従属の領分、あるいは意地
クロウが一体の魔属を屠り、ギンが次の群れを迎え撃とうとしていたその時、二人の耳に声が響く。レシーバーから聞こえてきたのは、ランス大佐の声だった。
『全軍に通達。現時刻をもってクラウン基地を放棄する。所定の合流ポイントまで撤退せよ。繰り返す――』
「オイ!オレ様たちゃまだ戦えるぞ!」
クロウは声を荒げて噛み付く。
『部隊全体の損耗が激しい。これ以上の戦闘継続は不可能だ。悔しいが、ここまでだ』
「この後はどうするつもりだ?クラウン基地は最後の砦だろう?」
国連は魔属が都市に入ると同時に爆撃で都市を消滅させる。それは事前のブリーフィングですでに二人にも告げられていた。
『……我々はガルスにて魔属群を迎え撃つ。せめて、ガルスの完全退避が完了するまで、少しでも時間を稼ぐのだ』
その声には、忸怩たる思いが滲んでいたのが聞き取れた。
本人もわかっているのだ。それが希望のない防衛戦であることを。
ガルスは守りきれない。
爆撃か魔属か。いずれにしても、ガルスは地上から消滅する。
その現実を呑み込み、決断をせねばならない彼の思いは察するに余りある。
二人は顔を見合わせた。
言葉を交わさなくとも、その意思が一致しているのがわかった。
『お前たちもよくやってくれた。すぐに手近の部隊と合流地点に――』
「オッサン。オレ様たちはここで戦うぜ」
「ここで魔属を一匹でも減らす。その間に撤退を進めてくれ」
『馬鹿を言うな!貴様らだけで何が出来る!勇敢と無謀を履き違えるな!』
「撤退するにしても、その間に魔属群を引きつける役が必要だろう?幸い、それは俺たち従属の専門分野だ」
「うちの勇者はポンコツだからな。ンな事はしょっちゅうやってるぜ」
怒鳴るランス大佐に、軽い口調で返すクロウとギン。
『ふざけるな!そんな事――』
「それに、オレ様たちゃここで待ち合わせの約束があるんでね。悪いが、勝手にさせてもらうぜ」
それでも呼びかけてくるランス大佐の声を最後まで聞かず、二人は無線を切った。
二人の意識は、すでに前方に向けられていた。
彼らが見据える視線の先にあるは、荒野を埋め尽くす魔属群。
人間の一人や二人、容易く呑み込んで磨り潰す。圧倒的数の暴力が土煙を上げ、すでに目の前まで迫っていた。
「流石に今回ばかりは死ぬかもしれない……とか、微塵も考えたりはしてないんだろうな。お前は」
「はっ!ッたりめーだろ。腕っぷしだけの従属らしく、最後まで暴れ倒すだけだろ。テメェは違ェってのかよ?」
「甚だ忌々しいことだが……全くの同意見だ」
絶望的な状況を前に、軽口で笑い合う二人。
すでにボロボロの身に鞭打ち、足を踏ん張り、大群を真正面にして気丈に得物を構える。
「死ぬ瞬間まで、俺たちは勇者アオイの従属だ」
「おうよ。アイツの従属らしく、派手に暴れてやろうぜ」
覚悟を決め、力強く足を踏み出した――その時だった。
「バカのくせにカッコつけるな!キモいぞ、バーカ!」
そんな憎まれ口が、レシーバーからではなく背後から彼らの耳に直接届く。
その主が誰なのか、二人は振り返らずともすぐにわかった。
「へっ!遅れてきたくせに、他に言うことはねぇのかよ!このチビ助!」
頭上を飛び越えていく小さな影に向かって、クロウは嬉しそうに憎まれ口を叩く。一方、ギンは目を閉じ、ただ一笑した。
二人に見送られ、その影――アオイは魔属群に向かって一直線に飛び込んでいった。




