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仙人皇帝のお気に入り  作者: 狭山ひびき


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残された謎 3

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 次の日の昼過ぎ。

 翠花(ついふぁ)が榻(ながいす)にゆったりと腰かけて、昨日の宦官二人の証言を記録した紙を読み返していると、侍女の可晴(くーちん)と明明(めいめい)がやって来た。


 可晴には桑(さん)才人に敵がいなかったのかどうか。明明には火災当日、桑才人の筆頭侍女、美雨(めいゆい)がどうして桑才人を欧美人の宮に送った後でしばらくその場にとどまったのか。それを引き続き調べてもらっていたが、調査に進展があったようだ。


 可晴によれば、桑才人を殺害するほど恨んでいるような人間は見つからなかったという。こちらは引き続き調べてくれるとそうだが、欧美人を除く美人や才人たちと問題を起こしたことはないそうだ。


「桑才人は、後宮に入ってから、少なくとも日中は外出されることはほどんどなかったようです」

「そうなの? だから欧美人の宮にも、夜遅くに向かったのかしら?」

「かもしれません。ですが、桑才人の代わりに、筆頭侍女である美雨はよく外出していたようで、欧美人の侍女たちと言い争いの喧嘩をしていることもあったそうです」

「言い争い?」

「ええ。桑才人が欧美人に対して、盗人だなんだと罵っていたというあの件は、どうやら、桑才人本人というよりは侍女の美雨の発言が大きいようです。もちろん、主人の命令で侍女が欧美人を攻撃していた可能性も大いにあるので、何とも言えませんが。ただ、美雨の行動も、火災のあった一週間ほど前までのことで、その後は欧美人の侍女と問題を起こしてはなかったとのことです。むしろ、欧美人の侍女たちと話し込んでいる姿も目撃されていて、その様子は穏やかで、とても険悪には見えなかったとのことです」

「仲直りしたってことかしらね?」


 引っかかりはするが、侍女が主人の代わりに動くのは別段珍しいことではない。桑才人が欧美人を攻撃しろと命令し、それを美雨が実行していたとしてもおかしくはないのだ。

 ただ、火災のあった一週間ほど前に欧美人への攻撃が終わり、彼女の侍女たちと穏やかに会話ができていたのならば、桑才人と欧美人の関係が良好なものに変わったと考えることもできる。

 その場合、欧美人が桑才人の訪問に怯えて空き家に逃げたという点が気になった。関係が改善していたのなら逃げる必要はないだろう。


 次に明明の話だが、美雨が桑才人を欧美人の宮の前まで送り届けた後で、その場にしばらくとどまっていた理由。

 こちらについては、新たな情報が得られた。


「聞き込みを続けた結果、美雨と親しくしていた侍女から話を聞けました。その侍女は周暁蕾(ちょうしゃおれい)才人の侍女、深緑(しぇんりゅ)です。桑才人と周才人の宮は近しい距離にあり、よく顔を合わせていたことから美雨と雑談をする仲だったとか。深緑から聞いた話ですが、美雨は桑才人が欧美人をいつか殺してしまうのではないかと心配していたらしいのです」

「待って、桑才人は欧美人を殺したいほど憎んでいたってこと?」

「証言が正しいのであれば、そうなりますわね」


 明明がおっとりと頬に手を当てる。


「美雨は、桑才人が欧美人を最悪殺害するのではないかと気がかりで、その場にとどまっていた可能性が高まりましたわね」

「そうね……。でも、その場合、主人である桑才人よりも欧美人を心配していたということになるのかしら。ねえ、美雨が桑才人について後宮入りする前の情報って調べられる?」

「それは、後宮内ではさすがに難しいかと。主上をお頼りになられたらいかがでしょう」


 明明の言う通りだ。この件は麗孝に頼んでみよう。


「それにしても、情報が集まれば集まるだけ、小さな謎が増えていく気がするわ。この事件、いったいなんなのかしら? こんなことを言うのは何だけど、桑才人ではなくて欧美人が殺されていたら、桑才人が犯人だって言えそうなんだけど……殺されていたのはその桑才人なのよねえ」


 桑才人は欧美人を憎んでいたようなのだ。だから、桑才人が欧美人を殺害したのならば、わかるのだが。または、殺害されそうになった欧美人が反撃したかである。けれど、欧美人は空き家に避難していて、桑才人に手を下すことはできない。

 と、なると。


(欧美人と侍女たちが空き家に避難したあとも、一人だけ宮に残っていた可欣が一番怪しくなるのかしら? でもなあ……)


 だとしたら、美雨が見たという第三者の女は誰なのだろう。


「あーもう、わっけわかんないわー! ねえ明明、模擬刀ない? 体を動かしてすっきりしたい気分なんだけど!」


 明明はくすくすと笑って、首を横に振った。


「残念ながら、そのようなものはございませんわね。体を動かしたいのでしたら、舞の練習でもいかがですか? それならば、林杏(りんしん)様も怒らないと思いますわ」

「舞かぁ……。剣舞ならともかく、普通の舞じゃあんまり運動にはならなそうだけど、ま、じっとしているよりはましかしらねぇ」


 明明が目配せをすると可晴が二胡を持ってくる。可晴は二胡の名手なのだ。

 二胡の音色に合わせて、ゆったりと舞いはじめた翠花は、まさか今夜、事件が急展開を迎えるとは、露にも思わなかった。



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