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第7話 嵐の親善外交使節団

第7話 嵐の親善外交使節団


窓枠を激しく叩く雨音が、朝から執務室の重い空気をかき乱していた。エラは襟元が詰まった濃紺の絹ドレスの胸元を右手でそっと引き、深く息を吸い込んだ。朝食の残りの冷めきった麦粥には膜が張り、銀の匙には洗い残した油の曇りが白く浮いている。昨夜、深夜の厨房でヘンリーと言い争ったときの焦げたパンの匂いが鼻の奥に焼き付いて離れず、胃のあたりが鉛のように重い。そこへびしょ濡れの外套を羽織った伝令が転がり込んできた。

「報告いたします! 南の渓谷にかかる大橋が濁流で崩落しました! ベルンハルト王国からの使節団を乗せた馬車は間一髪で王都側へ渡られましたが、後続の荷車がすべて足止めを食らっております! 今夜の歓迎晩餐会に使う予定だった南方産の仔羊肉、高級香辛料、特注の洋酒樽、さらには招いていた帝都の大楽団の楽器類もすべて届きません!」


その場に居合わせた侍女たちが悲鳴を上げ、執務机の書類が風で散らばった。エラは指先で机の角を強く押さえ、荒れる呼吸を整えようとした。机の端には、朝方に侍従が置いたままの冷えたハーブ水が結露して、紙に丸い輪染みを作っている。ベルンハルト王国との通商条約は、この国の港町や織物工房が長年待ち望んでいた生命線であり、もし歓迎を侮辱と取られて使節団が引き返せば、民の暮らしは困窮する。

「取り乱してはなりません。まずは使節団長のご無事を確認し、客間へ案内するのが先決です」


マグダレーナ公爵夫人が、皺ひとつない灰色の立ち襟ドレスの裾を払って静かに前に出た。彼女の手元には、使い古されて端が擦り切れた儀典用の懐中時計が握られており、規則正しい秒針の音を刻んでいる。外の嵐がいかに荒れ狂おうと、この年配の教育係の背筋は定規を当てたようにまっすぐだった。

「晩餐会の開始まで残り六時間です。宮廷の格式を崩すわけにはまいりません。王室倉庫に保管してある最高級の年代物赤ワインを開け、地下の冷暗所にある備蓄のジビエ肉を総動員してフルコースの体裁を整えなさい。手順の変更は私がすべて紙に起こします」


しかし、厨房の扉が乱暴に開き、今度は給仕頭が青ざめた顔で駆け込んできた。男の手は震えており、エプロンの紐が片方ちぎれてだらしなく垂れ下がっている。彼の指先からは、酸っぱく鼻を突く異様な薬品の匂いが立ち込めていた。

「ま、マグダレーナ様! 大変でございます! 地下倉庫のワイン樽を確認したところ、封印が一度剥がされておりました! 念のため毒見用の銀杯を浸したところ、一瞬で黒く変色し、異臭が立ち上ったのです! とても客人に供せる状態ではございません!」


その場にいた全員の動きが凍りつき、誰一人として声を出せなくなった。エラは足元の革靴の中で、きつく指を丸めた。橋の崩落だけなら自然の猛威だが、王室倉庫のワインへの細工は明白な人為の毒牙であり、使節団を害して条約を破綻させようとする悪意が背後に潜んでいる。

「食材もなく、楽団もなく、王宮の誇る酒すら出せない……。これはもう、晩餐会の体面を保つことなど不可能です。中止を申し出るしかありません」

給仕頭が項垂れて呟いた言葉に、エラは前へ歩み出た。

「いいえ、中止にしてはなりません。席を設けないことこそ、遠路はるばる命がけで嵐を越えてきた使節団への最大の侮辱になります。宮殿の贅沢な飾り付けができなくても、もてなす方法はあります」


マグダレーナが冷徹な視線をエラに向けた。

「エラ様、平民の知恵でごまかせる場ではありません。相手は誇り高きベルンハルト王国の貴族たちです。粗末な食事を出せば、国辱として即座に宣戦布告の口実にすらなり得ます」

