残された謎 2
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「夜も遅い時間に外出されるからでしょうか、欧美人は薄布を頭の先からすっぽりとかぶっていらっしゃいました」
志賢は記憶を探るように顎に手を当てた。
「そうですね。白……いえ、薄灰色でしたでしょうか。そのような色の薄布をかぶっていらっしゃいました」
「その周囲を、四人の侍女が守るように固めていて、とても怯えていらっしゃるのだなと」
子豪が補足し、志賢が続けると、二人の証言を書き取っていた林杏が怪訝そうに顔を上げた。
「林杏、どうかした?」
翠花が訊ねると、林杏は「いえ、わたくしの記憶違いかもしれませんが……」と前置きをしてから答える。
「欧美人の侍女は、筆頭侍女を含めて五人いたと記憶しております。四人、というのが少々引っかかったのですが、本当に四人でしたか?」
すると、志賢と子豪は考え込むように視線を落とした。
「四人、だったと思うのですが」
「ええ。……そう言えば、四人の侍女の中に筆頭侍女の可欣がいなかったような」
「ああ、そうですね。見かけなかった気がします」
「筆頭侍女が不在だったということは、桑才人を迎えるために一人で欧美人の宮に残っていたのかもしれないわね」
翠花が言うと、志賢がぽんと手を叩いた。
「そうです! ええ、そうだと思います。欧美人の宮から火の手が上がる少し前に、合流した侍女が一人おりました。顔ははっきりと見なかったのですが、恐らくそれが可欣ではなかったのでしょうか」
「待って。最初は欧美人と侍女が四人空き家に向かって、時間差でもう一人合流したのね? それはいつ頃?」
子豪が答える。
「夜半の鐘が鳴って半刻ほど経ったころでしょうか。その後、四半刻も経たずして欧美人の宮から火の手が上がり、私どもは慌てて他の宦官たちを呼びに行きましたし、侍女たちは欧美人を守るように固まっておいででしたので、顔を確かめたわけではございません。ただ、一人、途中で合流したのは間違いありません」
すると、麗孝がため息をついた。
「どうして最初からそう証言しないんだ」
志賢と子豪はびくりと小さく震えて、深く頭を下げる。
「申し訳ございません。火災の騒動と桑才人が亡くなったことで動転しておりまして」
「黄美人にご質問いただくまで、すっかり忘れておりました……」
二人が怯えていてなんだか可愛そうになって来たので、翠花は麗孝に視線を向ける。
「主上が、桑才人殺害の犯人は、桑才人のあとに欧美人の宮に入った着飾った女……つまり、美人と才人の中にいるとおっしゃったから、侍女のことまでは気にしなかったのではないですか?」
「まあ、そうかもしれんが……」
(主上が文句を言いたくなる気持ちも、わからなくはないけどね)
これで、最重要参考人がもう一人増えたわけだ。
欧美人の筆頭侍女可欣があとから合流したということは、桑才人が欧美人の宮を訪れた時はその場にいた可能性が高い。
(例えばだけど、可欣が桑才人に毒入りの茶でも飲ませて殺害。そのあとで宮に火をつけて、欧美人に合流した可能性も出て来るわ。ただ、そうなった場合、桑才人のあとに欧美人の宮に入ったという『着飾った女』の謎が残るわね)
とはいえ、速やかに可欣に当時のことを確認する必要が出て来た。
志賢と子豪によれば、その後は宮の消火活動で忙しく、他のことは覚えていないという。
「どうもありがとう。もし気になったことがあったらまた訊ねるかもしれないけど、今日のところはもう大丈夫よ」
志賢と子豪はホッと表情を緩めると、麗孝の許しを得て、一礼して去っていく。
林杏が筆をおき、立ち上がった。
「少し遅くなりましたが、これから夕餉の準備をいたしますね」
「ええ、お願い」
林杏が夕餉の指示をするために去っていくと、明明が新しいお茶を用意してくれる。
「明日、可欣を呼び出して確認を取ることにする。可欣については、また明日の夜、報告に来よう」
「犯人の手掛かりが得られるといいですね」
「ああ。まったくだ」
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