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仙人皇帝のお気に入り  作者: 狭山ひびき


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17/23

最重要参考人の女 7

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 夕餉の時間になって、麗孝(りきょう)がやって来た。今日は昨日よりも来るのが早い。

 皇帝が来たせいで、林杏(りんしん)をはじめ侍女たちはてんやわんやの様子だった。

 食事の席に控えている林杏は先ほどから緊張で顔が強張っているように見える。


 翠花(ついふぁ)はというと、皇帝が来ると食事がいつもより豪華になっていいなと、どうでもいい感想を抱いていた。魚翅(ふかひれ)に舌鼓を打ちつつ、共寝はしなくていいけど夕餉だけは毎日食べに来てくれないだろうかと、林杏が聞いたら激怒しそうなことを考える。


 まったりと夕餉を終えて、腹が満たされて満足したところで、麗孝が林杏たち侍女を部屋から追い出した。

 くいっと顎をしゃくられたので、仕方なく寝台に移動する。

 帳を下ろし、麗孝が「さて」と薄く笑った。


「何かわかったか?」

「一日で犯人なんてわかりませんよ。まあ、新しい情報はいくつか仕入れましたけど、これが桑(さん)才人の死に関係があるのかないのかは、調べて見ないと判断がつきません」


 そう前置きしてから、翠花は侍女たちから聞いた話を麗孝に共有する。

 話を聞き終えた麗孝は、軽く目を見開いた。


「お前は間諜の才能があるんじゃないのか。なかなかの情報だ」

「わたしが集めたのではなくて侍女たちの成果ですけどね。師(し)才人と肖(しゃお)才人とは、二日後にお茶会をする予定ですので、そのときにそれとなく火災当日のことを探ってみます」

「ああ。夜に出かけたことを知っていると匂わせれば、案外あっさり口を割るかもしれないな」

「それは、やってみないとわかりませんけどね。ただ、二人が犯行に関係していないのならば、容疑をかけられないようにその日何をしていたのかを教えてくれるかもしれません」


 ついでに、怪しい人影を見た、などという情報があればなおいい。


「それから、桑儷杏(さんりーしー)の筆頭侍女の美雨(めいゆい)だが、確かに気になるな。何故その者は、すぐに宮に戻らず、欧梓瑜(おうずうゆう)の宮の前でしばらく時をすごしたのか。本人は桑儷杏が心配だったからと証言しているが、いったい何が心配だったのかについても引っかかるな」

「ええ。桑才人が欧美人を害するかもしれないと思っていたのならわかりますけど、わたしの侍女が調べたところ、桑才人の侍女たちは、桑才人と欧美人の関係を『気心が知れた間柄』と言っていたそうです。二人が良好な関係だと思っていたのなら、心配する必要はないかと」

「そうだな。証言に微妙な食い違いを感じる。だとすると……」

「誰かが嘘をついている。または口裏を合わせている、と考えるのが筋かもしれませんね」


 すべての証言が一致しているようで、ところどころかみ合わないのだ。


「今のところ、師才人と肖才人、それから美雨の三人が最重要参考人だな」


 翠花は頷き、それから言った。


「それから主上に、少しお願いがあるんですが」

「なんだ?」


 帯を解き、麗孝がごろんと寝台に横になる。

 ぽんぽんと隣を叩かれて、翠花は諦めて彼の隣に横になった。

 すぐに腕が腰に巻き付き、ぐっと引き寄せられる。どうでもいいが、くっつく必要はあるのだろうか。


「欧家と桑家に探りを入れてほしいんです」


 麗孝の衣に焚き染められている沈香が鼻孔をくすぐる。


「何を探る?」

「欧美人と桑才人が後宮に入った時のことを。十日違いで後宮入りしたときの二人の様子を、できるだけ詳しく知りたいです」


 桑才人は欧美人に対して、「自分がその宮に入る予定だった」「盗人」などと言う言葉を使って罵っていたと聞いた。その言葉が本当ならば、桑才人の方こそ、美人の身分で後宮入りするはずだったのではないかと思うのだ。


「それが桑儷杏の死と何か関係しそうなのか?」


 麗孝の指が、悪戯に翠花の髪をもてあそぶ。頭から簪が抜かれ、はらりと寝台の上に艶やかな髪が広がった。


「関係があるのかないのかはわかりませんけど、事件があまりにも不透明なので、情報はできるだけ集めておきたいです」

「わかった。いいだろう。探らせておく」

「ありがとうございます」

「他には何かあるか?」

「では、火災当日に欧美人を空き家に案内した二人の宦官の名前を教えてください。その日のことを詳しく聞いてみたいです」

「それならば明日の夜、俺が来るときに共に連れて来よう。俺の前で確認すればいい」


 ということは、麗孝はまた明日も来るらしい。


(毎日来なくても、三日とか四日に一度でよくない?)


 そんな不満を口にできはずもなく、翠花は「ありがとうございます」と平坦な声で礼を言う。


「もうないなら寝るぞ」

「はい」


 麗孝は今夜もこのまま夜を明かすつもりのようだ。

 諦めて翠花が目を閉じると、微睡みかけたところで、麗孝が唐突に妙なことを訊ねて来た。


「翠花。桃は好きか?」


 おかしなことを聞くものだなと思いつつ、翠花は意識を半分夢の中に突っ込みながらぼんやりと答える。


「好きですよ……」

「そうか」


 麗孝が嬉しそうに笑ったような気がした。





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