まって付いていくうちに、イリアはユークスのことをなかなかいい男だと思うようになっていた。


 気遣いもあるし、足取りに迷いがない。


 途中、ちょっとユークスの手に負えない怪物を遠方から察知したときだけ、惑わしの魔法をかけて立ち去らせておいた。


 そしてようやく森を抜け、見晴らしの良いところへ出る。


 中点を過ぎた太陽が、燦々とその輝きを投げかけていた。


 照らされて光る小高い稜線を前に、ユークスはイリアの手を引きながら声をかける。


「もうちょっとだ」


 そして稜線の上にたどり着くと、その向こうには、広大な人の国が広がっていた。


 ――これじゃ!


 夢にまで見た、人界の風景。


 果てしない平原。幾重にも続く稜線。その所々にぽつぽつと建設された、人の町や村々。


 久々の人界――以前人の世を訪れた時の思い出が、イリアの脳裏を駆け巡る。


 ふいにユークスが振り返った。


「ここまで来れば安全だ。よく頑張った」


 その時、一陣の風が吹いた。イリアのフードが風になびき、その下に隠れていた素顔がユークスの目に触れる。


 輝くプラチナブロンドの髪、エメラルドを思わせる潤んだ深い瞳、整った目鼻立ち、柔らかく甘い唇。


 美しい容姿だった。


 そんな少女の様子を間近にして、ユークスは思わず見とれている自分がいることに気づく。


「さあ行こう、向こうに村がある」


 ユークスは半ば誤魔化すようにそう言うと、イリアを人の里へと誘った。


 


「おや、ユークスじゃないか。今回は帰りが早いね」


「ああ、ちょっとね」


「ユークス、そちらのお嬢さんは?」


 村に入ると、ユークスの顔なじみたちが声をかけてきた。


 一人で森に入ったはずのユークスが、少女を連れて戻った。

 その姿はあっさり村人たちに目撃され、たちまち村で噂になることだろう。


 ユークスは歯切れの悪い返事をしながら、イリアを連れて村の中を歩いた。


 石造りの土台に、漆喰を塗った壁の、一階建てが多いようだ。

 人の里特有の匂いに、イリアは少し鼻の曲がりそうな思いだが、それにも懐かしさを覚える。


 小川のほとりの風車を越えて、麦畑が広がるエリアに来る。

 そのちょっと外れの方にあばら家が見えた。


「あそこを借りているんだ」


 ユークスが言った。


 どうやら彼は村の居候で、時々森に入って怪物を間引く仕事をしているらしい。

 大森林が近いせいで、時折怪物が出るという。

 たまたま立ち寄った時、それを追い払ったがきかっけだと話した。


「この村へ来て、そろそろ一年になるんだ。みんないい人でね」


 そう語りながら、ユークスはあばら家の中にイリアを誘う。

 ちょっと埃っぽさが目立つが、悪くない住処だ。


 室内を見回すイリア。

 その間に、ユークスは剣を剣帯から外し、革鎧を解いて部屋の片隅に置いた。


 イリアが戸の脇で待っていると、ユークスは鎧下の姿になって、木桶から柄杓で水を汲んで喉を潤す。


 次にイリアにも水を汲んで差し出したので、受け取った柄杓からちびちびと飲んだ。


「さあ、掛けて」


 勧められて、イリアはギシリと音のする椅子に腰掛ける。


「ちょっと出てくる。出せるものもあまりないけれど、ゆっくりしていってくれ」


 そう言い残し、ユークスはイリアをおいて戸を出ていった。


「ふむ、さっそく人里に降りることに成功したのう」


 イリアは独りごちる。

 持っていた杖をテーブルに立てかけると、物思いにふけりだした。


 ユークスには世話になる。どれ、何かお返しを考えねばのう。


 ――竜は人から物を取らない、与えてこそじゃ。


 人の世界から持ち帰った宝物を溜め込んでいる割に、イリアは律儀なところがあった。


 与えるなら、なにか粋なものがよい。


 山から持ってきた品物を頭に思い浮かべながら、どうもしっくりこないと首を傾げるイリア。


 ユークスは何を欲しがるのだろう。


 昔から人は、金、銀、宝石を喜ぶものだった。

 しかしそれだけでは、ユークスへの恩義に対し、なんとも味気ないではないか。


 ユークスからは、気遣いをたんまり頂いた。


 ここは、相応のお返しがいいだろう。


「なにがいいかのう」


 イリアは脚をぶらぶらさせて、ユークスの帰りを待ちわびた。


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