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民の女王と道を違えた王配  作者: はてな小僧


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第九章 それぞれの未来

新たな学年を迎えた生徒たちは、久しぶりに再会した友人たちと言葉を交わしながら校舎へ向かっていた。その賑わいの中を歩くモーゼスに気づいた生徒たちは、次々と姿勢を正して一礼した。


「おはようございます、モーゼス殿下」


「おはよう」


挨拶を返すと、昨年同じ教室で学んだ生徒たちが自然と隣へ集まり、休暇中の出来事や新しい一年について話し始めた。


「いよいよ三年生ですね」


「今年から専攻のお話が始まると思うと、少し緊張します」


「父には、焦らず最後まで話を聞いてから決めるようにと言われました」


「うちも同じです。最初から一つに決めつけず、自分の目で確かめるようにと」


モーゼスはときおり言葉を返しながら、彼らとともに校舎へ向かった。


「モーゼス殿下は、もうお決めになっているのですか?」


隣を歩いていた生徒に尋ねられ、モーゼスは周囲へ目を向けた。


「専攻のことかな」


「はい」


「ある程度は決めているよ。でも、せっかく一通り見ることができるのだから、すべて見学してから最後に決めようと思っているんだ」


一人が感心したように声を上げると、別の生徒も続いた。


「さすがモーゼス殿下です。将来、国王として国を治められるお方は、お考えになることが違いますね」


「だからこそ、一つの専攻だけではなく、すべてをご覧になるのでしょう」


当然のことのように向けられた言葉に、モーゼスは何も返せなかった。


「どの専攻にも、国を支えるために必要な役割があるからね。それぞれが何をしているのか知っておきたいんだ」


「なるほど……即位された後のことまで考えていらっしゃるのですね」


モーゼスは曖昧に笑い、今度は答えなかった。


やがて教室へ入ると、すでに多くの生徒が席に着き、久しぶりに顔を合わせた級友たちとの会話を楽しんでいた。


始業の鐘が鳴ると教室は静まり、ほどなくして教師が姿を現した。生徒たちは一斉に立ち上がって礼をする。


「皆さん、進級おめでとうございます」


教師は教室を見渡してから、三年生から始まる専攻について説明を始めた。


「これまでの二年間、皆さんは貴族として必要な礼儀や教養をはじめ、領地や国を支えるための基礎を学んできました。三年生となる今年からは、それに加えて、自らが将来どのような役割を担うのかを考えていただきます」


生徒たちの表情が引き締まった。


「夏季休暇へ入るまでは、四年生が受けている専攻授業を見学していただきます。見学する教室は自由です。同じ専攻へ何度足を運んでも、すべての専攻を見ても構いません」


教師は教卓に置かれていた案内を配り始めた。


「夏季休暇前までに専攻を決め、休暇明けからそれぞれが選んだ分野で学ぶことになります。授業の内容だけではなく、先輩方がどのように考え、意見を交わしているのかも見てきてください」


案内を受け取った生徒たちは、記された教室の場所を確かめ始めた。


「専攻は、途中で変えることもできるのですか?」


一人が手を挙げた。


「やむを得ない事情があれば認められることもありますが、自ら選んだ道です。まずは十分に見学し、よく考えて決めてください」


説明が終わり、休憩を告げる鐘が鳴ると、生徒たちは近くの席へ身を寄せながら、最初にどの教室を見学するのか話し始めた。


「私は父から勧められている専攻を、まず見に行こうと思います」


「最初から一つに決めてしまうのですか?」


「決めるつもりはありませんが、父がなぜ勧めたのかくらいは知っておきたいので」


「私は反対に、家では勧められそうにないところから見てみようと思っています。今なら自由に見られますもの」


それから夏季休暇まで、生徒たちは専攻授業の時間になるたび、思い思いの教室へ向かった。


行政では各領地から届いた報告をもとに施策を考え、財政では限られた予算をどこへ振り分けるかを議論する。外交では他国との交渉を想定した課題が出され、司法では一つの争いについて双方の事情を確かめながら判断を組み立てていた。


