第十三話:イリアの初仕事
それからイリアは、服屋や金物屋を見て回った。
服屋は、ネリーが興味ありそうだった。
ネリーは新しい服が欲しいらしく、少し小さくなったチュニックの襟元を摘んでいた。
頑丈で可愛らしく、おまけに安い服というのはなかなかない。
金物屋は、旅路の野営でなにか料理でもと思って寄った。
フライパンか鍋があれば便利だったが、嵩張るので悩みどころだ。
工房の方も見たかったが、客の目には触れないところで作業しているらしく、見ることは叶わなかった。
職人街を回り終え、冒険者ギルドに戻ると、イリアは2人にそれぞれ手間賃を2トールずつ支払う。
「サンキュ!」
「また何かあったら頼ってね」
気持ちの良い2人であった。
「お、戻ったか」
声をかけてきたのは、冒険者のペスターだ。
イノシシの件以来、一番言葉を交わしているのはこのペスターかもしれない。
「やあ、朝は見なかったのう」
「依頼の打ち合わせがあってね」
朝はテスやオットーと話したが、ペスターの姿はなかった。どうやら、仕事でいなかったようだ。
「明日からまた遠出さ」
ペスターはやれやれという顔をした。
冒険者は遠出の依頼も多い。街から街への護衛に、怪物の調査に討伐――。
治安にまつわる仕事でもあるから、免状が出るのだと、前にペスターが話していた。
「それはご苦労じゃのう」
イリアが労ると、ペスターは顎を掻いて吐息を漏らす。
「例のイノシシの件さ。嬢ちゃんに譲ってもらった牙を見せて”撃退”と報告してあったんだが――今度はねぐらを探してこいって言うんだ」
ねぐら――イリアとしては、怪物イノシシとは話をつけたから、こちらから出向くものでもないと思っている。
「それは難儀なことじゃ。あれはどこから流れてきたのかのう」
「それを調べて欲しいんだとさ」
この辺りではまず見ない大物だったから、慎重なのだという。
刺激しなければ出てきはしないだろうが、街道に出たことのある怪物だったから、人間も警戒しているのだろう。
こういう話を聞くと、イリアも冒険者の仕事とやらをやってみたくなる。
人間の依頼を受けるというのも悪くはない。
「わしも、ちょいと仕事をしたいのう」
「お、さっそくか。嬢ちゃんなら、割のいい仕事もいけると思うぜ」
景気の良い言葉をかけてくれたペスターと別れ、イリアは受付に出向く。
ギルドに加入する際に対応してくれた受付嬢が、気が付いて視線を送っきた。
「のうのう、仕事を紹介してほしいんじゃが」
「イリアさん、初仕事ですね。魔術師のソロですと……治癒ポーションに使う薬草の採取なんてどうです?」
魔法薬作りといえば、確かに魔法使いの出番かもしれない。知識の中に、レシピがある。イリアはそれを思い浮かべながら尋ねた。
「何が必要なんじゃ?」
「必要なのは、ベラリカ草5束です。東の森で集まると思いますので、ギルドに直接持ってきてください」
見知った植物だった。貧血に効く薬草だ。
1束は、だいたい手でひと掴みできる量。それを5束とは、そこそこの量と言える。
「うむ、分かるぞ。それにしよう」
「はい、畏まりました。薬は貴重ですからねえ。薬師ギルドからの依頼で、3日以内となっています」
「あいわかった」
イリアは返事しつつ、仕事の受注手続きを済ませた。
(薬師ギルドといったかのう)
魔法使いの出番といったが、魔術ギルドでも錬金ギルドでもなく、薬師ギルド。
(ふむ、どのギルドが何を受け持っているのか、さっぱり分からん)
魔法薬と言えば魔術師。でも錬金術も、ちょっと分野が分かれるが関わりがある。しかし薬だから、薬師にとっても領分か。
イリアはややこしさを感じつつ、依頼は明日にでも済ませようと、冒険者ギルドを後にした。
宿に戻り、夕食にする。
今日のメニューは黒パンに、野菜と肉を煮込んだシチューだった。
味がよく染み込んでいて、なかなか満足のいく味である。
部屋に戻り魔法の鞄と杖を置くと、ベルトとナイフを外して、早めに就寝した。
翌日、イリアは朝から街の東門に来ていた。
街を訪れた時は西門からだったから、ちょうど反対側である。
門を出るときは、特に通行税は掛からないようだ。戻ってくるときには掛かるから、免状を無くさないようにしないといけない。
市門をくぐって街の外に出る。
見渡せば、確かに東に森が広がっているのが見えた。植生の豊かそうな森だ。
徒歩で進むこと半刻。イリアは森に到着する。
広葉樹の美しい森である。さっそく傷薬に使う薬草や、毒消し効果のある薬草を発見した。
(ハーブも多い。豊かな森じゃ)
イリアは森の豊かさに感嘆すると、目当てのベラリカ草を探して、森に踏み入った。
特徴的な葉の形を思い出しながら、あたりを見回す。
ベラリカ草は、そこまで珍しい薬草という訳ではない。すぐに集まるだろうと思った。
(あった)
さっそく見つけた。ちょうど花を付けている。根本から摘んで、一握りほどの量になると、適当な草で結いて一束とした。
2束ほど採取すると、それを杖を持っていない手に持ちながら、また別の場所を探す。
(こっちにもあった)
早く集まりそうだ。
半刻ほどで、4束集まった。あと1束である。
(お、これは)
香草を見つけた。肉に合いそうだ。
摘んで帰りたいが、今回は諦める。
今度は別のハーブを見つけた。これはイリアの好きな香りのするハーブだ。
イリアは山で暮らしている時、植物も好んで食べていた。
木の実に果実、野草にハーブ。
懐かしみを感じながら、イリアはそのハーブを摘んで口に咥える。芳しい香りが広がり、気分がスッキリした。
ハーブを噛みながら、あと1束分と、ベラリカ草を探す。
(あった、これで全部か)
最後の1束を採取し、5束集まった。
これをギルドに持ち帰れば、依頼完了である。
(さて、あとは街に帰るだけなんじゃが……)
イリアの気配察知が、不穏な気配を捉えていた。




