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Link's  作者: 黒砂糖デニーロ
第四章
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第三十八話 新たなる剣

「バカのくせにカッコつけるな。キモいぞ、バーカ!」

 十年来の友人にあんまりな言葉を吐きながらアオイはジープの屋根を蹴り、弾丸の速度で二人の頭上を飛び越えていく。

 そのアオイの全身を、パッと空中に舞った光り輝く粒子が包み込む。そして光は一瞬にして美しい白金色の鎧となった。

 現れた鎧は、[ベルカ]の頃の無骨なデザインとは大きく異なる。

 元々の鎧の記録も[ベルカ]と共に失われた。だからアオイの戦闘スタイルに合わせ、僕が新たにデザインしたものだ。

 全体的に丸みを帯びた曲線的な外観。身軽に見えるのは、装甲の数を減らしたから。 防御箇所を限定し、アオイの得意とする機動戦に重きをおいたデザインとなっている。

 一瞬で鎧を纏ったアオイが魔属の群れの中に飛び込むと、鞘走りの音と共に周辺の魔属がまとめて細切れに吹き飛ぶ。

 突然の闖入者を迎え討とうと殺到する魔属たち。しかし、駆けるアオイにただの一体とて爪の先を触れることすらできない。

 間合いに入った瞬間、青白い光が煌めき、後にはその身を切り裂かれ、もしくは頭を跳ね飛ばされ無残な骸が転がるだけだった。

 勇者に引きつけられる魔属の特性により、ガルスに向かっていた群体の進行方向が変わる。黒い濁流がアオイを中心とした大きな渦巻を描き始める。

「二人ともお待たせ!大丈夫かい!?」

 後輪を滑らせ、砂煙を上げながら車を停めると同時に飛び降りて二人に駆け寄った。

「「ああ。こいつはともかく、俺(オレ様)は大丈夫だ」」

 まるで練習でもしていたかのようにぴったりのタイミングで同じことを言う二人に、僕は思わず苦笑いする。本当はこの二人、仲がいいんじゃないかしら。

「って二人とも怪我してるじゃないか!すぐに手当をするよ」

「いや、手当は自分でする。それよりもコイツを見てやってくれ」

 僕を押しとどめ、チェーンソーを差し出す。手渡されたチェーンソーは凝固した血で塗り固められ、うっすら煙すら上がっていた。まともに動くような状態ではないのは一目瞭然だ。よっぽど無茶をしたのだろう。

「了解。交換パーツは持ってきてる。すぐに直すよ」

 言いながら僕は手早く解体に取り掛かる。その間、クロウは自分の応急手当をする。

 一方、ギンは目の前の光景を凝視していた。その目が追っているのは、魔属の群れの中で剣を振るうアオイだ。

 完全復帰したその姿をギンは心から安堵したような眼差しで見つめる一方で、つぶさに観察の目を走らせていた。とりわけその視線は、青白く発光するアオイの剣に注がれている。

「あれは[ベルカ]か?[ベルカ]は破壊されたものと思っていたが」

「さすがギン。もう気付いたみたいだね」

 僕はここぞとばかりに得意げに説明する。

「壊れた[ベルカ]をベースにはしてるけど、僕がアオイのためにデザインした新しい聖剣だよ」

「聖剣を……そうか、なるほど。考えたな」

 表情は薄く笑みを浮かべ、納得したといった表情だった。

「色々と制約はあったけど、結果的にアオイに相応しい、〈L粒子〉を最大限に活用できる聖剣に仕上がったと自負しているよ」

 ――疑問は以前からあった。

 鎧として物質化することすら可能とする〈L粒子〉。しかし、実際に行っていたのは切断力強化や機動力補助、そして超回復のみ。それだけでも十分に特出した能力だが、もっと利用できることは多いはずだと常々考えていた。

 それは単純に[ベルカ]が作られた数十年前の技術ではそれが限界だったという事情もあるのだろうけれど、それ以上にアオイの生命を守るための機能であったのではないかと推測する。

〈L粒子〉はとりわけ潜在力の消費が激しい部類に入る能力である。それこそ、一歩間違えれば命を失いかねないほどに。事実、それは先日の戦闘で痛感させられた。

 そこで攻撃、移動、回復という戦闘における重要な要素に特化させ、消費量を常に一定にコントロールすることで粒子の過剰消費を抑え、アオイ自身を守る役目を[ベルカ]は担っていたのだ。

 ちなみに、[ベルカ]の粒子変換に変調をきたしたのは、スペックを上回る粒子発生量が原因であることが、新たな聖剣の製造過程でわかった。

[ベルカ]はアオイがいつか勇者として旅立つ日に備え、アオイの両親が生前に準備していたものと聞く。恐らく、イリス家の系譜から発現するDEEPを知った上で、能力に最適となる聖剣をデザインしたのだろう。