見学を終えると、休み時間や昼食の席では自然と感想が飛び交った。


「思っていたより難しそうでした」


「私は反対に、もっと堅苦しいものだと思っていましたわ」


皆が思い思いに話す中、カタリーナも頷いた。


「私は面白かったです。先生が答えを教えるのではなく、自分で考えるよう問い掛けてくださるところが好きでした」


「カタリーナ様は、そのように思われたのですね」


「はい。見学するまでは難しそうだと思っていたのですが、実際に見てみたら、もっと知りたくなりました」


「意外ですわ」


一人の令嬢がそう言うと、別の生徒が笑った。


「見学のたびに目を輝かせていらっしゃいましたものね」


「そんなに分かりやすかったですか?」


カタリーナも照れたように笑い、その場にいた者たちから笑い声が上がった。


モーゼスもすべての専攻へ足を運び、それぞれの教室で交わされる議論へ耳を傾けた。どの分野にも国を支えるための役割があり、一つを選べば他を学ぶ時間が減ることを惜しく感じながらも、見学を重ねるうちに、自分がより深く学びたいものも少しずつ見えてきた。


夏季休暇を目前に控えた頃、生徒たちはそれぞれの専攻を決め、教師へ届けを提出した。


「休暇が明ければ、今までのように皆で同じ教室へ行くことはなくなるのですね」


「共通授業では一緒ですし、昼食もありますわ」


「それでも、少し寂しくなります」


その言葉を聞いたカタリーナは少し考えてから笑った。


「でしたら、昼食の時にまた集まればよろしいではありませんか」


「あら、それもそうですわ」


「それぞれ違う授業を受けるのですから、今までより話すことが増えるかもしれませんね」


生徒たちは顔を見合わせて笑った。


長い夏季休暇を終えて学園へ戻ると、それぞれが選んだ教室での授業が始まった。


共通授業ではこれまでどおり顔を合わせていたが、専攻の時間には別々の教室へ向かうようになり、休み時間や昼食になると、自分が受けた授業について話すことが増えていった。


モーゼスも他の専攻へ進んだ学友たちの話を聞くようになり、その中でもカタリーナと話す機会が増えていった。


ある日の昼食後、モーゼスは授業で答えの出なかった課題をカタリーナへ話した。


「カタリーナ嬢なら、どう考える?」


「その前に、殿下はどう思われたのですか?」


「僕?」


「はい。殿下のお考えを伺わなければ、違うところがあるのかも分かりませんもの」


モーゼスは少し考えてから、自分が授業で出した答えを話した。


カタリーナは途中で口を挟まずに聞き終えると、少し考えてから口を開いた。


「私は少し違うところが気になりました」


彼女の考えを聞き終えたモーゼスは頷いた。


「そうか。そこは考えていなかったな」


「でも、殿下のお話を聞いて、私も見落としていたことに気づきました」


二人が話していると、近くにいた学友たちも「何の話ですか」と加わり、やがてそれぞれの意見を出し合うようになった。


こうしたやり取りは、その後も何度か繰り返された。


やがて木々の葉が落ち、学園の敷地を白い雪が覆う頃になると、三年生として過ごした一年も終わりへ近づいていた。それぞれが選んだ専攻で何を学んだのか、来年はどんなことを知りたいのかと、休み時間の話題も少しずつ変わっていった。


そして学年最後の日、教室を出た生徒たちが新しい一年について語りながら正門へ向かう中、モーゼスは少し前を歩くカタリーナへ声をかけた。


「カタリーナ嬢」


振り返った彼女に追いつき、歩調を合わせた。


「四年生になっても、また話を聞かせてくれる?」


カタリーナは笑みを浮かべた。


「もちろんです。その代わり、殿下もたくさんお話を聞かせてくださいね」


「約束だ」


二人はそのまま学友たちの後を追い、春を待つ学園の正門へ向かって歩いていった。


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