最重要参考人の女 1
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春の朝は冷える。
寝ている間に寒さを感じれば、自然と温いものに縋りたくなりものだ。
そうして、目の前の《《温いもの》》に擦り寄り、抱き着き、しがみついた翠花は、再び心地よいまどろみの中に意識を投じようとした。が。
「おい」
困惑と不機嫌が入り混じったような低い声が耳朶に触れて、翠花はむむっと眉を寄せる。
しかしそれでも目を開かずに、もぞもぞと自分の体のおさまりがいいようにと身じろぎしていると、ぺしっと頭が何者かにはたかれた。
「起きろ。お前に付き合っていたら昼になる」
乱暴な起こし方に驚き反射的に目を開けた翠花は、視界に飛び込んできた《《布団ではないもの》》に目をしばたたく。触り心地のいい黒い布だ。いや、衣か? 寝ぼけた頭でぺたぺたと目の前の布に触れていると、また、ぺしっと頭をはたかれた。
「起きろというに」
はたかれた頭に反射的に手を伸ばして顔を上げると、あきれ顔の男の顔があった。
その瞬間、翠花の頭のてっぺんから血の気が引いていく。
「しゅしゅしゅしゅ主上っ」
「やっと起きたか。頼むから放してくれないか。朝儀に遅れる」
「へ?」
翠花はそこで、自分が麗孝の体に足を巻き付けてしがみついていたことに気が付いた。
(ひっ!)
慌てて飛び起きると、麗孝が「やれやれ」と嘆息しながら上体を起こす。
「お前は女子なのだから、もう少し恥じらいを持ったらどうなんだ。腕と足でしがみつかれて、どうしようかと思った」
「た、大変、ご迷惑を……」
蚊の鳴くような声で謝り、翠花は叩頭する勢いで頭を下げる。さすがにこれは、恥ずかしすぎた。自分の寝相がここまで悪いなんて知らなかったのだ。
「まあいい。俺は起きる時間だが、お前が起きるには少し早いだろう。見送りはいいから寝ていろ。そうだな……また今晩、首尾を確認しに来る」
「今日も来る……いえ、いらっしゃるんですか⁉」
「悪いか?」
悪い、という言葉が喉から出そうになってぐっとこらえた。相手は主上。皇帝。翠花ごときが逆らってはならない。
けれど、しっかりと顔には出ていたようで、むむっと寄った翠花の眉間を、麗孝が笑いながら指先でつつく。
「ではな、翠花。今夜、いい知らせを待っている」
たった一日で成果なんて上がるわけないだろうと叫びそうになったが、やはりぐっとこらえた翠花は、寝台の上で跪拝した。
「お待ちしております……」
麗孝は鷹揚に頷き、どこか機嫌よさそうに去って行った。
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