EX20-4 ネクスト・ジェネレーション! その4
空が暗くなって来た頃、エターナが帰宅する。
彼女は二十年前と何も変わらない格好をしていた。
そして今日は彼女で帰宅する人間は最後だ、これで全員揃ったことになる。
スウィーチカ一家もまだこの家で暮らしてはいるのだが、週の半分ほどは自分の家で過ごすのだ。
子育てするにはこの家がいいのだが、いかんせん勇者が店主を務めるケーキ屋は忙しいのである。
「さっそくおいしそうな匂いが……」
スパイスの香りに釣られてキッチンを覗き込むエターナ。
そこで彼女が見たものは、お玉を持ったミルキットを背後から抱きしめるフラムの姿だった。
「なんだ、料理じゃなくて子供を作ってたんだ」
「作ってませんが!?」
「ふふ、おかえりなさい、エターナさん。もう少しで出来ますから座って待っててくださいね」
「子供が?」
「だから違いますって!」
必死でフラムが否定すると、ミルキットとエターナはくすくすと笑った。
「じゃあわたしはインクとフェリシアを呼びに行く。ついでにあの二人も。二階だよね」
「あ、メルクとシエラは私が呼びますよ」
「別にフラムはミルキットとよろしくしてもらっててもいいけど」
「私も続けていいですよ?」
「そういうのは食後です!」
「ふふ、ご主人様にとって私はデザートみたいです」
「ごちそうさま」
「うまいこと言ったつもりですか!?」
もはや食後にすることに関しては突っ込みすら入らない。
日常茶飯事だからである。
エターナとフラムはキッチンを出て二階へ向かう。
「まったく、私だってもう落ち着く年齢なんですから、そんな所構わず盛ってると思われるのは心外ですね」
「……」
「どの口が、みたいな目をしないでもらえますか?」
「どの口が」
「言葉でも言わないでください!」
「メルクとシエラが生まれたときは少し落ち着いてた気もするけど、大きくなってからは前以上になったような……」
「そんなことありませんよ、娘たちが小さい頃だって今と変わらずにいちゃついてました!」
「否定するのそっちなんだ……」
階段を上りきると二人は分かれ、それぞれの家族の元へと向かう。
娘たちの部屋の前に立ったフラムは、扉をノックした。
「ふあぁっ!?」
返事の代わりに、妙に焦ったような声が返ってきた。
首を傾げるフラム。
「変な声したけど、返事ってことでいいんだよね……」
訝しみつつも、ドアノブをひねる。
「メルク、シエラ、ご飯だよー」
そこにはベッドの上に座る服の乱れたシエラと、慌てて椅子に座る汗ばんだメルクの姿があった。
そして部屋の温度が廊下よりも少し高い気がする。
「あ、ママ……わ、わかったよ。すぐに下りるネ!」
「二人ですぐに行きます」
「うん……もうできるから、急いでね」
そして扉を閉じる。
フラムは一歩下がり、顎に手を当てると「うーん」と首をひねった。
「……今のはどう考えるべきなのか」
明らかに怪しい雰囲気があった。
しかし親として、まさか自分の娘たちがそんなことをしているとは思いたくない。
一方でメルクとシエラは昔から非常に仲のいい姉妹で、いくら姉妹でもそこまで距離が近くなるものだろうかと、思うことは多々あった。
「まさかねえ……うちの娘が……」
考え込むフラムの元に、用を済ませたエターナがやってくる。
「インクとフェリシアは、ゲームを片付けたら来るって。そっちは?」
「あー、すぐ来るらしいです……たぶん」
「ならどうしてそんな宇宙の真理を見たような顔を?」
「スケールで言うと限りなくドメスティックな悩みなんですけど……もしかして、子育てってすごく難しいんですかね」
「今までで十分体感してきたと思うけど」
「また別種の悩みが浮上してきたんです、流星のごとく」
「そういうのはまず、奥さんと話し合うのがいい」
「ですよねー」
しかしどう話を切り出したものか。
フラムは悩みながら、一階へと降りていくのだった。
◇◇◇
一方で、その頃のメルクは――フラムが去ったあと、真っ青な顔でシエラにしがみついた。
「ねえまずいって、さっきの絶対にママにバレてたって!」
だが当のシエラは平然としている。
「そうですね、気づかれたかもしれません」
「バレたら引き離されるかもしれないんだよ!?」
「それはありえません。何かあったら駆け落ちするつもりですから」
「アタシはやだよ、この家にいたいもん!」
「私とこの家に残るの、どちらを選びますか?」
「どっちも選ばない! 選べない!」
「でしたら私たちの関係をママに認めさせるしかありません」
「どうやって!? 実は血は繋がってなかった可能性を探るとか?」
