魔法使い狩り(2)
「……リュカさん。うあ、ああ、リュカさんっ……」
突然いなくなったリュカに、ルイはぬいぐるみを抱き締めながら蹲って泣き声を上げた。
「「……ル――」」
「しっ、ぬいぐるみでいて」
悲痛なルイの姿を見て声をかけようとしたぬいぐるみたちを小声で遮った彼。ルイは冷静だった。涙を流しているもその目には強い決意が灯っている。
(今の僕はかわいそうで無力なこども。そう思って油断をしてくれたらきっと隙は生まれるはずだから)
「ああ、かわいそうでちゅね」
やや腰を屈め泣いているルイに顔を近づけた男。
「大人びていると聞いたがこういうところはまだ子どもなんだな」
男はルイが本当に泣いていると思っているようだ。
「おい。そのぬいぐるみを取ってこい」
男は全身をマントに包んだ人物に指示を出す。その者は地を滑るように移動してルイに手を伸ばしたが、
「だめ! 渡さない! 僕のぬいぐるみだもん!」
とルイに明確な拒絶を示され戸惑いを見せる。
「チッ。これ以上泣かれるのも面倒だ。いい。持たせとけ。そのまま連れていく」
「いやだ! やめて!」
男は泣いて抵抗を見せるルイを軽々と脇に抱えると薄暗く何も見えない奥の扉を開けた。待っていたのは無数の檻。どうやらルイ以外にも誘拐された人たちが檻に閉じ込められているようだ。
ルイはその中でも一際大きく、そして一際頑丈な檻に放り込まれた。
「おとなしくしてろよ。その足枷で魔法を使ったらすぐわかるようになっているからな。使ったらお前の手首を切り落とす」
冗談を言っているようには思えない男の雰囲気にルイは体を震わせ頷く。
ルイに檻と繋がれた足枷をしっかりつけ、鍵がかかっていることを確認した二人は踵を返していった。
「……はぁ……」
二人が完全に消えたことを見て大きく息を吐き出したルイ。おとなしくしていたぬいぐるみたちも体を起き上がらせルイに飛びつく。
「すごい、ルイ! 演技じょうず!」
「あいつら簡単に騙されていたね!」
「うん。でも、ここから出る方法を考えないと。魔法は使えないし……」
「「僕ら(たち)がいるじゃん」」
腰に手を当てて胸を張るぬいぐるみたち。
「ふふ、そうだね」
愛おしそうにぬいぐるみたちの頭を撫でていたルイの耳に届いた声。
「……出して……」
「……痛いよ……」
「……怖いよ……」
「……寒いよ……」
消え入りそうな声だ。
『君は魔法使いなの?』
ルイの元にふわりと現れた亡霊。小さな男の子だ。服は布一枚で汚れが目立ちみすぼらしさが浮き立っている。だが、頭からは羊の耳が生えていた。そして、足には鎖が途中で消えた枷が付いている。
『助けに来たの?』
『ここから出してくれるの?』
『ママ、パパに会いたい』
亡霊は一人だけではなかった。みすぼらしい服を着た子もいれば身なりの良い子もいる。しかし、決まってこどもだった。さらに一様に足には足枷が付いている。
ルイの瞳から零れていく涙。
「……みんな、ここで」
『死んじゃったの?』その言葉を飲み込む。亡霊たちは自分たちが死んでしまっていることを知らないようだったから。
ルイは亡霊たちから涙が見えないよう膝を抱えて俯く。少し落ち着いたのち、思い切り涙を拭うとルイは彼らに微笑みかけた。
「僕が絶対にここから出してあげるからね」
亡霊たちは嬉しそうに笑い自分たちの檻へと戻っていく。
「ウサギさん、クマさん、頼みたいことがあるんだけどいい?」
「「任せて」」
「ここがどこか知りたいの。調べてきてもらえる?」
「お安い御用だよ」
「ルイのためなら何でもするよ」
「ありがとう」
ぬいぐるみたちは柵の狭い隙間から檻の外へ出ると空間をくまなく探し始めた。
「扉は重くて僕たちじゃ開けられないね」
「あの上から外に出られそうじゃない?」
