最重要参考人の女 5
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「わたくしは、火災のあった夜に外出していた妃嬪がいないかを探ってまいりました」
「夜中に出歩く妃嬪が桑才人の他にもいたってこと?」
「ええ」
翠花がまず思ったのは、よく侍女たちが許したな、である。
もし翠花が夜の散歩に行こうとしたら、間違いなく林杏が雷を落とすだろう。
(他の妃嬪の侍女って、優しいのね。いいなぁ)
そんな感想を抱きつつ、翠花は林杏の話に耳を傾けた。
「小鈴が調べてきたように、容疑の擦り付け合いがはじまっており、情報が錯綜しています。そのため、確実とは言い難いのですが……一応、裏取りが取れているもので、火災の夜、外出された妃嬪は桑才人を除けばお二人です」
「二人もいたの⁉」
「ええ。一人は、師純才人です。師才人はその日の人定(※午後十時頃)、庭園の方に散歩に出かけたそうです。侍女が一人同行しております。もう一人は、肖春麗才人。肖才人もやはり、人定の頃に庭園に向かったそうです。こちらも、一人の侍女を連れていかれたようですね」
「同じ時間に、二人の才人が庭園に向かったってことね。その庭園は同じ場所? それとも、違うところ?」
「同じです。東の庭園ですので、欧美人の宮からほど近い場所ですね。火災が起きた頃にはすでにご自身の宮に戻られていたようですが」
「その二人が何をしに庭園に向かったのか、怪しい人物を見ていないのか、詳しく聞きたいわね」
火災が起きた時間には自分の宮に戻っていたのならば、関係はないかもしれないが、不審人物などを目撃している可能性もないわけではない。
なんとか二人に接触できないものかと悩んでいると、林杏はにっこりと微笑んだ。
「それでしたら、翠花様がお茶会を開いて、そのお二人を呼べばよろしいのです。中級妃である翠花様に呼ばれたら、才人の立場で断れないでしょう。皇后と三妃がいない現状では、後宮内では四人の美人が最も位が高いのです。さらには」
林杏は笑みを深めて、どこか恍惚としながら言った。
「後宮に足を運ばれたことのない主上が、はじめて訪れたのが翠花様です。しかも、また今夜もいらっしゃるとか。ならば実質、この後宮で翠花様が一番偉いのですから、呼び出しに逆らえるはずがございません」
「そ、そうかしら?」
林杏が夢見る乙女のような表情になっていて、翠花は頬を引きつらせた。何を期待しているのか知らないが、皇帝麗孝は翠花が気に入ったから足を運んだわけではない。
(早いところ事件を解決しないと、このまま主上が連夜訪れるなんてことがあったら、林杏のあらぬ妄想が際限なく膨らむわ……)
そうなれば、今朝のように、「昨晩の夜伽はなかったのか⁉」と毎朝のように詰め寄られることになる。特別色気講義はお断りなので、早く麗孝が通わなくなるように犯人を特定しなければ。
翠花はこほんとひとつ咳ばらいをした。
「林杏、悪いんだけど、近いうちにお茶会の日取りを設定して、師才人と肖才人を呼んでくれるかしら?」
「お任せくださいませ。翠花様がようやく、後宮掌握に動きはじめるのですね」
「違うからね?」
林杏は翠花にいったいどんな期待をしているのだろうか。女としてダメダメだとわかっているはずなのに、何故そのような期待ができるのか甚だ謎である。
「お茶会については林杏に任せるとして、ひとまずわたしは、午後から東の庭園とやらに行ってみるわ。小鈴、ついて来てくれる?」
「わかりました!」
小鈴が元気よく答える。
可晴と明明は引き続き情報を集めて来てくれるそうだ。
(とりあえず、今夜報告できそうな情報を整理しておかないとね)
翠花は、すっかり冷たくなった茶の残りを、くぴっと飲み干した。
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