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仙人皇帝のお気に入り  作者: 狭山ひびき


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3/11

仙人皇帝の妃候補 2

本日三回目の投稿です!

 それは、昼のことだった。


 後宮の妃とは、基本的にすることがない。

 林杏(りんしん)をはじめとする侍女たちが忙しく動き回る中、翠花(ついふぁ)は一人で双六(すごろく)遊びをするという、なんともつまらないことをして時間を潰していた。


 することがないから仕事を手伝おうか、などと言おうものなら、林杏から「妃の自覚がない」とお小言を食らう。妃になりたくないのだから自覚なんてあるはずもないのだが、それを言えばまた雷が落ちるので、翠花としては毎日毎日暇を持て余していた。


(あー、退屈だわ。どこかに秘密の抜け道とかないかしら? というか、わたしの身代わりになってくれる人はいないかしら?)


 実は双子の妹がいた、とかでもいい。というか大歓迎だ。その妹にぜひともこの「美人」の地位を譲り渡して、翠花はこっそりと後宮から退散したい。

 もちろん、そう都合よく双子の妹という存在が現れるとは思っていないが。


 翠花はこつ、と黒い石を動かす。

 双六は本来二人で遊ぶ盤上遊戯だ。

 盤上には、白と黒の石が十五個ずつあり、色が二色あることからわかるように、自分と相手で黒石と白石を分けて使う。賽子を転がし、どちらの色の石が早く終着点にたどり着くかを競う遊戯だ。

 それを、翠花は一人で遊んでいる。どれほど暇を持て余しているのか、推し量れるというものだ。


「暇ねえ。何か面白いことが起きないかしら。それこそ、お化けがでたー、とかでもいいんだけど」

「よくありません!」


 これから訪れる夏のため、薄手の服の数が揃っているかどうかを確認していた林杏が手を止めて睨んでくる。


「後宮に魑魅魍魎の類なんて、いてもらったら困ります!」

「ねえ、林杏ってもしかしてお化けが――」

「ああ忙しい!」


 怖いの? と言い終わる前に、林杏が衣装箱を抱えてパタパタと歩いていく。

 重たいものを運ぶときは宦官を呼んで手伝いを頼んだりするが、服の確認程度ならば呼ぶまでもないと、林杏たちは箱を運び出しては中身を衣架(いか)に吊るし、虫食いがないかどうかを確かめていた。


 次々と並べられていく翠花が見たこともない衣装の数々に、これらはきっと母親が命じて運び込ませたのだろうと推測を立てる。

 ちょっと引っ張ればびりっといきそうな薄布を重ねた衣装から、重厚な刺繍の入ったものまで、なんともまあ煌びやかなことだ。


(どうせ主上が訪れることはないのに、毎日毎日着飾る必要がどこにあるのかしらね)


 着飾って、こうして一人で双六遊び。何と虚しいことか。

 紅筆よりも木刀がほしい翠花にしてみたら、これほど苦痛なことはない。


(いっそ仮病でも使ってみようかしら。不治の病とかってことになったらここから追い出してくれるかもしれないものね。……ああでも、不治の病って診断が下るまでは寝たきり状態でいないといけなくなるわね。それそれで……退屈で死ぬわ)


 双六にも飽きて、ぽいっと賽子を放り投げた時、翠花の視界に何かが入り込んだ。


「お?」


 先ほどの衣装箱と違い、小ぶりな箱を持って歩いていた林杏が足を止める。はじめからなかったのか、それとも開けたのか、蓋は開いている。


「どうされました? 牛が驚いたような声を出して」

「牛って驚いたときに『お』って言うの?」

「知りません」


 じゃあ「牛が驚いたような声」っていうのは何だったんだろうと首を傾げつつ、翠花は立ち上がり、ぱたぱたと林杏に近寄った。

 そして箱を奪い取ると、ひょいっと中を覗き込んだ。


「やっぱり!」


 中には色とりどりの石が入っていた。翡翠に瑪瑙、水晶。紅玉もある。しかも全部原石。すばらしい!


「どうしたのこれ?」

「ああ、これですか? どうやら、黄家から間違えて届けられたようで。今度、他の荷物と共に送り返そうかと」

「ええ、もったいない! わたしにちょうだい!」

「ちょうだいもなにも、もともと翠花様が後宮で花開くためにと届けられたものですので、翠花様の持ち物ですが……そんなもの、何に使うんです? きちんと加工してあるものならいざ知らず、磨いてもいないような石なんて使い道もないでしょう?」

「いいの。磨いてある石も好きだけど、原石も好きなんだから!」


 何を隠そう、翠花は無類の宝石収集家だ。磨いてあるものも多いが、加工前の原石も好んで集めている。黄家の実家の自室にも、集めた石がごろごろと転がっていた。山や河原に行っては石を収集して帰るので、母にはとても嫌がられていたが。

 翠花は箱の中からひときわ大きな翡翠を取り出すと、うっとりと目を細めた。


「わたし、八歳くらいの頃に、桃と交換で翡翠をもらったことがあるのよ。つやつやした白い翡翠でね、すごく綺麗だったの。それから石集めにはまったのよ」

「……はあ」


 林杏は翠花の石の話に興味がないようで、生返事をすると、そのまますたすたと部屋を出ていった。

 林杏が話し相手になってくれなかったことに口をとがらせつつ、翠花が箱から石を取り出して円卓の上に並べていると、林杏が慌てた様子で部屋に戻って来る。

 やっぱり石の話が聞きたいのかしらと顔を輝かせた翠花に、林杏が切羽詰まった声で言った。


「大変です! 主上が! 主上がお呼びです‼」




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