狙われた翠花と麗孝の秘密 4
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小鈴が取り落とした提灯を、翠花は慌てて拾い上げた。
草木が生い茂っている庭園はあっという間に火が回る。火災なんて起こしたら大変だ。叱責だけではすまされない。
明明も虫よけの香を持っていない方の手で口元を押さえて、目を大きく見開いていた。
小鈴が懐から短剣を取り出し、がたがたと震える手で構える。
暗い木々の間から、それは、ゆらりゆらりと左右に揺れながら現れた。
頭から薄布をかぶっているが、体格と着衣から女だとわかる。
月のない暗闇では、薄布の奥の顔ははっきりとは拝めない。
女は手に何かを持っていた。それは香壺だった。女がこちらに近づくにつれて、甘ったるい香りが漂って来る。
香壺から漂う白い煙が、暗闇の中でやけに鮮明に映った。
(なんか……、頭が、くらくらする)
翠花はこめかみを押さえた。
見れば小鈴の体が左右に小さく揺れていて、明明の顔色も悪そうだ。
視界がぼやけて、頭がくらくらして、まっすぐに立っていられない。
翠花は提灯を足元に置き、その場に膝をついた。
ぼんやりする頭をどうにかしようと、何度か深呼吸を繰り返す。
そのとき、ぱたりと音がして、小鈴がその場に倒れた。
「小鈴……」
震える声を絞り出したとき、小鈴の横で明明も倒れ込む。
何か変だ。翠花はそう直感した。
(もしかして、この香りかしら?)
あれは幽鬼なのだろうか。幽鬼ならば、何の幽鬼だろう。香壺を持った幽鬼なんていただろうか。
ぼんやりした思考で考える。
小鈴と明明をこの場に残してはいけない。
だが、翠花も足がしびれて立ち上がれそうになかった。
女は、静かにこちらに近づいてくる。
(もしかして、この甘い香りのせい……?)
わからない。わからないが、このままここにいるのは危険だ。
それはわかっているのだけれど、もう体に力が入らなかった。
意識が朦朧としてくる。
そのときだった。
木々の間を通り抜けるように強い風が吹いて、提灯の明かりが消えた。
女が頭からかぶっている薄布が吹き飛ばされ、その下の顔が露になる。
唇に血のように赤い紅を刷いた女は、とっさに袖で顔を隠した。
その仕草に違和感を覚えつつ、ちらりと星明りで見えた女の顔にどことなく見覚えがあるような気がして、翠花は眉を寄せる。
(もしかして、この幽鬼は、桑才人の…………)
翠花には、そこが、限界だった。
意識が混濁してついに倒れた翠花の元に、女がゆっくりゆっくりと近づく。
そして、にやりと笑った女は、手に持っていた香壺をそっとその場に置いて立ち去った。
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