 だが当初の予測を上回り、アオイは[ベルカ]が制御しきれないほどの成長を遂げてしまった。結果、不具合を生じ、逆に担い手であるアオイに負荷がかかる事となった。

 時にそれは熱となってその身に蓄積されたり、粒子の強制排出であったり。

 フェイクリーダーとの戦いの最中、氷漬けを一瞬で蒸発させたのも、アオイの感情爆発に呼応して大量発生した粒子を[ベルカ]が強制排出したエネルギーによるものだ。

 恐らく、ヴィルさんに破壊されなくても早晩[ベルカ]はアオイに対応できず、崩壊していたことだろう。

 閑話休題。

[ベルカ]の担っていた役割は、新たな聖剣作製における重要な要素(ファクター)であり、立脚点となった。

「ンだよ、レン。もったいぶらないで、どんなビックリドッキリギミックなのか教えろよ」

「別にもったいぶってるわけじゃ……って、ちょっとアオイ!?突っ込み過ぎだよ!」

 見ればアオイは群れの中腹にまで斬り込んでおり、すっかり取り囲まれていた。

「中級種がまとまってる!今がチャンスだ!」

 アオイが叫ぶ。対群戦においてまずは上位種を潰すことがセオリーとされている。下級種を統率する司令塔を叩いてしまえば魔属も統制を失い、攻め入る隙が生じる。

 その司令塔を一掃できるチャンスを見出したから、アオイは危険も顧みず突出したようだ。

「わかった。それじゃ一気に決めちゃおう。今準備するから少し待って」

 言いながら、僕は両手首に装着されたブレスレットのスイッチを押す。すると僕の目の前には立体映像のスクリーンが、掌の正面には同じく立体映像のキーボードが現れる。

 これらは聖剣のサポートを目的とした僕の新たなコンピューター。聖剣の製造に先立ち、アーヴィングさんに発注をしたものだ。

 モニターには聖剣の各ステータスが表示されている。キーボードの上を高速で指が滑ると、その数値が変化を見せる。同時に無数のコマンドを瞬時に立ち上げ、実行。

 瞬間、アオイの剣は光を放ち、形状を変化。細剣から無骨な長剣形状となる。その刀身は、〈L粒子〉の光を纏い、サファイア色に光り輝いていた。

「よし、いいよアオイ。()()()!」

 呼びかけに応えると、アオイは身を絞るように剣を後ろに大きく引いて剣を構える。それに合わせ、粒子の光は一層その輝きを増す。そして、その小柄な体からは想像もできない程の大きい音を立てて右足を大きく踏み出すと、体全体を使って力強く薙ぎ払った。

 円を描くように大きく振り払われた瞬間、光は奔流となって激しく放出。地を走り、空を焼き、太陽のような眩い光が魔属の群れを飲み込んでいった。戦場は束の間、目を開けていることもできないほどの光に包まれた。

 それからわずか数秒後。

 その光が消え去ったとき、地を埋め尽くすほどいた魔属群が、跡形もなく消え去っていた。燐光が粉雪のように舞う戦場に立つのは、生じた余波でお下げ髪とスカートをバタバタとはためかせるアオイただ一人だった。

 アオイを中心とした扇状に前方数キロに渡る範囲の魔属群がたった一撃で消滅したのだから、クロウだけでなく、あの冷静沈着なギンまでもが目を見開いて驚きをあらわにしていた。事前の最終調整で数値上は理解していた僕すらも、目の前の光景には圧倒されていたくらいだ。

「見ての通り、こんな感じでアオイは前よりも〈L粒子〉を幅広く使えるようになったんだ」

「さらっと言ってっけど、こりゃ幅広くってレベルじゃねぇだろ。すげぇモン拵えたな。本職の聖剣鍛冶師も顔負けだぜ」

「一応、その本職なんですけどね。僕」

 どうやらクロウの僕に対する認識を一度問い質す必要がありそうだ。

「と言っても、元々〈L粒子〉はこれだけのことが可能だったんだ。あの聖剣はそれを引き出しているに過ぎないよ」

「待て、レン。今までは[ベルカ]がアオイの粒子をコントロールしてきたのだろう?それがなくなったのに、あんな大技を繰り出してアオイは大丈夫なのか?」

 ギンの危惧はもっともだ。

 聖剣が蘇っても、アオイの潜在力が底なしになったわけじゃない。潜在力消費の危険性はまだ記憶に新しい。

「もちろんだよ。なんせあの剣を制御してるのは僕なんだから」

 しかし、彼の問に自信を持って答える。

「粒子のコントロールを司っていた聖剣「ベルカ」は破壊されちゃった。もうあれと同じものは作れない。もちろん、じっくり時間をかければ近いものは作れるけど、今回はその時間もなかった。だから、いっそのことその役割は聖剣の外側――つまり、僕とコレで担うことにしたんだ」

 言いながら、腕のブレスレッド型端末を掲げてみせる。

[ベルカ]と同等以上の粒子コントロール機能を聖剣に付加する場合、プログラム構築と刻印、そして検証試験に優に数年はかかっただろう。

 だからあえてその機能はオミットし、僕の側で管理することとした。コンピューターを新調したのもそのためだ。

「アオイの粒子生成から使用量を各種センサーで読み取り、数値化することで常に粒子状況を監視してるんだ。〈L粒子〉の流れをコントロールし、状況に応じて変換率を操作することで潜在力の過剰消費を抑えているんだよ」

