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魔法使い狩り(3)


「……通話切れちゃった」

 ルイは檻の床に染みた水を見て嘆く。


「ここに捕まっている全員を助ける作戦を伝えようと思ったのに」


「え? もうそんなこと考えてたの?」


 クマのぬいぐるみは大きい頭をこてんと傾げた。


「うん。ウサギさんとクマさんが頑張っている時にね。でも一つ問題があって……」


「もしかして、魔法を使ったらバレるってやつ?」


 ウサギのぬいぐるみはルイに尋ねた後、彼の足に繋がっている枷に触れる。頷いたルイは煩わしそうに枷を見ていたが、ふと思い至ったようだ。


「……魔法を使う時って魔力が体中に巡るんだよ。枷が魔法を使ったのかどうかわかるのも、きっと肌に触れているから。ねぇ、肌に触れていなければ魔法を使ってもバレないんじゃないかな?」


「「うわあ! ルイ、天才!」」


 その場で手足を動かし喜びを露にしたぬいぐるみたちは、すぐさま自分の体から綿を取り出した。


「枷と足の間に綿を挟んでー」

「うん、これで触れていない!」


 いそいそと小さな手足を動かしてルイの思う通りに動いたぬいぐるみたちの体は、もう立っていることもやっとなほど綿が減ってしまっている。


「ありがとう」


 一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせるとそっと唱えたルイ。


「‘Olu Makana」


 すると、こどもたちが入っている檻が一斉に人一人通れるほどに口を開け、こどもたちの足についていた枷は真二つに割れた。


「まだ」


 小さく呟いたルイは、近くに落ちている莫大な金額が記された手配書を一枚呼び寄せ、噛んだ指先から溢れた血で裏面にメッセージを記していく。


『ネロくんの魔法が必要』


 そして、リュカの元に行くよう手配書に指示を出した。


「見つからないようにね」


 手配書は頷くように上部を曲げると軽やかに重厚な扉の隙間から外に出て行く。


「みんな、今助けが来るからね。ウサギさん、クマさん、みんなを一箇所に集めてくれる?」


「「任せて」」


 少なくなった綿によって足取りはおぼつかなくなっているが、ぬいぐるみたちは迅速に檻から出てきたこどもたちをルイの檻の前に集めさせた。泣いているこどもには抱きつき、泣き止ませることも忘れない。


「大丈夫、きっと上手くいくよ」


 ルイは自分に言い聞かせるように呟き、こどもたちの不安を拭い去ろうと今できる精一杯で微笑んだ。



   ◇



 闇オークション潜入と言うことで上質な黒いスーツに身を包んだ五芒星にリュカ。ウィンストンによりオークション会場の場所は特定済みだ。


「……いや、こんなことせず乗り込んで全員とっ捕まえちまえばよくね?」


「そうだね、ネロくん。でも、ルイくんにあんなことをしたんだ。一泡吹かせたいじゃないか」


 リオンは薄く目を開き、手でにやける口元を隠した。


「あーあ、リオンの悪いところが出てんぜ」


 頭の後ろで手を組んだネロは、「俺しーらね」と言いたげに彼から顔を逸らす。


「まさか闇オークションに国家魔法使いが来ているなんて夢にも思わないだろうし、剰え目玉商品を掻っ攫っていく。ああ、奴らの慌てふためく顔が早く見たいね」


 乗り気なリオンに不安を募らせながら一行は闇オークション会場入り口へと向かっていった。


 厳重なボディチェックに身分の照合、闇オークションなのに抜かりはない。否、闇オークションだからこそその点を抜かってはいけないのだろう。


「ねぇ、顔の照合とかどうすんの!? 僕たち国中に顔割れてるんだけど!」


 口に手を添えリオンに耳打ちしたタリア。


「ああ、それは心配いらないさ。ねぇ、シンシアさん?」


 首を傾げたタリアの顔に何かが覆いかぶさる。それは土でできた仮面だった。だが、それは驚くほど薄く、本物の顔と見分けがつかないほど精巧に作られていたのだ。


「ええ。さっき後ろにいた方たちの顔をかたどらせてもらったから」


 妖艶に微笑んだシンシアの顔はやや小太りな中年女性の顔へと変わっている。その隣に並ぶローガンも年老いた男性の顔だ。


「なるべく体型に似た顔を拝借してきたから問題なく通れると思うわ」


「さっすが、姉さん!」


 タリアはシンシアの腕に抱きついたが、いつも通りに剥がされる。そんなタリアの顔は、豚鼻に頬が垂れ下がったいかにも女性に目がなさそうな男となっているのだが、本人はまだそのことを知らない。


 無事通過できた一行は広くやけに豪華なロビーへと通されていた。床は一面赤いカーペットだ。さすが重鎮が密かに訪れるだけあって、かけるところに金がかかっている。


 余談だが、シンシアが顔を拝借した者たちは偽物だと断定され警備員に連れていかれたのだとか……。



「……ルイ、どうか無事でいてください」


 両手を胸の前で組み祈っているリュカの元に舞い降りてきた一枚の手配書。裏向きに彼の手の中に落ちていく。


「……ネロくんの、魔法が、ひつよう……」


 裏面に書かれている文字を読み上げたリュカの手元を覗いたローガン。


「丁寧な字、こりゃあ小僧の字じゃねぇか」


「ネロ、今すぐルイの元へ向かってください。この手配書が案内してくれます」


 手配書は手を振るように角をはためかせた。


 リュカに迷いのない瞳で見つめられたネロは「わかった」と頷くと、手配書を握りしめ瞬き一つの間に闇へ紛れていく。


「ルイくん、あの子は本当に自分のすべきことをわかっている」


 嬉しそうに微笑むリオンに、「なるほどな」と腕を組んで苦笑いを浮かべたローガン。シンシアは役になりきり扇子で豪快に仰ぎながら「ほっほ」と高笑いした。


「え? どういうこと?」


 この場ではタリアだけがわかっていないようだ。


「こいつは、小僧が自分だけでなく他に捕まっている子らも助けることを見越し、あえて闇オークションに潜入したってことだ」


「うん、正直ルイくん一人だけを助けるなら容易も容易だ。けどね、あの子は誰よりも優しい。自分以外に捕まっている子を見てしまえば助けずにはいられないんだよ」


「ええ。そして、ルイにはそれが為せてしまう」


「そっか。あんなに可愛いから忘れていたけど、ルイルイってば天才魔法使いじゃん!」


 ふふ、と笑いようやく開き始めた扉へ顔を向けるリオン。


「さあ、ひと暴れしてこようか」


ご高覧いただき感謝の至りでございます。


魔法使い狩り、もう少しお付き合いください。

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