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意気地なし偽勇者はドラゴン討伐の夢を見る(3)


「そうと決まれば早速行こうか、ドラゴン討伐」


 颯爽と立ち上がったリオンに皆の視線が集中する。


「……あなた、彼の話聞いておりました?」

「聞いていたよ」


 不信を募らせ尋ねたリュカにあっけらかんと返したリオン。


「まずは小さな魔物討伐から始めたいんだけど……」


「いえ、行きましょう。ドラゴン討伐」


 おずおずと返したゼインに、次いで答えたのはルイ。彼はアトリエの扉に向かっていくリオンを駆け足で追いかける。


「大丈夫。俺も一緒にいくから」

「でも……」


 ソファーから立ち上がったものの動けずにいるゼインへと振り返り顔を向けたリオンは、目を瞑り微笑んだまま首を傾げた。


「なに? 俺が一緒なのに怖いことあるの? 俺が一緒なのに」


 そう、彼はこの国最高峰の国家魔法使いの一人なのだ。ドラゴン討伐など日常のこと。


「……こわくありません」


 穏やかな顔をしているがどことなく圧があるリオンに逆らうことができず、ゼインは半べそ状態で渋々彼らの後を追った。


 ため息をついたリュカも後を追う。その背後に忍び寄る二つの小さな影。ぬいぐるみたちはリュカの背に飛び移ろうと足を曲げた最中――


「……あなたたちはお留守番ですよ!」


 リュカが振り返りぬいぐるみたちを制した。


「えー、なんでよー」

「ドラゴン見たいー」

「連れて行きません!」


 有無を言わさず閉められた扉によって隔たれる二つと四人。


「わん!」

 それと一匹。


「……またお留守番だ……」

「僕ら、人間だったら良かったのにね……」


 ぬいぐるみたちの言葉は誰にも届かない。




 地面を震えさせるほどの咆哮を上げて大きな岩の周囲を飛んでいるブルードラゴン。どうやらあの岩が住処らしく、こちらの気配を感じ取っての威嚇だろう。


 そして、ブルードラゴンは滅多にお目にかかれない希少種だ。故に討伐数は少ない。弱点等の情報も少なく、研究者たちによれば慎重派なのではないかとのこと。


 人間を見れば自ら向かってくるドラゴンだが、ブルードラゴンは動かずこちらを咆哮で威嚇すると共に機を伺っていた。


「……無理、無理、無理……」


「無理じゃない。ほら行くよ。ルイくんとリュカくんは安全な場所まで下がっていてね」


 あんなに大きくおぞましいドラゴンを前にしても朗らかな笑顔を崩す素振りもないリュカに首根っこを掴まれて連れていかれるゼイン。


「いってらっしゃーい」


 ルイからも心配の色は一切伺えず、爽やかに二人を送り出していた。


 震える手で剣を構えているゼインが後ずさりしないように背に手を添え、もう片方の手を自分の後ろに持ってきているリオン。


 そんな二人を茂みの後ろに身を隠しつつ見ているリュカは隣のルイに声をかけた。


「……意外でした」

「僕がリオンさんに乗ったことですか?」


「ええ。あなたは止めるかと思いましたので」


「本来なら止めていたかもしれませんね。でもゼインさんでしたので」


「彼?」


「はい。ゼインさんの手のひら見ました? 新しいもの古いものいくつも豆があってとても硬く分厚い手でした。毎日何度も何度も剣を振っていたのだと思います。あの大きな騎士団長より硬かったんですよ?」


「……きっとランスロットさんもそれがわかっていたんです。だからずっと待っていた。彼が自分から動くことを」


 手のひらを前に広げたルイは唱える。

「‘Olu Makana」


 彼の魔法はゼインの握る形見の剣にかけられた。



(怖い、こわい、こわい……。無理だ、やっぱり俺にはドラゴン討伐なんてできないっ……!)


