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マタギvs2回目の山狩り、追う立場から追われる立場へ

峠の方から火の固まりが飛んできた。

遠距離から放ったもののため、僕らの居た場所から数十m手前で失速してねらいを外していたが、明らかにこちらに向けられた攻撃だった。

僕らは姿勢を低くしながら、火が飛んできた方向を見る。

木の陰がかすかに動いた気がする。

あの辺りに誰か居る。

街道につもった雪はシラカミとツガルにはカモフラージュになるが、僕のジャケットはあいにく迷彩柄で、普段の山中なら周りの景色にとけ込むのだが、雪の積もった道の上だと、目立つことこの上ない。

次の攻撃がくる前に、僕は峠を向きながら後ずさりし、ワカンを外してアイテムボックスからスキー板を取り出す。

すると、木陰がもう一度揺れたと思うと、再度その方向から火の固まりが飛んできた。

幸い、某手品師直伝じゃないけど下位魔法は一度見たことで、回避出来るようになっている。

僕は、飛んでくる火をかいくぐりながら、その場でスキー板を着用すると反転して、坂道を下り始める。

急斜面といっても、スキーのゲレンデほどではない。けど、着雪によって馬車の往来が訴外される程度には傾斜はついているので、スキー板での移動の方がはるかに足より早い。

ツガルは飛べるし、シラカミは雪に足を取られることもなく、雪上を駆けることができる。

つまりこの場で一番移動速度が遅いのは僕だけど。それでも生身の人間より遙かに早く移動することが出来た。

僕らは、来た道をすぐに戻ると、傾斜が緩やかになってスキーの速度が落ちるところで、横にそれて、林の中を目指す。しばらく草原が続くことで、標的にはなるけど、だまって突っ立ているほうが危険であることは間違いない。

それでも、逃げながら、魔物ではなく人間に襲われることへの複雑な思い、何より昨日の門番との係争を思い出して、僕の心は再び重くなるのだった。

殺気の魔法は僕を狙ったもので、生死を問わない攻撃に見えた。

一体何があったのか。

身に覚えのない指名手配であっても、公務として追跡されているのであれば、こちらが身を守るためとはいえ、反撃すれば新たな罪に問われる可能性もある。

ここはただひたすら逃げるしかなかった。

姿勢を低くしながら、林に向かって走り出すと、後ろから声が聞こえた。

3度目の魔法が飛んでくる野だろう。後ろを振り返る余裕はなかったので、目の前の木の直前で体を一瞬沈み込ませ、そのまま鋭角に方向転換する。

すると、殺気まで目の前にあった木が炎に包まれた。

本気で殺そうとしているのだろうか。

それより森林火災は何とも思わないのだろうか。

僕はツガルに、燃えている木を鎮火してもらい、さらに林の奥へと走っていく。

足下に木の枝が張り出して歩きにくい場所では、僕に一日の長がある。

少しずつ後ろの気配は遠ざかっていき、それから半刻過ぎには全く気配がなくなっていた。

こうして今、僕らは、ブルーフォレストとロックハンドの境にある山の中をさまよっていた。

以前の盗賊がそうだったように、今度は僕らを標的にして山狩りが始まる可能性が高い。

つまり、この場合山頂に向かって移動すると、取り囲まれて逃げ場がなくなるため、回り込んで山を早く抜けてしまわなければならない。

僕らは峠の麓まで駆け下りてから、山に入ることで、再び登る返すにしても、追っ手のいた場所から遠ざかるようにルートを取りながら、なおかつ袋小路に追いつめられないよう、周りの地形を見て進むことにした。


同じ頃

ブルーフォレストの猟友会組合事務所には、ガンツ他暁の狩人が、ドランを尋ねていた。

理由はつい先ほど、自分たちが組合を通さずに、領主が依頼してきたある組合員の捕縛の依頼についてである。

ガンツたちには、自分たちが知っているその人物が、領主の財産を盗んで逃走するというのが全く信じられなかったのである。

クローマークの誤算は、雀組の狩猟者と侮った人物が、組合長に一目おかれる存在であり、また数ヶ月前には、王家の依頼でわざわざ王都まで出向き、その依頼をこなし、ブルーフォレスト猟友会組合の面目躍如となった立役者であったことを知らなかったこと、さらには、領主と共謀して無実の人間を陥れようとした実行犯であるワルダー副組合長が既に身柄拘束されていたことである。

ガンツが組合を訪れ、クローマークの関与が明らかになったことで、ワルダーが罪を軽くしようと、いとも簡単に領主の名前を出したことについて、証言の真実性が担保されたことになる。

これで、減刑に一縷の望みを託していたワルダーも元気付き、その目的が、シローが昨年組合にお裾分けした魔力回復の効果のある食べ物「草大福」の製造方法を吐かせてその販売を一手に牛耳ることで、多額の利益を得ようとするものであったこと、組合長に知られる前に捕縛してしまえば、あとは領主の権限で情報操作くらいはできるだろうと考えていたことなど、ひとたび自供したワルダーは朝日を浴びた小鳥以上に囀りだしたのであった。

ドランもガンツもワルダーの自供が進むにつれ、顔が真っ赤になり、拳を握りしめた、怒りを抑えるのに必死だった。

ワルダーの自供によってクローマークの関与とその動機が判明したことで、ドランはすぐに、組合長の名前で指名手配が無効であり取り消すとの手続を行った。

クローマークについては、犯罪への関与は明白であったが、この町の憲兵では統治権が及ばないため、すぐに王都に連絡することとなった。

もちろん宛先は国王アーサーと宰相ビスマルクである。

ワルダーは目の前の出来事が理解出来ずにいた。猟友会組合長ごときで領主に手を出すことなどできるはずがないと思っていた。つまり領主の関与が明らかになった時点で、自分は無罪放免になると軽信していたのである。