「違う産道を通ってきたのでセーフというのはどうでしょう」
「さすがにキモいよ!」
「では、引き離したら自ら命を絶ってしまう、とか」
「やだよお! シエラに死んでほしくない!」
「……自分ではなく私の方を優先するんですか」
「そ、そりゃもちろんアタシだって死にたくないし!」
「確かに、今はそうかもしれませんが――」
シエラは突如としてメルクを押し倒す。
メルクが「ひゃっ!?」とかわいらしい声をあげると、姉は愛おしい妹を捕食者の眼差しで見下ろし、唇をぺろりと舐めた。
「私無しでは生きられなくなるぐらい、メルクを溺れさせる自信はありますよ。体でも、心でも」
瞬間、メルクの心音がどくんと跳ねる。
彼女は顔を真っ赤にしながら、反射的なときめきをごまかすように姉から目をそらした。
「アタシはまだ、シエラとそういう関係になったつもりはないんですけど……」
「あそこまでしておいて、ですか? もう姉妹の範囲なんてとっくに越えていますよ」
「こっ、恋人じゃなくてもそーゆーことする人だっているらしいじゃん!」
「私たちがそうだと?」
「う……」
シエラはメルクに体を押し付けると、耳元で囁く。
「体だけの関係だと? あれだけ何度も、愛してると囁いてくれたのに」
「あれは、その、頭がぐちゃぐちゃになって混乱してたから……」
「本当に嫌なら、拒んでくれていいんですよ。けれどメルクはいつもそうしないじゃないですか。一度や二度ではありません」
「だって……シエラのこと、傷つけたくないもん」
「それは、どうして?」
メルクはきゅっと唇を結ぶ。
けれど本音を隠そうにも、熱情に喚く心音はとうにシエラに伝わっていて。
今さら嘘で身を隠したところで、かくれんぼの真似をする赤子のような、稚拙な時間稼ぎにしかならないから。
前を向いた。
逃げたがる羞恥心を黙らせて、シエラと目を合わせた。
「シエラのこと、好きだから」
「私も愛していますよ、メルク」
「即答しないでよ。なんでそうなれるの? 姉妹なんだよ?」
「子供の頃からそう決めていたからです。私の伴侶はただ一人――メルクだけだと」
「別に、一緒にいるだけならこんな関係じゃなくても……んむっ!」
シエラの唇が、強引にメルクの戯言を遮った。
これだけの熱を帯びた情が、欲が、生ぬるいただの姉妹関係だけで抑えられるはずがないじゃないか、と。
冷静な口調とは裏腹に、シエラの胸中ではメルクへの愛情がうねり、暴れまわっている。
「はっ……シエラ……っ」
「私、もしかするとみんなの言う通り、おかしな人間なのかもしれません。オリジンの狂った一面が私の中にあるのかもしれませんね」
「それは、違うよ」
「けれど、たとえそうだとしても、それってすごくちっぽけなことなんです。というより、そうなりました。あなたが私の妹として生まれ、そばに居てくれたことで」
「何が言いたいの……?」
「私の中に世界を滅ぼすほどの狂気があったとしても、それらはすべてメルクへの愛に変わったということです」
「意味わかんない」
「メルクが我慢せずに欲望をさらけだしてくれれば、世界平和が訪れる、ということですよ」
「やっぱわかんないけど……一つわかったことがある」
「教えてください」
「シエラは詭弁でアタシを丸め込もうとしてる」
メルクは頬を膨らまし、シエラを睨んでみせた。
ああ、しかしそんな欲望に潤む瞳をしていては、怒りすらも愛おしく思える。
仮にその憤怒が本物だったとしても、一度のキスで流せることは明白だから。
「貴女を籠絡するまでは詭弁だって何だって使いますよ。嫌なら、早くお姉ちゃんの虜になってくださいね」
シエラはそう言って、妹の膨らんだ頬を人差し指で軽くつついた。
そして触れる程度の軽いキスをして、体を起こす。
「あまり戯れていては、今度こそママに見られてしまいます。さあ、ご飯に行きましょう」
「ううぅ、このまま流されるのは何か悔しい……悔しいのに、逆らえないぃー!」
メルクは駄々をこねるように、じたばたとベッドの上で暴れていた。
◇◇◇
その後、夕食は無事に終わり、風呂にも入り、子供たちは寝静まった(はず)の時間――寝間着姿のフラムとミルキットは、自室のベッドの上で二人向かい合っていた。
「えー、今日はまず真面目な会議を開きたいと思います」
「えっ……これ用意してきたんですが」
ミルキットの手元には、到底フラムたちの年齢で身につけるとは思えないパステルカラーの怪しげな服と、おしゃぶりに見えなくもない何かが置かれていた。
一旦見て見ぬふりをするフラム。
「そ、それは後で使うとして!」
