殺害動機 1
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静に宮まで送り届けられて、翌日。
小鈴と明明は、静が用意してくれた薬湯のおかげで大事がないようだった。
翠花も一晩寝たら体のだるさもわずかに残っていた頭痛も消えていた。西の国で医術を学んだという静の薬湯は実によく効く。
「何やら物々しいですわね」
翠花が棗をつまんでいると、玄関の様子を見に行っていた林杏が戻って来た。
宮の玄関先や回廊に立つ宦官たちに思うところがあるようだが、昨日、翠花と小鈴、明明が何者かに襲われたと聞いたら文句が言えなかったようだ。
「仕方ないわよ。幽鬼を探しに行ったら、生きた人間に殺されそうになったんだもの。犯人が捕まるまでこのままでしょうね」
「桑才人が殺害されたと思ったら、今度は翠花様の命が狙われるなんて。噂には聞いておりましたが、後宮とは恐ろしいところですわね。ですが、主上がこうして目をかけてくださるのですもの、翠花様は安泰ですわ」
何が安泰なのだろうか。いや、聞くまい。どうせ、将来皇后に~とか言い出すに決まっている。
「それにしても、どうしてわたしが狙われたのかしら。ううん、どうしてわたしが、昨日の夜に東の庭園にいると知っていたのかしら」
「歩いているところをたまたま見られたのではございません?」
「そうだとしても、意識を混濁させる香に、夾竹桃の葉……。まあ、夾竹桃は庭園に植えられていたから葉はすぐ手に入るとしても、意識を混濁させるような効果のある香なんてすぐに手に入いるのかしら?」
「香は医療にも使いますから、案外、医局にあるかもしれませんわ」
翠花はハッとした。
「それだわ! 小鈴と明明は今日は安静にしてほしいから……可晴に頼んで、医局に、甘い香りのする意識を混濁させるような効果のある香がないか、あれば最近その香を欲しいと言って来た人物はいないかを確かめてきてもらってくれる?」
すると、林杏は嘆息した。
「翠花様、昨日あのような目にあったのですから、犯人捜しは主上にお任せして、ゆっくりお過ごしになったらいかがです? 桑才人殺害の容疑も晴れたようですし、これ以上翠花様が動く必要はないでしょう?」
翠花はムッとした。
「いやよ。わたし、売られた喧嘩は買う主義なの」
殺されそうになったからと言って怯えて震えているのは性分じゃない。
昨日の女は絶対に捕まえて見せるわと拳を握ると、林杏が仕方なさそうな顔をして可晴に頼みに行ってくれた。
部屋に一人になると、翠花は口の中に棗を放り込みつつ考える。
(昨夜のあれは、明らかに殺意があったわよね。悪戯なんてものじゃなかったわ。わたしが狙われる理由なんて、それこそ主上……静様がお渡りになっていることくらいしかない。だとしたら、犯人は妃の中にいるのかしら)
服装は、女官のそれではなかった。ならば、美人と才人の中にいると考えるのが自然である。
顔はちらりと見えたが、意識が混濁していたために、はっきりとは覚えていない。
医局から香をもらったのが誰であるのか判明すれば、それを理由に宦官あたりに確認してもらえばいいが、香を受け取ったという理由だけでは捕縛までは至らないだろう。
(それにしても、今になって腹が立って来たわ)
翠花が狙われるのはまだいい。ここが後宮である以上、皇帝の渡りがある妃には嫉妬も向けられるだろう。だけど、どうして侍女の小鈴と明明まで巻き込んだ?
(許せないわ!)
林杏は嫌がるだろうが、やはりこの手で犯人を捕まえてやらないと気がすまない。
(見てなさいよ。絶対に後悔させてやるんだから!)
翠花は残っていた棗をまとめてひっつかむと、口の中にいっぺんに押し込んだ。
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