ところが、自分の身柄拘束が解かれないばかりか、領主について、その処分のための手続を踏もうとしているのである。

「一体あの組合員は何者なんだ。」そんな言葉がワルダーの口をついて出るのも必然と言えた。

「今更知ったところで、おまえの処罰は変わらないが、彼の者が無事であるこを願っておけ。その身に危害が及べば、王家はおまえもクローマークも生きて次の日の太陽を拝むことはできぬ。」

ワルダーは冗談にしか聞こえないその内容で誰一人部屋にいる人間が笑っていないことに生唾を飲み込んだ。こんなはずじゃなかった。その言葉が脳裏を駆けめぐるが、言いしれようのない不安に背筋がむずがゆくなるのを押さえられなかった。


僕は山の中をさまよっていた。太陽の位置と、自分が山の中に入った時点での太陽の位置、体感による時間経過から、およその進行方向とロックハンドおよびブルーフォレストの町の方角の予想を付けていた。

山の中を駆け回る音は全てまだ深く積もる雪が吸収してくれるが、それは姿の知れない追っ手についても言えること。

追われる者より追う者の方が精神的に有利な立場にあり、また進行方向からいっても、追われるものは、追っ手がどの位置にいるのか分からないのに、追う者は雪の上にはっきり残る痕跡を追跡すれば足りることになる。

このアドバンテージは想像以上に大きなものであることを、普段は獲物を追う立場の僕はよく理解していた。

手負いの獣がそうであるように、逃走の場合はまず、自分の逃走の痕跡を消さないといけない。

手がかりを失えば、ルートのわかりにくい山の中では、経験がものをいう。遭難の危険が高くなるほど、ほんのわずかな行動の選択を誤ることで、自然はその猛威を容赦なくふるってくる。追われる者だけでなく追う者も同じ条件に陥れることで、条件は五分以上になる。追う者は自分たちの方が有利な状況だと考える傾向にあるので、条件を五分にされるだけで相手以上にマイナスに陥ったと考えやすくなるのだ。

僕はまず、野ウサギと同じ方法で、複数方向に足跡をつけ、そこからそりでシラカミに数十m引っ張ってもらう。足跡がとぎれたところで、追跡者は立ち止まり、そこから次の足跡を見つけようとして周囲を見回すだろう。したがって足跡のとぎれたところからすぐには見つからない場所まで足跡が途切れることによって時間稼ぎをすることが出来る。ちょっと追跡になれた者なら、全方向を捜索するため、足跡が途切れた場所を起点とすることで、時間を要しても最終的には、さらに続く足跡を見つけるものだが、当面の時間稼ぎはこれで出来ることになる。

そりの痕跡はそうとしらなければ、すぐには人工的なものだと判別できない。シラカミの足跡はどこの山にもいるウルフのものにしか見えないので、僕の足跡だけを捜索の対象にしているはずである。

しかもそりで引くなら、シラカミの足跡をそりが消してくれることにもなる。

あまりシラカミに負担は掛けたくないので、ある程度進んだら、そりを降りようと考えていたのだが、シラカミは全く平気な様子で、そりを引く行為そのものを楽しんでいるようだった。

「主の役に立てるのが楽しいのだ。」と先日山でそり遊びをしたときのことを思い浮かべながらシラカミが嬉しそうにそりを引っ張っていた。

誰も知り合いのないこの世界にシラカミがいつも一緒に居てくれることがどうしようもなく嬉しかった。今だって理由も分からず追われて犯罪者扱いされていることにくじけそうになっても、シラカミが、ツガルが側に居てくれることがどれだけ心の支えになっているだろう。

一人感慨にふけっていたら、木々が途切れ、開けたところに出た。

見上げれば山の稜線が見え、雪庇がこちらに向かって張り出していた。

朝早くから襲撃されたおかげで、太陽もだいぶ高くまで登ってしまっている。

僕は経験的に、今から横断しようとするその場所が雪崩の通り道になること、上方のあの雪庇が崩れたら、雪崩が一気に横断するものを飲み込んで押しつぶすだろうことを予感した。

確認のため、開けた場所に出る手前で、弱層テストを行う。表層部分の雪の状態を確認することで雪崩の危険性を予測するそのテストは、雪庇が崩れて起こる雪崩だけでなく、太陽光によって雪面が説けて起こる表層雪崩の危険を判別するためにも行っておく必要のあるものだった。

もっとも、熟練でないにせよ、幼いときから雪山に親しむ僕にとって、弱層テストを仕様と考える時点で経験的には雪崩の危険があることを体感しているのであって、テストはあくまでも自分の勘を確認するためだけのものだった。

雪庇が崩れても、表層雪崩になっても、いずれの場合も、トラバース中に巻き込まれる危険はある。

それでも、後戻りすれば追ってくるものと鉢合わせになる可能性が高い。

今はもう、午後に向かって雪崩のリスクは一秒ごとに高くなっていく。日が落ちて再び雪が締まるまで、ここで待つなどという選択肢はない。


「進むか。」

それから数分後、高い金属音と共に、稜線の雪で出来た庇が崩れ、轟音と共に、雪煙を巻き込みながら何千トンという雪の固まりが一帯を襲ったのだった。


果たしてシローは雪崩に巻き込まれたのでしょうか?

次回予告

雪崩を最上級風魔法で吹き飛ばす規格外の謎の魔術師が何の脈絡もなく突然現れて木々の代わりにストーリーをなぎ倒す。

こうご期待(嘘です)。



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