「そうなんですね……それで何があったんですか? 例のテロリストの件でしょうか」
「メルクとシエラについてだよ」
「無事でよかったですよね。他に問題がありましたか?」
「あの二人……怪しくない?」
「怪しい、とは?」
心当たりがないのか、ミルキットはかわいらしく首を傾げる。
ちくしょう、このままキスして押し倒したい――そんな欲求をぐっと我慢して、フラムは話を続けた。
「仲が良すぎるっていうか」
「いいことではないですか」
「姉妹の範疇を超えているというか」
「そうみたいですね」
「そうみたいですね!?」
ミルキットがあまりにあっさり言うものなので、フラムは思わず大声でオウム返ししてしまった。
「ご主人様は今まで気づいていなかったんですか?」
「い、いや、疑ってはいたけど……えっ、あれっ、ミルキットはとっくに気づいてた感じ!?」
「はい、いずれそうなるだろうともずっと思っていましたし」
「なんで……?」
「だって、私とご主人様の間に生まれた、私とご主人様に似た姉妹ですよ? 愛し合わないわけないじゃないですか」
ミルキットは当然のことのように、笑顔でそう言い切った。
フラムの脳裏に、ある単語が浮かぶ。
――敗北。
そう、フラムはミルキットの愛情の深さにこれまで幾度となく敗北してきたが、今回はとびきり大きな敗北だった。
確かにメルクはフラムに似ているし、シエラはミルキットに似ている。
だがまさかその二人が惹かれ合うという部分まで似るとは――フラムは想像すらしたことがなかったのである。
伴侶たるミルキットが当然のことだと思っているのに。
「とてつもない説得力のある言葉を前に何も言えない……」
「それで二人が幸せになれないのなら止めますが、むしろ逆だと思いますよ」
「いやぁ、でも姉妹……だよ?」
「そうですね。世間一般ではあまり好まれない関係だと思います」
ミルキットはそれがわかっている。
だが、それでも二人は止まらないだろうという確信も持っているようだった。
「でもそれは世間が勝手に言ってるだけじゃないですか。私たちが応援してあげれば、問題なく幸せになれると思うんですっ」
そして未来が確定しているのなら、娘により幸せな未来を迎えてもらうために応援する。
その決意も固めているらしい。
「応援、応援かあ……」
フラムだって、当然娘たちには幸せになってほしい。
もし二人で愛し合うことが幸福の最適解なら、応援すべきだろうという思いもある。
彼女は片手で頭を抱えて、親としてどうするべきか頭を悩ませた。
ミルキットは、そんなフラムの悩みを理解し、何も言わずに寄り添う。
部屋は静まり返っていた。
ギシッ――だから、余計にその音は響いて聞こえた。
「確かに、一番の障害は私たちだろうし、私たちが二人の味方になれば、幸せはぐっと近づく……」
ギイィッ、ドスンッ。
「娘の幸せを願う親としてやるべきことは、ミルキットの言う通り――」
ボフッ、ミシッ、ギシッ――
「ミルキットの、言う、通り……」
ガガガガッ、ミシィッ!
木製の家屋が揺れる。
増築したとはいえ、古い建物なので人が動けば軋みはする。
しかしこの音は、明らかにハードな運動がどこかで行われている音だった。
「激しいマッサージですね」
「それは無理があると思うなあ!」
そしてそれは方角からして、娘たちの部屋だった。
「そっかぁー、そこまで行っちゃってるかー! もうそういうレベルのお付き合いかぁー!」
「明日はケーキを作った方がいいんでしょうか」
「祝わないよ普通!」
しょんぼりするミルキット。
フォローの言葉を考えるフラムだったが、そんなもの思いつくはずもなかった。
「ごめんミルキット、もうちょっとだけ考えさせて! もうちょっとだけ!」
「わかりました。私もすべての人が受け入れられるものではないと理解していますから。それはそうと――」
ミルキットは目の前に置かれたコスチュームを手に取ると、笑顔でそれを広げた。
「娘たちには負けてられませんね、私たちもがんばりましょうっ」
「そこ張り合うんだ!?」
葛藤するフラムだったが、結局はミルキットの愛情に流されていく。
そして翌朝、シエラが自分に尊敬の眼差しを向けていることに気づき、さらにフラムの悩みは深まるのだった。
そういえばアニメおまごとのグッズが販売されるみたいです
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あとがきだとリンクにできないのでURL直貼りで申し訳ない!
この手のグッズっておまごとだと珍しいので、興味ある方は見てみてください!




