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仙人皇帝のお気に入り  作者: 狭山ひびき


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狙われた翠花と麗孝の秘密 5

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 目を覚ました時、翠花(ついふぁ)は見知らぬ部屋の中にいた。


「起きた?」


 心配そうな色を宿したか細い声がして、翠花はぱちくりと目をしばたたく。

 豪華で広い部屋だった。

 翠花は布団の敷かれた大きな榻(ながいす)の上に寝かされており、声は目の前の大きな寝台から聞こえた。

 寝台の帳は開いており、その中に一人の男がいる。

 寝台に上体を起こした体勢でこちらを見ている男の顔には見覚えがあった。


「主上⁉」


 叫んで、ずきりと痛んだこめかみを押さえる。

 寝台の上から、いつもよりもずっと儚げな声で麗孝(りきょう)が言った。


「急に起き上がってはいけないよ。一時は危なかったんだから。まだ解毒も完全じゃないだろうし、ほら、横になりなさい。そこが嫌ならば私の隣に来てもいいよ」


 ころころと麗孝は笑う。

 その様子をこめかみを押さえながら見つめていた翠花は、違和感を覚えて首を傾げた。


(違う?)


 麗孝ではない、気がする。

 翠花とて皇帝麗孝をさほどして言っているわけではないが、目の前の彼は、顔は同じなのに、翠花の宮に訪れていた男とはまるで雰囲気が違った。


「主上、ですよね?」


 すると、目の前の麗孝が面白そうに目を瞬く。


「そうだね。確かに私は、紅龍国八代皇帝、冷麗孝(らんりきょう)だ。でも、君が知る主上は、私ではないかな」

「どういう……」

「こら麗孝。翠花を困らせるな。まだ完全に回復していないのに」


 怪訝な顔をした翠花の背後から、もう一つ同じ声が聞こえてきた。

 びくっと肩を揺らした翠花が恐る恐る振り返ると、そこには、目の前の麗孝と同じ顔をした男がいる。


「ひぅっ」


 情けない悲鳴が、喉の奥で凍った。


「あ、妖⁉」

「なんでだ。お前には俺が妖の類に見えるのか?」


 その口調には覚えがあった。翠花の宮に毎夜毎夜呼んでもいないのに訪れていた皇帝麗孝その人である。

 翠花の混乱は極致に至った。


「ど、どどど、どうして主上が二人⁉」

「とにかく落ち着け。解毒の途中だ。俺が発見したときは本当に危なかったんだぞ。ほら、薬湯だ。苦くても全部飲め。また口移しで飲まされたいのならば、やってやらんこともないぞ」

「口移し⁉」

「ああ、あれは見ものだったねえ。あんなに必死な静(じん)ははじめて見たもの」


 寝台の上のもう一人の麗孝が笑う。

 どうやら翠花が気を失っている間、麗孝が口移しで解毒薬を飲ませたらしい。

 というか、あっちも麗孝、こっちも麗孝で頭が大混乱中だった。何がどうなっているのか、まずは説明が欲しいのに、麗孝は容赦なく命じて来る。


「自分で飲むか俺に口移しで飲まされるか二つに一つだ。選べ」

「じっ、自分で飲みます!」

「そうか。ぐいっといけ。ちまちま飲めば苦さが際立つぞ」

「う……」


 渡された薬湯はすごく臭い。

 片手で鼻をつまんだ翠花は、麗孝に言われた通りぐいっと一気に薬湯を飲み干した。


(うえ、苦いぃ……)


 ぎゅうっと顔をしかめた翠花に、麗孝が笑って別の茶碗を渡してくれる。


「糖蜜を入れて甘くした花茶だ。口直しに飲め。こちらはゆっくりでいいぞ」

「ありがどうございまず……」


 口の中が苦くてうまく呂律がまわらない。

 甘い花茶の茶碗を受け取り、ちびちびと口に含むと、口の中いっぱいに華やかな香りと糖蜜の甘さが広がった。

 口の中の苦みが収まり、一息をついたところで、翠花ははっとした。


「そうだ! 小鈴(しゃおりん)と明明(めいめい)は⁉」

「あの二人なら宮まで宦官に運ばせた。薬湯も渡してあるから大丈夫だろう」

「そうですか……」


 ほっと胸をなでおろしてから、翠花は「うん?」と首をひねる。


「じゃあわたしはどうしてここに?」

「少し話があったからな。あと……おそらく、狙われたのはお前だろうから、危険から遠ざけたかったのもある」

「わたしが狙われたんですか?」

「おそらくだがな」


 はて、翠花は幽鬼に恨みを買うようなことを下だろうか。というか、相手が幽鬼なら避難したところで意味がないのでは?

 いろいろ気になるところはあったが、翠花は、その中でも一番の疑問から解決することにした。

 花茶の茶碗を置き、目の前の麗孝、そして寝台の麗孝を交互に見やる。


「あの、どうして主上が二人もいらっしゃるんですか?」


 その質問に、目の前の麗孝は肩をすくめ、寝台の麗孝は楽しそうにころころと笑った。





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