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仙人皇帝のお気に入り  作者: 狭山ひびき


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残された謎 5

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 今日は林杏(りんしん)に頼んで手配してもらった師純(しちゅん)才人と肖春麗(しゃおちゅんりー)才人との茶会の日である。


 すでに桑才人殺害の犯人、欧美人の筆頭侍女可欣(くーしん)は捕縛されたあとであるが、彼女たちが火災のあった日の夜に、東の庭園を訪れていたという点は気になるのだ。

 もしかしたら、幽鬼に関係があるかもしれないし、ぜひとも二人から話が聞きたい。


 日昳(にってつ)(※十四時)の鐘が鳴った頃、師才人と肖才人が翠花(ついふぁ)の宮にやってきた。

 お茶会の給仕は林杏と小鈴(しゃおりん)が務めてくれる。

 二人の才人が席に着くと、茶と茶菓子が円卓の上に並べられた。


「わざわざご足労いただいて、ありがとう」


 翠花の実家である黄家は歴史も古く位も高い。翠花の父は国の重鎮でもある。

 翠花自身も、皇后と三妃のいない現在の後宮内においては、頂点に君臨する一人だ。師才人と肖才人を緊張させないようににこやかに微笑み、茶をすすめた。


(こういうのは得意じゃないんだけどね)


 とはいえ、良家の姫として、茶会の主催の仕方は学んでいる。

 多少ぎこちなくはあれど、茶をすすめ、茶菓子を食べているうちに、二人の緊張も解けてきたようだ。


「それにしても、桑才人殺害の容疑が晴れてほっとしました」


 甘い茶菓子で心がほぐれたらしい師才人が、薄い微笑を浮かべて言った。


「本当ですわ。純(ちゅん)とも、恐ろしいですわねって話していたんです」

「ええ。欧美人の宮が燃えたと聞いたときは、桑才人が火をつけたのかと思いはしたのですけど、まさか桑才人が亡くなったとは……。ねえ、春麗(ちゅんりー)?」


 師才人と肖才人は仲がいいようだ。何度も顔を見合わせながら頷き合っている。聞けば、二人は同郷らしい。


「お二人は桑才人が火をつけたと思ったの?」

「ええ」

「いつか、桑才人が欧美人を手に掛けるのではと話しておりましたの」

「それは、どうして?」


 桑才人が欧美人を憎んでいるという噂は確かに後宮内に流れていたようだ。だが、二人のどこか確信めいた口調が気になった。

 師才人と肖才人はまた顔を見合わせた。


「実は……」

「桑才人が東の庭園をよく訪れていたのを知っているのです。いつも日が暮れてから、提灯を片手に」

「東の庭園に?」

「ええ。その……あまり褒められたことではございませんが、実はわたくしと春麗は会談が好きで、東の庭園の近くに幽鬼が出るらしいと聞いて、たまに二人で夜に出かけていたのです。本当に出るのなら、実物を見てみたいなと思いまして」


 翠花はふと、この二人とは仲良くできるかもしれないと思った。

 林杏は頬を引きつらせているが、なんてすばらしい二人だろうか。ぜひ、次の肝試しの際には誘ってほしい。

 身を乗り出して、翠花は訊ねる。


「それで? 幽鬼はいた?」

「いいえ。残念ながらまだ発見には至っておりません。ですが代わりに……」


 なるほど、桑才人の姿を発見したというわけか。


「桑才人の筆頭侍女の美雨(めいゆい)が言うには、火災のあった日の夜に、幽鬼を見たかもしれないんだって。何か知らないかしら?」

「幽鬼ですか?」

「いいえ、その日、実はわたくしと純は東の庭園に肝試しに出かけておりましたが、それらしいものはなにも……。あと、これは関係のないことでしょうが、美雨は現在、欧美人の筆頭侍女をしていらっしゃいます。美人と才人の筆頭侍女では身分も変わりますので、お呼びになられるときはご注なさった方がよろしいかと」

「え?」


 翠花は目をぱちくりとしばたたいた。


「美雨は、今、欧美人の筆頭侍女になったの? それはいつから?」

「ええっと、火災のあった翌々日だったでしょうか? たまたまわたくしの侍女が外で会ったときに、桑才人のことについてお悔やみを伝えたところ、今は欧美人の筆頭侍女だから間違えないでほしいと言われたと」


 春麗が少しだけ困惑をにじませながら言う。主人が亡くなった後ですぐに別の、しかも筆頭侍女になるなんて、普通は考えられない。


(なんか妙ね。欧美人は桑才人の侍女たちを自分の侍女にしたとは聞いたけど、どうして美雨を筆頭侍女に? 自分の筆頭侍女だった可欣が捕縛された後なら、まだわかるんだけど……)


 まるではじめから、欧美人と美雨が親しかったように感じられる。


(ちょっと待って?)


 もしそうだとすると、根底が変わってくるかもしれない。

 可晴の話によると、美雨は最初は欧美人の侍女たちに攻撃的な態度を取っていたという。

 けれど、火災のあった日の一週間ほど前から態度は軟化し、親し気に話している姿が目撃されていた。

 もしその時期に、美雨が欧美人に懐柔されていたとしたらどうだろう。


(欧美人が桑才人の殺害を狙っていたとしたら?)


 美雨を使って桑才人を夜に欧美人の宮におびき寄せ、そこで毒を盛る。そして宮に火をつけて、毒殺の証拠隠滅を図る。その実行犯は欧美人の命令を受けた可欣だとしたら?

 欧美人本人は、桑才人に害されるかもしれないと怯えて見せ、空き家に避難しておけば、容疑者からは除外される。

 美雨は、捜査をかく乱するために、見てもいない第三者の女を見たと証言した。


(でも待って。そうなると、欧美人は自分の筆頭侍女である可欣を見捨てたことになるわ。人を殺したとなると、可欣は極刑になる可能性が高い。欧美人の命令で動いていたのなら、自分の罪が少しでも軽く住むように、可欣はそれも証言するはず。いくら主人が大事でも、代わりに極刑になることを受け入れるとは思えないわ。たぶん!)


 筋は通っている気がしたが、この推理も間違っているだろう。

 ならばやはり可欣が自白した通り、彼女が単独で桑才人を殺害したのだろうか。主人の平穏のために?


(うーん。これも、しっくりこないのよねえ)


 やっぱり、美雨が見たのは幽鬼だったと仮定して、その幽鬼を探してみよう。本当に幽鬼が存在して証言が得られれば万々歳である。


「話は戻るんだけど、桑才人は。東の庭園に何の用事があったのかしらね?」


 師才人と肖才人はそろって首を横に振った。


「わかりません」

「もしかしたら、わたくしたちと同じように幽鬼を探して……とかでしょうか」

「ああでも、ちらりと見かけた時は、なにかを探しているようでもありましたわ。もしかしたら、落とし物でもして、それを探していらしたのかも?」


(わざわざ自分で?)


 探し物なら侍女や宦官にでも頼めばいいのに?


「よほど大切なものを落としたのかしら?」

「さあ、どうでしょうか。わたくしには何とも……」

「関係があるのかどうかはわかりませんけど、わたくしたちは三度ほどお見かけしましたが、お見かけするのはいつも雨の日の翌日でしたわ」

「そう言えば、そうね」


(雨の日の翌日、ね)


 雨の日の翌日に、庭園に何か特別なことが起こるとは思えないので、これはたまたまだろう。

 翠花は月餅に手を伸ばしながら、にこにこと笑った。


「それで、噂の幽鬼について、もっと他に知っていることはない? わたしも会ってみたいわ、その、幽鬼とやらに!」





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