「ごまかすのではありません、公爵夫人。私は屋根裏にいた頃、大雨で荷が止まるたびに、町の人々がどうやって腹を満たし、どうやって互いを励まし合っていたかを知っています。高級な肉やワインの代わりに、今この王都にある一番温かいものを出せばよいのです。ルシアン宰相、王宮の門を開放し、市場と職人組合への使いを私に出させてください」


部屋の隅で黙って成り行きを見つめていたルシアン宰相が、黒い上着の袖口を整えながらゆっくりと歩み寄ってきた。彼の細い指先には、常に持ち歩いている帳簿用の黒インクの染みがついており、怜悧な眼鏡の奥の瞳がエラを値踏みするように細められた。

「警備体制の再構築と、使節団への表向きの説明は私が引き受けましょう。ですが妃殿下、貴族の晩餐会を庶民の炊き出しにするおつもりなら、その責任はすべてあなたの身に降りかかりますよ」

「承知の上です。すぐに手配をいたします」


エラは返事をするやいなや、重いドレスの裾をたくし上げて執務室を飛び出した。廊下を走りながら、エラはかつて市場の裏手で野菜の皮を剥き、仕入れ値を値切っていた日々の感覚を指先に取り戻していた。中庭のぬかるみを抜け、馬車の手配所へ向かう途中で、ずぶ濡れのヘンリーとすれ違った。ヘンリーの上質な緑の狩猟服は泥で汚れ、金髪が額に張り付いている。

「エラ! 橋が落ちたと聞いた。僕に何か手伝えることはないか?」

「ヘンリー、私は市場へ行って料理と楽団を調達してきます。あなたにお願いしたいのは、王宮の内部を洗うことです。毒が入っていたワイン樽の搬入記録と、倉庫の鍵の管理日誌をすべて調べてください。これは事故ではなく、誰かが意図して仕組んだ罠です」


ヘンリーは目を見張り、それから強く頷いた。昨夜までの頼りなげな微笑みは消え、その瞳には硬い決意が宿っていた。

「分かった。ルシアンの部下を借りて、僕自身の手で倉庫番を問い詰める。君だけに泥を被らせはしない」


激しい雨の中、エラは王宮を抜け出して王都の市場街へと馬車を走らせた。降り立った大通りの石畳からは、湿った馬糞と焼き立ての麦の匂いが混じり合って漂っていた。エラは泥水を跳ね上げながら、顔なじみのパン屋の扉を力いっぱい押し開けた。店先では、朝に焼き上がったばかりの丸いライ麦パンが籠いっぱいに積まれ、温かい湯気を立てている。

「おや、エラちゃんじゃないか! いや、今は王子妃様だったね。こんな嵐の日に、そんな綺麗な服を着てどうしたんだい?」

白い粉まみれのエプロンをした店主が目を丸くした。エラは息を弾ませながら、泥のついた手でカウンターに身を乗り出した。

「親方、お願いがあります。今ある焼き立ての黒パンとライ麦パンを、籠ごと全部買い取らせてください。それから、組合の干し肉と燻製魚、樽詰めの塩漬けキャベツ、それに保存用の白いんげん豆もすべて王宮へ運んでほしいのです」

「王宮へ? 王様たちが食べるような上等な白パンや仔牛の肉なんて、うちの市場にはないよ」

「いいえ、それでいいのです。今夜、隣国から大切なお客様が来ます。飾り気のない、一番力が出る温かい食事を王宮の大広間で出したいのです。それから、広場でよくリュートを弾いているトマスさんたちの楽団も呼んでください。王宮の楽隊が届かないのです」


店主はエラの真剣な目を見つめ、それから太い腕で自分の太ももを叩いた。

「よしきた! エラちゃんの頼みなら断れるかい。あいつらが美味い美味いと食うような、最高の豆と塩豚の煮込みを作れるよう、市場中の乾物と一番いいハチミツ酒をかき集めてやるよ!」