「詳しい理屈はわからんが、これまでは聖剣任せだったのをレンが管理をするようになったということか」

「簡単に言うとね」と僕は同意するも、ギンはまだ納得がいってないように首を捻って唸る。

「納得できないって感じだね?」

「そういうわけでもないが、粒子のコントロールという話とあれがどうも繋がらなくてな」

 アオイが魔属を薙ぎ払った一帯をギンは指差して言う。良い質問をしてくれるなぁ。

「二人共、剣の形が変わっているのには気づいたかな?」

「おぉ。確かに、少しデカくなったな。それが関係してんのか?」

「これこそが、あの聖剣の最大の機能。つまり、粒子の使用用途に合わせ、最適な形状変化(トランスフォーム)することなんだ!」

 ここぞとばかりに饒舌になって説明を開始する。一瞬クロウが顔をしかめ「げっ。始まった」と呟いた気がしたが、気のせいだと思うことにする。

〈L粒子〉を幅広く使える、とは言ったけど、実際はそんなに簡単なことじゃない。例えば今アオイが魔属を一掃した一撃は、〈L粒子〉を純粋なエネルギーにして放出する、単純だけど現状の最大火力の攻撃だ。けれど、これは出力調整などでできる芸当じゃなく、それこそ、内部の回路まで改変が必要となる。

 そう。だから()()()()()()()

 粒子の物質化を利用し、内部で擬似的な回路を形成している。いわば即席の伝導基盤(モノリス)を剣の形で構築しているわけだ。

「――つまり、アオイの能力を使って全く別の機能を持った聖剣に変わっているということか?」

「そのとおり!構築したデータを聖剣側が読み込み、それを具現化するんだ!これなら実質いくらでも聖剣を作ることができるに等しいんだ。どう?すごいでしょ!ね?ね?」

 つい興奮気味に語ってしまい、ギンが少し引いてしまっている。いけないいけない。

「すげェのはわかったけど、それは要するに聖剣のデータをレンが用意しなきゃいけないわけだろ?」

「まぁね。でも幸い、データだけは豊富にあるからね。今まで製造にまで至らなかったり、作っても使われなかった挙げ句に置き忘れてきちゃった聖剣の設計データとかね!」

「嬉しいと言うより、積年の恨みを晴らしたかのような口調だな」

 流動的な戦況を逐一把握しながら、作戦や戦闘に合わせて聖剣と粒子の性質を最適に変化させる――それを僕の役目とも合致するものだ。

 何より、この機能には限界がない。今後いくらでも機能を付加していくことができる。

 無論、それには僕のプログラム設計が不可欠だ。あの聖剣でアオイが戦ってけるかは僕の腕にかかっている。

「今、あの聖剣にできることは少ない。でもこれから先あの聖剣は形を変え、成長していくんだ」

「成長する剣……なるほど、悪くないな。さすがだな、レン」

 ギンは微笑を浮かべて感心したように僕を肩を叩く。

 どうやら彼の期待に応えることができたようだ。

 でも、この聖剣の製造には多くの人が関わった。アーヴィングさんやガーネットさんを初めとしたヴァーミリオン社の協力。魔属を押しとどめ時間を稼いだランス大佐ら軍の尽力。そして僕に道を示してくれたクロウとギン――誰か一人でも欠けていたなら、この聖剣は完成しなかった。

 けっして僕一人の力ではない。

 と、感慨にふけっている場合じゃない。僕は気を引き締め、戦場をつぶさに分析する。

 この戦域の驚異と呼べる魔属はもはやいない。統率を失った下級種を刈り取ることは容易だ。

 しかし全域で見ればその数は尚も膨大だ。まだ戦場に到達していない後続の群体を勘定に入れれば、未だ危機的状況に変わりはない。

 そしてこの戦場に勇者はアオイ一人。その全てを完全に殲滅することはできない。

 とはいえ、今の一撃で前衛群を消滅させることができたのは非常に大きい。

 国連軍によるガルス爆撃は、魔属群のガルス到達が条件。つまり、これにより時間を稼ぐことができた。時間ができれば、その間に別の対策を講じる猶予ができる。うまくすれば、ガルス爆撃回避を期待することもできるかもしれない。

 絶望的な状況にわずかながら希望の光が灯された。

「よっしゃ。それじゃあ休憩は終いだ。お仕事の時間だぜ」

 ギンも異論はないと黙って頷き、木刀の柄に手を置く。二人とも再び戦線に戻るようだ。アオイの復活は、二人の気力をも取り戻させたようだ。

「よし!つらい状況だけど、もう少しだけがんばって――」

 気合を入れなおしていたその矢先。

 強い振動が一瞬、足裏より伝わってくる。

 それも一度ではない。強いが短い揺れが断続的に大地を揺らしていた。

 地震、ではない。地震のような長い揺れではないのは明らかだった。

 何かがこちらに、近付いていた。

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