『大丈夫だ。自分を信じろ』


 背後から掛けられた懐かしい声。剣を握る手の上に重なる透けた手。知っている。この手をゼインは誰よりも知っている。


「……ランス?」

『ああ、俺はここにいる』


 ランスロットの幻影はゼインを見ると柔らかく微笑んだ。


 胸の奥から込み上げてくる「ごめん」。だが、彼は言わない選択を取った。今じゃない。そう思ったからだ。


「……ランス、俺と一緒にドラゴンを倒そう」


『ああ。ふふ』

「……なんだよ」


『やっと言ってくれたな、と思ってな』

「なんだよそれ」


『ずっと待っていて良かったよ』

「……遅くなったな」


『本当にな。ほら、しっかり剣を握れ。お前が誰よりも剣を振ってきたことは俺が一番知っている。大丈夫だ。倒せるよ』


 ランスロットの言葉に大きく頷いたゼインは深く大きな深呼吸をする。迷いは消えていた。彼の青藍の瞳に闘志が灯り出す。


 ランスロットはそんな彼の姿を見て嬉しそうに微笑んだ。


「ランス、お前が傍にいてくれるなら俺はドラゴンにも立ち向かえそうだ」


『ああ。俺の剣があって倒せないドラゴンなんているか』


 その言い草に笑ったゼインは飛び上がる、ドラゴンが爪を振るったからだ。間髪入れずに頭上に降ってくる尻尾。


 ゼインはそれすらも軽々と躱し、瞬き一つの間にドラゴンの(うなじ)へと駆けあがっていた。ドラゴンの動きよりはるかに早い身のこなしだ。


 勝負はあっけなかった。


「悪いな」


 そう一言告げるとゼインはランスロットの幻影と共にドラゴンの首めがけて剣を振り下ろす。


 ボトリ、と落ちるドラゴンの首。体は傾き近くの木をなぎ倒しながら轟音を響かせ地面に横たわった。


「ほう」

 後ろで手を組んで静観していたリオンから思わず漏れた感嘆の声。


『ほら、できた』

「ああ、おまえのおかげだな」


 拳を打ちあった二人は笑い合う。


「……良かった」

「そうですね」


 胸を撫で下ろしゼインへ駆けていくルイ。ゼインはルイを見ると手を広げ、飛び込んだ彼をそのまま抱き上げた。


「できた! 討伐できたよ、ルイくん!」

「はい、とてもかっこよかったです!」


 微笑ましい二人を見ていたリオンが手を打ち合わせる。


「さ、勝利の宴をしようか!」

「「宴?」」


「うん。ドラゴンの丸焼きだ!」

「「……え?」」


 戸惑っている二人をよそにリオンはせっせと丸焼きの準備に取り掛かる。


「丸焼きは火加減が命!」


 だそうで、リオンがブルードラゴンに熱中している中、ルイは涼しい木陰で木に寄りかかっていた。そこに近づいてくるランスロットの幻影。


『ありがとう、優しい魔法使いくん』


「僕は何もしていませんよ」


『いや。俺がゼインともう一度会えたのは君の魔法のおかげだ。素敵な魔法だな』


「ありがとうございます。……行かれてしまいますか?」


『ああ。未練は断ち切れたからね。もうあいつは一人でも立派に勇者としてやっていけるだろう』


「はい、僕もそう思います」


『本当にありがとう、小さな魔法使いさん』


 勇者としてではなく、友の成長を喜ぶ青年として笑顔を浮かべたランスロットは光の粒となりふわりと姿を消した。


「ルイくーん、できたってよー!」

「あ、今行きます!」


 ゼインに呼ばれ駆けていくルイの元に現れた光の粒。それはしばらく彼の周りを舞うと、首元のキューブの中へと収まっていった。


「さあ、宴だ!」


 みんなで一斉にブルードラゴンの肉にかじりつく。が……


「……うぇー、ブルードラゴンの肉まず……。うん、やっぱりドラゴンの丸焼きはレッドドラゴンに限るね!」


 だ、そうだ。




意気地なし偽勇者はドラゴン討伐の夢を見る ―完―

ご高覧いただき感謝の至りでございます。


偽勇者と本物の勇者の物語でした。

いえ、今は本物の勇者二人ですね。彼はこの先もランスロットが残した剣と共に歩んでいくことでしょう。


次回『記憶の小瓶』

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