夕刻、嵐の雨脚がようやく弱まり始めた頃、王宮の大広間には異例の光景が広がっていた。磨き抜かれた大理石の床には長い木製の大卓が並べられ、銀の食器の代わりに、市場から運ばれたばかりの厚手の陶器の深皿が湯気を立てていた。皿の中には、塩豚の燻製と白いんげん豆を香味野菜とともにじっくり煮込んだ熱々のシチューがたっぷりと注がれ、粗挽きの黒胡椒とハーブの香ばしい匂いが部屋いっぱいに満ちている。卓の上には、素朴な編み籠に入った焼き立ての黒パンと、金色のハチミツを練り込んだ焼き菓子、それに地元で醸造された濁りのないリンゴ酒の樽が並んでいた。


部屋の扉が開き、ベルンハルト王国の使節団長であるフォン・ヴァイス伯爵が入ってきた。濡れた外套を従者に預けた伯爵は、首元に白いレースのクラバットを巻き、仕立ての良い黒い正装に身を包んでいたが、その眉間には深い皺が刻まれていた。彼は広間に漂う豆の煮込みの匂いと、粗野な陶器の皿を一瞥するなり、侮蔑を隠そうともせずに鼻を鳴らした。

「……これは一体何の冗談ですかな、王子妃殿下。我らは命を削って嵐の山道を越え、この国との未来を結ぶために参ったのです。出迎えの晩餐が、このような平民の炊き出しのような粗末な豆料理とは。我が国を侮辱するおつもりか」


周囲に控えていた貴族たちが青ざめて息を呑んだ。マグダレーナが静かに歩み寄ろうとしたが、エラは手でそれを制し、自ら伯爵の前へと進み出た。エラのドレスの裾には、市場を走り回ったときに跳ねた泥の跡がかすかに残っていたが、彼女の立ち姿は頭上に法典を載せて鍛え抜かれた通り、微動だにしなかった。

「ご不快に思われるのも無理はございません、伯爵閣下。ですが、この豆の煮込みとパンは、手違いの埋め合わせとして用意したものではございません。橋が落ち、嵐で物流が止まった今日という日に、この王都の民が命をつなぐために食べている本物の食事でございます」


伯爵は冷たい目でエラを見下ろした。

「本物の食事だと? 王族の外交の場で、庶民の日常を押し付けることが礼儀だとでも?」

「ええ、礼儀でございます。今夜、閣下に引き合わせたい者たちがおります」

エラが合図を送ると、大広間の下座から、少々緊張して上着のボタンをいじっていた数名の男たちが立ち上がった。一人は手首にタコのある織物職人、一人は日焼けした港町の交易商人だった。

「伯爵閣下、今回の通商条約で貴国の頑丈な羊毛を買い取り、この国の技術で極上の毛織物に仕立てて港から輸出するのは、宮殿に座る貴族たちではありません。ここにいる職人や商人たちです。彼らは嵐の中でも倉庫を守り、貴国との取引が始まる日を心待ちにしておりました。飾り立てた仔羊のローストや外国の古酒よりも、この国を実際に動かしている者たちが丹精込めて作ったパンと煮込みを共に味わっていただくことこそが、私どもの最大の誠意でございます」


広間の隅から、地元の音楽家たちが爪弾く素朴で力強いリュートと太鼓の音色が響き始めた。華やかさはないが、嵐を耐え抜いた人々の心を温める素直な旋律だった。ヴァイス伯爵はエラの真っ直ぐな瞳をしばらく見つめ、それから大卓の中央に置かれた湯気を立てる深皿へと視線を落とした。彼は無言のまま席につき、無骨な木製の匙を取って、熱い豆と塩豚の煮込みをすくい、口へと運んだ。

「……肉の塩気が強いな。だが、豆の甘みとハーブの香味がよく染みている。悪くない」

伯爵の口元に、わずかな緩みが生まれた。彼は深皿のスープをパンの切れ端で拭って口に放り込むと、向かいに座る港町の商人に視線を向けた。

「おい、商人。貴国の港の倉庫の湿気対策はどうなっている。我が国の羊毛は湿気に弱いのだ」

「へ、へい! 港の石造り倉庫は床を二重に上げておりまして、風通しは万全でございます!」

商人が身を乗り出して答え、気難しいはずだった使節団員たちも次々と匙を手に取り、パンをちぎり始めた。広間を満たす緊張は、いつしか湯気と笑い声と、具体的な取引の議論へと変わっていった。


