第六章 神聖契約
謁見の間へ集められた者たちは、互いに顔を見合わせながらも、誰一人として口を開かなかった。
七歳になったばかりの子どもから、学園卒業を目前に控えた十八歳まで。侯爵家以上に生まれた子どもたちだけが、この場へ招集されていた。これほど多くの子どもたちが一堂に会することは滅多になく、招集の理由を知る者もいなかった。
やがて扉が開き、国王と王妃が姿を現すと、子どもたちは一斉に跪いた。
「面を上げなさい」
全員が顔を上げるのを待ち、国王は口を開いた。
「本日そなたたちへ、伝えておかなければならぬことがある。これより話すことは、モーゼス・フォン・エーデル、ヴァレリア・フォン・クローネンベルク、そしてエーデル王国の未来に関わる」
国王は広間を見渡した。
「なお、当事者であるモーゼスとヴァレリアには、すでに必要な説明を終えている。よって本日の招集には含めていない。最後まで心して聞きなさい」
「まず、現在の王位継承順位を伝える。
第一位、クローネンベルク公爵、ヴォルカー・フォン・クローネンベルク。
第二位、クローネンベルク公爵家長男、ヴィンセント・フォン・クローネンベルク。
第三位、クローネンベルク公爵家長女、ヴァレリア・フォン・クローネンベルク」
三つの名が読み上げられた。
王城で暮らすモーゼスの名は、その中になかった。
広間に小さなどよめきが起こる。
「継承順位にモーゼスの名がないことを疑問に思った者もいるだろう。その理由は、モーゼスが私の実子ではなく、王家へ迎えた養子だからである」
年少の子どもたちが目を瞬かせ、年長の者たちもわずかに表情を変えた。
「エーデル王国では、王位継承権は王家の血を受け継ぐ者にのみ与えられる。養子として王家の一員となっても、王位継承権を得ることはない。ゆえに、モーゼスに王位継承権は存在しない」
国王は続けた。
「王家は、第三位王位継承者であるヴァレリア・フォン・クローネンベルクを、学園卒業後、王太子として国民へ公表することを決定している」
広間に再び小さなざわめきが広がった。
「王位継承権は生まれながらに与えられる資格である。一方、王太子とは、学園を卒業し一人前の貴族として認められた後、次代の王として正式に定められた者に与えられる称号だ。ゆえに、ヴァレリアは現在第三位王位継承者ではあるが、王太子ではない」
国王は一度言葉を切った。
「この決定は八年前、侯爵家以上の当主が出席した会議において協議され、正式に定められた。第一位継承者ヴォルカー、第二位継承者ヴィンセントもこれを受け入れ、ヴァレリアを支えることを誓っている」
「そなたたちも承知しているとおり、モーゼスとヴァレリアは婚約している。その婚約も同じ会議において決定されたものだ。モーゼスは王位継承権を持たぬが、将来は王配としてヴァレリアの隣に立ち、ともに国を支えることになる」
国王は集まった子どもたちへ視線を向けた。
「ここからは、なぜそなたたちにこれらを伝えることが許されているのかを話す」
広間が静まり返る。
「侯爵家以上は、すべて王家より枝分かれした家系である。代を遡れば、必ず王家へと辿り着く。その血を受け継ぐ者は、生まれて間もなく神殿において神聖契約を結ぶ」
国王の声だけが広間に響いた。
「神聖契約によって守られる秘密は、契約を結んでいない者へ伝えることができない。口にすることも、文字へ記すことも、何らかの形で伝えようとすることも、契約そのものによって阻まれる」
「神聖契約については、それぞれの家で教えを受けていることと思う。だが、各家で伝えられるのは、契約の存在と、自らがその責務を負う者であるということまでだ」
国王は続けた。
「そして本日、そなたたちは契約によって守られている秘密の一つを知った。モーゼスが私の実子ではないこと。ヴァレリアが次代の王として定められていること。そして、モーゼスがその王配となることだ」
「契約を結んでいない者は、これらを知らぬまま学園へ入学する。王城で育ったモーゼスを見て、次代の王となるのは彼だと思う者もいるだろう。あるいは、ヴァレリアとの婚姻によって王位を継ぐと考える者もいるかもしれない」
国王の声がわずかに強まった。
「だが、それは誤りである。そして、たとえ目の前でそのような誤解をされても、そなたたちから真実を明かすことはできない」
何人かの子どもがわずかに身じろぎした。
国王は並んだ子どもたちを見渡した。
「本日この場へ集めたのは、モーゼスとヴァレリアが学園に在籍する間、同じ学園で過ごすことになる神聖契約者たちである」
ここで初めて、自分たちがこの場へ呼ばれた理由を、子どもたちは理解した。
「学園には、契約を結んでいない者も大勢いる。そこでどのような誤解を耳にしようとも、今日知った真実と、自らがそれを知る立場にあることを忘れぬように。
そして、ヴァレリアが王太子として公表される日まで、二人が何事もなく学園生活を送れるよう可能な限り力を貸してほしい」
しばらくの沈黙の後、ひとりが頭を垂れた。
「御意」
続いて別の者も頭を下げ、やがてその声は広間全体へ広がっていった。
「御意」




