マタギvs2回目の山狩り後編、追う立場から追われる立場へ
僕は目の前の斜面を確認し、そのまま斜面に沿って視線を山の上にもっていく。稜線の雪庇は今にも崩れそうだ。
後ろを振り向く。まだ後ろから音は聞こえて来ない。
僕はロープを出して、シラカミにくわえさせる。。
まず先にシラカミに、トラバースを指示する。
何かあったらロープは放してすぐに向こう側に飛び移るようにと指示する。
雪崩に巻き込まれた場合、アンザイレンでロープをつないでいると、一緒に巻き込まれてかえって危険であり、一人ずつ安全なところまで渡りきるまで、次の人は雪崩の通り道を避けて待機していなければならない。
万が一同行者が巻き込まれた場合、デブリに埋まったところを掘り出さないといけないからだ。
一秒ごとに雪崩の危険は高まるため、一刻の猶予もない。もっともいつ崩れて来てもおかしくないので、もはや運を天に任せるしかない。大騒ぎして、何もなかったという可能性だってある。
シラカミは、嬉しそうにロープをくわえ、数十mあるトラバースをわずか数歩で飛び越えていく。雪面に全く負担を掛けておらず、あの巨体にに使わない身軽さであっという間に向こう側に渡りきってしまった。
次は、僕の番だ。
僕は、ワカンを外し、スキー板に履き替えて、斜面を斜め下に滑るようにトラバースすることにした。日の当たる雪面は、表面が溶けて、ワカンでも体が沈み込んでしまい、進むのに時間がかかりそうで、より大きな浮力を得るためには、スキー板の方が適切だと判断したのだった。
僕は一歩踏み出す前に、目を閉じて山の神に無事を祈り、おもむろに一歩を踏み出していった。
ストックは持っていないので、採取用の鎌を山側に持ち、ピッケルの代わりにする。
ちょうど真ん中まで来たときだった。
背後から轟音と共に、卑属政の初級魔法である「火ん球」が飛んできた。
こんなところで、火を使うなんて。
僕はやむを得ず、スキー板を谷側に向けて、勢いよく滑り出す。雪面に隠れるところもなく、新調にトラバースしていたらそのまま標的にされる。
銃だって、高速で目線より下に移動するものについては、照準を併せにくい。魔法だって同じことは、自分の経験で知っている。谷側にスキー板を向けることで、急斜面を勢いよくスキーは滑り出し、その勢いをもって、向こう側へと進路を修正し、斜め下に移動する。シラカミには、下で合流するよう指示する。
その指示の直後、第二弾の「火ん球」が僕の右の耳をかすめるかと思うほど近くを通り過ぎていった。耳元が急に熱くなったことに驚き、首をすくめる。あとちょっとで向こう側の尾根までたどり着く。そこまでいけば、一旦雪崩の通り道からは逃れられる。
そう思った直後だった。
後ろで高い金属音がした。雪山に登る人間にとっては耳にこびりつく不快な音だった。
表層雪崩の直前に、雪面に入る亀裂、すなわち氷が裂ける音がした。雪崩は、崩れ始めの速度は決して速くはない。それでも、数百キロの雪の固まりがのしかかるだけで身動きとれずに凍死するか窒息死するかのいずれかである。
これまでに何度か雪崩に巻き込まれそうになったことのある僕にとって、死が手を伸ばせば届くところにある、そんな音だった。
それでも経験があったからこそ、そんな生死の境にあって、体が硬直せずに、速度を保ったまま、崩れ落ちる雪よりも早く尾根までたどり着くことが出来た。少し送れてシラカミが尾根を下ってきて合流する。僕が無事だったことを喜んで、鼻を擦りつけてくる。
再会を喜ぶのはもう少し後にして、今は後ろから飛んでくる魔法を避けるために、先に進もう。
僕は後ろを振り返るなどという贅沢な時間の使い方を放棄し、まっすぐ尾根を下っていく。バックカントリースキーは自転車に乗るよりも先に覚えるのが白神山地に生きる子供たちであり、僕もその例外ではない。
僕たちは日が沈むまでには、山の麓にたどり着いていた。雪崩に遮られ、追っ手はすぐには後をついて来なかったので、今晩は、麓に出たあと、山の縁に沿って町とは反対方向へ進み、再び森の中に入ったところで、小屋を出して野営することにした。
やっぱり指名手配を受けて追跡してきた猟友会組員なんだろう。
移動しているときは、生き延びることで精一杯だけど、小屋に入って少し落ち着くと、この先への不安に心が押しつぶされそうになる。
翌朝、追っ手の形跡がないことを確認し、僕たちは森を出て、町へと向かう。
街道を外れて山に入り、山を越えて反対側に出たことで、町の方角が怪しくなっていた。
それでも、低い方へ低い方へと歩いていけば、必ず道か町かどこかにはたどり着くはずである。
そのころブルーフォレストの町では
暁の狩人が持ってきた情報とワルダーの自白で、クローマークの関与が明らかになったものの、貴族の逮捕権はやはり猟友会にはない。
そこで、ドランは緊急用の通信手段である「鳥さん郵便」で王都の猟友会組合に、ことのあらましを伝えて、王家に連絡を取り、処分についての沙汰を得ることにした。
もっとも、王家に貸しのあるシローを私利私欲のために犯罪者に仕立て上げて、その身に危害を及ぼしたのである。国王が知ったらどれだけ怒り狂うだろうか。その事実に背筋が縮む思いのドランだった。
ワルダーについては、現時点で既に組み合いの副組合長の職を解かれることは確定しており、シローが無事なら財産を没収の上、シローに賠償金として支払う程度で済むが、もし七位かあれば、鉱山送りから最高斬首まである。
ワルダーが底辺組合員と侮った人物が、第三王女アリシアの命の恩人だと知らされたワルダーは一気に30歳年を取ったようで、魂が抜けて惚けた状態になってしまった。
僕は森を抜けて下っていく途中で小さな山里の集落を眼下に見つけていた。
昼前には、たどり着くだろう。
逃げ回っているだけでは物事の解決にはならないが、近くまで行ったら里の様子を窺い、状況によっては、離しを伺おうと考えていた。
短いので王様激おこまで書こうかと思ったけど時系列が合わなくなるのでやめた。