その頃、大広間の喧騒から離れた宮殿の地下回廊では、冷たい石壁に松明の赤黒い光が揺れていた。床には湿気を含んだ藁が散らばり、鉄格子のはまった小部屋の前で、ヘンリーが腕を組んで立っていた。足元には、オルブライト侯爵家の紋章が刻まれた革袋が転がっており、中から溢れ出た金貨が鈍い光を放っている。ヘンリーの前には、縄で縛られた王室倉庫の責任者が膝をついて震えていた。

「言い逃れはできないぞ。搬入日誌の日付を改ざんし、毒物を混ぜたワインを地下へ運び込ませたのは貴様だ。この金貨の出所も、侯爵家の裏帳簿と完全に一致している」

ヘンリーの声は低く、怒りで震えていた。倉庫番の男は青ざめ、額を冷たい石畳に何度も擦りつけた。

「お、お許しください、王子殿下! わ、私はただ、言われた通りに樽の封を差し替えただけで……! まさか毒が入っているとは知らなかったのです!」

「誰に命じられた。オルブライト侯爵か」

「そ、それは……! 申し上げれば私の命が……!」

ヘンリーは腰の剣の柄に手をかけ、一歩踏み出した。かつての無邪気な王子ではなく、国を脅かす者を断罪する統治者の眼差しだった。

「言わねば今ここで国家反逆罪として首を刎ねる。真実を話せ。この企みの全貌は何だ」


倉庫番は恐怖に顔を歪め、喉から引き裂かれたような悲鳴を漏らした。

「ひっ……! わ、わかりました、すべてお話しします! 使節団を怒らせて条約を潰し、エラ様を責任者として追放するのが目的でした! 侯爵様は……侯爵様は、次の舞踏会でエラ様を完全に破滅させる準備を進めておいでです! あ、あの舞踏会の夜、エラ様が履いていた『ガラスの靴』……あれにまつわる重大な秘密を、侯爵様はすでに握っておられるのです!」


ヘンリーの表情が強張った。「ガラスの靴の秘密」という予想もしない言葉に、背筋を冷たいものが駆け抜けた。


晩餐会が夜更けに無事幕を閉じ、使節団が満足げに客間へと引き上げた後、大広間には食い散らかされたパン屑と、底をついたスープ皿が残されていた。エラは誰もいなくなった卓の端に寄りかかり、足の痛みを堪えながら小さく息を吐いた。コルセットで締め上げられた脇腹が痛み、絹の靴の中では踵の皮が擦り切れていた。

そこへ、ルシアン宰相が静かな足音を立てて近づいてきた。彼の指先には、先ほど使節団長と交わした仮条約の書類が握られており、まだ乾ききっていないインクの匂いが漂っていた。

「見事な立ち回りでした、妃殿下。使節団長は明朝、正式に通商条約へ署名すると仰っています」

「ありがとうございます、宰相閣下。皆様のお力添えがあったからこそです」

エラが頭を下げると、ルシアンは眼鏡を指先で押し上げ、感情の読めない瞳でエラをじっと見つめた。

「王宮は法と権力で国を動かすことができます。しかし、あなたは国を動かしている『人々』を知っている。机の上の数字しか見えない貴族たちには、今夜の晩餐は作れませんでした」


ルシアンはそれだけ言うと、薄く会釈をして背を向けた。入れ替わるように、地下から戻ってきたヘンリーが大広間の重い扉を押し開けた。ヘンリーの濡れた服はまだ乾いておらず、その手には倉庫番から押収した金貨の袋と供述書が握られていた。エラは夫の険しい顔を見て、ただならぬ気配を察した。

「ヘンリー……何か分かったの?」

ヘンリーはエラの前まで歩み寄ると、彼女の泥のついた靴と、疲れ切った顔を見つめ、それから搾り出すように口を開いた。

「……倉庫番を押さえた。オルブライト侯爵の関与も明白だ。だが、エラ……奴らは次に、君のあの『ガラスの靴』を狙っている」


窓の外では、嵐の去った夜空に冷たい月が顔を覗かせていたが、宮殿の奥底には、さらに暗く深い影が音もなく忍び寄っていた。


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