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古竜は勇者の夢を見る  作者: akaru
第二章:街での生活編
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第十五話:街の不穏、北の山へ

 イリアが街に来て取った宿は3日分。

 最後の夜を終えて、イリアは一度宿を後にした。


 長いようで短い滞在だったが、クライスルの街は悪くなかった。


 様々な人と出会い、知己を得た。

 気の良い人々と共に過ごした記憶は、イリアの新しい宝物だ。


 彼らにとってもそうであるように願いたいものだと、イリアは街を歩きながら胸に思った。


(さて、街を発ってもいいが――)


 勇者・英雄を尋ねるイリアの旅である。

 クライスルの街は好きだが、念願の目的は果たせまい。


 イリアは一度世話になった冒険者ギルドに顔を出し、旅出の挨拶でもと思った。


 扉を開けて中に入ると、壮年から若者まで、さまざまな顔でごった返している。


 ペスターたちは依頼があると言っていた。そのせいか、ギルドには顔を出していない。


 イリアは少し残念に思ったが、代わりにイノシシの件で知り合った別の顔が見えたので、そちらに歩み寄る。


 すると、何やら妙な話をしていた。


「――そうか、バンダルの旦那が……」


「ああ、昨日やられたらしい」


「商人ギルドの連中かな。人を雇ったとか」


「ありうるが、滅多なことは言うもんじゃねえ。おや――イリアの嬢ちゃんじゃないか」


 やあ、と挨拶をして、イリアは会話に混ざる。


「なんとも物騒な話をしておるの」


「聞かれちまったか。ああ、ちょっとな」


 聞けば、なんでも冒険者が世話になっている職人の一人が、昨日闇討ちにあったという話だった。

 幸い命に別状はないが、腕の骨を折られ、仕事が上がったりだと言って酒を飲んでいるという。


「この話はあんまりな」


 軽く口止めをされ、イリアは首肯する。


 商人ギルドと職人ギルドが揉めているから、それ絡みではないかと噂されていた。


 ――いつの世も、人はややこしい争いをしておるのう。


 イリアはあまり首を突っ込みたくないと、内心嘆息する。


「で、嬢ちゃんはどうしたんだ?」


「ああ、街を発つのに、挨拶でもと思ったんじゃが――気持ちの良い門出とはいかず、どうしようか迷っておる」


「そうか……短い付き合いだったが、あんたほど気の良い魔法使いはそういないと思うぜ」


「かたじけない」


 胡乱げな話を聞いて、旅立ちの気分がすっかり醒めてしまった。気持ちよく発ちたいものであった。


「あ、イリアさん、おはよう」


「うっすー」


 ネリーにジャンだ。この2人にも世話になった。


「どしたの?」


「ああ、そろそろ旅を再開しようと思ったんじゃが、ちょっとのう」


「なにかあったの?」


「何かというほどでもないんじゃが、もう少し遅らせるかもしれん」


「そっか」


 襲われた職人の件に首を突っ込むつもりはないが、気持ちの良い別れ方をするためにも、イリアはもう少し街に逗留することにした。




「北の山の調査ですか? いいですけど」


 ギルドの受付で、イリアは北の山の調査依頼を受けられないか聞いてみた。


 そちらの方から、妙な魔力の乱れが伝わってくる。

 人間に任せても良いのだが、せっかくなので、イリアは自分の目で見ておこうと思っていた。


「調査依頼は、北の山に住む魔物の生態調査です。どの辺りに魔物がいて、種類はとか、数はとか――」


 受付が簡単に説明してくれる。特に倒す必要はないらしく、情報を持ち帰ればいいようだった。


「オルクルが住み着いていますし、数日籠もらないといけません」


 受付が注意事項を伝えてくれる。


「なに、そのくらい。それにわしの実家は山じゃったから、森暮らしも山暮らしも慣れとるぞ」


「そういうことなら――期限は特にないんですが、一先ず5日を見ましょうか」


「あいわかった」


 着手で2トール、情報次第で成果が上積みされる依頼だった。


 イリアは受注を承諾し、昼までに準備を進めることにする。


(食料を買っておこう。山で採ってもいいが、パンくらいは持っていきたい。入れる袋もいるじゃろう)


 イリアはまずオールダン横丁へ行き、麻の袋を見繕う。紐で肩に斜め掛け出来るものを見つけ、丈夫そうなので購入した。


 さらに、目に入った水筒も買った。紐がついていて、首から下げられるようになっている。


 次にパン屋へ行き、黒パンを一斤購入する。街で売っているパンは大ぶりで、一斤あたり小銀貨1枚だ。


 買ったパンを、さっそく麻の袋にしまって肩にかける。

 斜めがけの紐を調整すると、袋の部分がちょうど背中に回り、旅人らしい格好となった。


 イリアはその出で立ちで、街の西門から出て、北の山へと向かう。


 日がそろそろ高くなりだしている。イリアは太陽を背に北上した。


 北の山は、低い雲の上に頂きがちょっと出ている、小高い岩山であった。麓に森を従えているが、そこからはもう魔獣の住処らしい。


 森の入口で、イリアは持ち物を確認する。


 青を基調としたチュニックの上から革のベルトを締めており、鞘に入ったナイフが、左の腰に固定されている。


 魔法の鞄は、右肩から斜めがけで左腰に。ナイフと重ならないように、ちょっとお尻の方に来るよう位置を直す。


 首から下げた水筒。麻の袋は濃緑のローブの上から斜めがけ。袋がちょうど背中に回り、ローブの布地を押し込んでいる。


 これで動きは阻害されないだろう。


 杖を持ち直すと、イリアは森へと分け入った。


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