「「うっ、でも入れない」」
ぬいぐるみたちは天井にある通気口から外に出ようとするも、ふくらみのある体では通れそうにない。
「「そうだ!」」
同時に声を上げると、自分たちの体にある縫い目を解き綿を抜いていった。
ぺたんことなったウサギのぬいぐるみが先に通気口を通り、ぺたんことなったクマのぬいぐるみから二つ分の綿を受け取る。
通り終わると綿を自分たちの体に入れ縫い目を戻していくのだけど、丸い手ではうまくいかない。なんとか落ちていた釘を使って拙く修復を終えると、二つは通気口の中を進んでいった。
隙間から綿が零れ落ちてもルイのために力を振り絞るぬいぐるみたち。
一人になるとルイに途端寂しさが込み上げてきた。抱えた膝に頬を付けて気持ちを落ち着かせようと独り言ちる。
「……大丈夫。きっとリュカさんが迎えに来てくれる。それに先生やネロくんも探してくれているはずだから」
それでも不安が拭えず体を動かしたルイのポケットから何かが落ちた。
「……これ、ウィニーさんがくれた……」
そう、あの時ウィンストンがくれた“透き通った輝くビー玉”だ。
『なにか君に危険があった時、この球を割るといい』
その言葉を思い出し、ルイはすかさず檻の床にビー玉を叩きつけて割る。すると、ビー玉の中から溢れた水が集まり、円形の鏡へと変わった。
水の鏡面は次第に何かを映していく。マントを深くまで被り顔は見えないが、ルイはこの人物を知っているのだ。
「……うぃ、ウィニー、さん?」
『……ああ! よかったルイくん、聞こえているかい?』
「き、聞こえています……!」
ルイが答えた直後、鏡面に映っていたウィンストンの顔が滲み、次いでリュカの顔が現れた。
『ルイ!』
「……リュカ、さん?」
『はい。私です』
「リュカ、さんっ」
彼の顔を見て、安心感からかルイの瞳に溜まっていく涙。
『怖い思いをさせてすみません。すぐに助けに向かいますからね』
『でも、そこがどこかわからないだ』
リュカの顔を手で押しのけ現れたリオン。
「あ、それなら今ウサギさんとクマさんに――」
「「ルイ! わかったよ!」」
タイミングよく戻ってきたぬいぐるみたち。でも、綿が抜けてへろんへろんになっていた。
「ありがとう、ふたりとも」
ルイはぬいぐるみたちを抱きしめ、二つに見てきたことを彼らに伝えてくれるよう頼んだ。
「あのね、イスがいっぱいあった。イスの前にはちょっと高い床があって、ビカッて光ったよ」
「あとね、『めだましょうひんが、てにはいった』って、怖い顔の人たちが話していたね」
ぬいぐるみたちの言葉をきいて『なるほど』と口角を上げたリオンは目を薄く開いていく。
『そこ、きっと闇オークションの会場だね。ルイくん、その目玉商品というのはどうやら君のようだ』
「え? 僕?」
『なんだと!? ルイを商品として売る!? ふざけるな!!』
『ちょっとリュカくん、落ち着いて』
わちゃわちゃし出したことにより滲む水の鏡面。そして、それは突然終わりを告げた。
『……あ』
「……あ」
鏡は水となって床に落ちる。以降、鏡に戻ることはなかった。
◇
「うあああ! ルイ! ルイー……うぐっ」
意味もなく叫ぶリュカの口を塞いだリオンは、ウィンストンに魔法の残影から場所の特定を促す。
「闇オークションとなると迂闊に手は出せないな」
頭を掻いて苛立ち気に呟いたローガンにリオンは怪しく笑いかける。
「なら、こちらも闇オークション仕様と行こうじゃないか」
「「……あー、嫌な予感」」
声を合わせたネロとタリアの予感はまさに的中。
リオンは一層怪しげな笑顔が浮かべて告げた。
「さあ、ルイくんを競り落としに行こうか」
ご高覧いただき感謝の至りでございます。
次話、闇オークション潜入?




