マタギvs草大福4
朝、土地勘のない山の中で目を覚ました。
土地勘こそないが、山の中で朝を迎えることには慣れ親しんでおり、何の抵抗もない。
とはいえ、身に覚えのない指名手配で追われている事実が心を重くし、食欲もなく朝ご飯をシラカミとツガルの分だけ出して、自分はスキップしたことに、シラカミもツガルも心配そうに寄ってくる。
シラカミとツガルが否かったら今頃はどうなっていただろう。
折れそうな心を最後の一本のつっかえ棒で支える、その一本にシラカミとツガルがなってくれていることに感謝し、二匹の頭をなでる。
心配そうにすり寄ってくる二匹はスキンシップを嬉しそうに受け止める。
今日は、峠から街道を下ってロックハンドの町にたどり着く予定だ。
冬ごもりでだいぶ貯蓄していた肉も野菜も消費してしまっていた。
それでもロックハンドの町に入るのは無理だろう。ブルーフォレストと同じく、入り口の検問で指名手配犯と扱われてしまうのではないだろうか。
僕の心は再び鉛のように重くなる。
僕たちは小屋を出て、街道に戻り、ブルーフォレストから遠ざかるように歩き出す。
街道はまだ峠の北側、雪が地面に残り、足跡のない雪道が、人の往来がなかったことを示していた。
僕はそれを見て、少しほっとしながら、また同時に寂しい思いもありながら、歩き始める。
街道にはあまり出てこないが、食料になりそうなウサギ、イノシシ、鳥などは、獲りながらということになる。
峠の直前で傾斜が少し急になった。人の往来も馬車の往来もない道は雪深く、足を取られて歩きにくい。
僕はワカンを取り出し足につけて再度歩き出す。
時を同じくしてクローマークの屋敷では、
執事が部屋にいるクローマークに、昨日指示された狩猟者への連絡がつき、狩猟者が見えたことを伝える。
それから程なくして、領主の部屋から声が聞こえてくる。
「おまえらにやってもらう仕事がある。」何時の時代も平民に対する貴族の態度はこんなものである。完全に見下し、上から命令口調である。まあ依頼者で金を払うというポジションもいつもの傲岸さに拍車を掛ける要素にはなっている。
「猟友会を通じて全国に指名手配していたシローという狩猟者が、先日この町の門番の制止を振り切って逃走した。おまえらには、その狩猟者の捕縛を命じる。」
「念のためにお尋ねしたいのですが、その狩猟者は一体何をしたのです?」
「そんなことは知る必要はない。おまえらは命じられたとおりにやればいいだけだ!」
「そうおっしゃいますが、」と体格のがっしりした狩猟者、ガンツは言葉を続ける、そうクローマークがシローの追跡。捕縛に向かわせようとしていた狩猟者は「暁の狩人」だった。カラス級とはいえ、地方には滅多に高ランクの狩猟者は拠点を持たず、大きな仕事の多い王都パレスキャッスルに向かってしまうため、このブルーフォレストを拠点とし、堅実に実績を上げている狩猟者チームでは、上位に名前の挙がるチームだったのである。
「理由が分かりませんと、相手が抵抗した場合、どこまで反撃が許されるのかが分かりません。もちろん、こちらの生命が脅かされることがあれば、相手を殺すこともやむなしということになろうかと思いますが。」
「ならん!殺すことだけはまかりならん!」
そんなことをしたら、金の卵を産むワイルドコッコの意味がなくなる。
「必ず生かしたままつれて参れ。」クローマークはあわてた様子で、条件として対象の生存が必須であることを告げる。
「ですから、その理由が分からないと、そもそもどれだけ難易度が高いのかも、報酬が見合っているのかも判断致しかねます。」ガンツが続ける。
狩猟者のチームで前衛の盾役というとどうしても脳筋のイメージがあるが、貴族をも相手にする狩猟者で上位の実績を持つ狩猟者はそれなりに処世術もわきまえていれば、情報の把握に秀でているものである。
「仕方ない必要な範囲で教えてやる。そやつはワシの物を盗んで逃げているのだ。生きたまま捕まえて、そのありかを吐かせないと意味がないのだ。報酬は金貨1枚、雀級の狩猟者の検証首としては破格だろう。」
ガンツはそれを聞いて呆れてしまった。シローの実力は雀どころか、下手すれば俺らなどより上で、さらに従魔のオオカミは、単なるオオカミじゃない。あそこまで威圧感のある魔獣は白鳥級ですら過小評価かもしれない。
どちらにしても。目の前の貴族は何かたくらんでいるようだ。組合長に一度確認しないといけないな。
ガンツは、もはや依頼を受けるつもりなど毛頭なくなっていたが、それでも情報を引き出しておく必要から、「分かりました、今の説明が正しいのであれば、狩猟者として問題視せざるを得ないでしょう。ところで、この依頼は猟友会を通じて受けるということでよろしいのでしょうか。」ガンツは念のため組合も知っている話なのかの探りを入れるために、そう尋ねる。
するとあわてたように、「そんな時間の余裕はない。組合などを経由していては、やつがそのまま逃げ切ってしまう。組合を通じてない分、おまえらへの報酬は高くなるのだから異存はあるまい。」
「であれば、依頼は文書で頂戴したく存じます。狩猟者が組合を通じて依頼を受けるのは依頼者とトラブルを起こすことがないよう、直接の依頼関係にならないようにしているためです。依頼を遂行した後、そのような話は知らないといわれてしまうと困りますので。」
「何だと、おまえらはこのワシが信用できないと申すか。不敬であろう。」
「お子にさわりましたらご容赦下さい。ですが、依頼内容を記録に残さない、組合も通さないでは、ご依頼をお受けすることは出来ません。それでは、これにてお暇します。」
「待て、先ほども申したとおりお、時間がないのだ。今すぐかかれ。」
「お断り致します。組合に氏名依頼を出して頂きましたら善処致しましょう。」
ガンツはそういって後ろを向き部屋を出ようとする。
「待て。急いでいるのだ、書面にしてやる。その代わり失敗は許さんぞ。」
クローマークは目の前の狩猟者が自分の思い通りにならないことに苛立ち、罪のない人間を陥れて犯罪者に仕立て上げて捕まえることに、自らの関与を示す証拠が残ることに、少し躊躇を覚えた。
クローマークの失敗は、このとき心によぎった危険信号に従って身を引くことをせず、目の前の狩猟者など所詮平民、いざとなれば口を封じておけば足りると侮ったことである。
まさか、この後、ガンツらがその書類をもって猟友会組合長ドランの元を訪れるなどと考えることもなく、金貨1枚に目がくらんでまっすぐシローを捕らえて戻ってくると信じ切っていたのである。
そのころ、僕は峠までの最後の坂の手前まで街道を進んでいた。
一種んだけ峠を見上げ、さらに足を踏み出そうとしたそのとき、
シラカミが、後ろから服をくわえて引き留める。
驚いた僕は、その場に足を止めて背後にいたシラカミを見ようと振り向く。
シラカミは僕が足を止めたのを見て、くわえていた服を離し、僕の前に回り込んで、峠に向かって顔を地面近くまで下げうなり声を上げる。敵に向かって威嚇し、警戒しているときの仕草だった。
その後、シラカミは僕を来た道を戻るようにと鼻先を僕に付けて押そうとする。
そのときだった。




