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EX20-3 ネクスト・ジェネレーション! その3

 



 おやつタイムを終えたメルク、シエラ、フェリシアの三人は二階に移動した。

 倍ほどの大きさに増築されたこの家は二階もばっちり広くなっており、メルクとシエラの自室や、将来に備えた空き部屋、そして今まさに集まっているフェリシアの部屋も用意されているのだ。

 本棚にはびっしりと本――ではなくボードゲームやカードゲームが並び、棚の上には様々な地方の玩具が置かれている。

 フェリシア・リンバウはかなりのゲームオタクであり、同時にゲームの制作者でもあった。

 今はそんな彼女が学校の部室で作った新作ゲームを持ち帰り、メルクやシエラに試遊してもらっているところだった。

 部屋のド真ん中に置かれたテーブル。

 それを椅子に腰掛け囲む面々。

 テーブルの中央には絵柄が記されたボードが一枚と、山札が置かれている。

 また、それぞれのプレイヤーは山札から引いた数枚のカードを己の手札として保有している。


「ぐふふふ……この手札ならシエラを妨害もできるし、フェリを潰すことも可能……」

「好きにしていいぞ、どうせ最後はわたしが勝つからな」

「フェリちゃん、生意気ですよ」

「そうだそうだー! アタシだってやるときはやるんだからなー!」

「アプリコット姉妹よ、このゲームを作ったのはこのフェリシアだぞ。制作者に勝てると思っているのか?」

「そんな余裕をぶっかましていいのカナー? 手番はアタシ、つまり生殺与奪の権利はアタシにあるんだよ! 今、ここで、アタシがフェリを潰してやろうじゃん!」


 メルクは一枚のカードをボードの所定の位置に置く。

 するとカードに記された数字に応じて、ボードの上に置かれた小さな人形が動き出し、フェリシアの人形に向かって突進した。


「おぉ~、本当に自動で動いてる。すっごー!」

「メルク、さっきから何度も見てるだろう。驚きすぎだぞ」

「だってすごいんだもーん!」

「まあ、いくら褒めてもその攻撃は通用しないがな。あらかじめ落とし穴をセットしてある」


 フェリシアはしたり顔で手札からカードを出した。

 するとメルクの人形の足元に穴の絵柄が現れ、人形はこてんと横になって倒れてしまった。


「あーーーっ! アタシの分身がーーーっ!」


 メルクが大げさに頭を抱えると、その隣にいる〝もう一人のプレイヤー〟が自慢げに胸を張った。


「ま、ウチの子は天才だからねっ! これぐらいのゲームだって一人で作れちゃうわけよ!」


 ポニーテールがトレードマークの、いかにも明るそうな大人のお姉さん。

 フェリシアの母、インク・リンバウだった。


「ママ上、暑苦しいぞ」

「母親ってのは我が子がかわいいもんなんだよ! ほらハグしよ? ハグ!」

「しない……むぐっ、話を聞いてほしいぞ!」

「聞かなーい! ラヴ優先ー!」


 親子の微笑ましいやり取りを前に、シエラはどこか邪悪さの混じった笑みを浮かべた。


「フェリちゃん、嬉しそうですね」

「恥ずかしいだけだ!」

「ちゃんと写真には残しておきますから」

「やめろ撮るなーっ!」


 シエラは水晶の板を取り出すと、画面に触れて写真を撮影する。

 今のコンシリアではシエラが持っている通信端末を誰もが当たり前に利用する。

 これらの端末には撮影機能が当たり前のように搭載されるようになっていた。

 そうやってフェリシアをからかうシエラに、メルクも便乗した。


「とか言っちゃってー、人数足りないから誰呼ぶって言ってインクさん呼んできたのフェリじゃーん。うちのお母さんでもよかったのに。相変わらず母親大好きだよね」

「そうなの? そうだったのフェリシア? だったらママめちゃくちゃ嬉しいよ?」

「ぐぬぬ……」


 事実であるため、フェリシアは何も言い返せない。


「最近はフェリシアも大きくなっちゃって、そろそろ親離れするのかなーなんて思ってたけど、まだまだ甘えてくれるみたいでママは嬉しいよぉー!」

「だから暑苦しいぞー……!」


 インクはフェリシアを抱きしめると、わしゃわしゃと頭を撫でたくった。

 フェリシアは面倒そうな顔をしているが、しかし抵抗はしない。

 するとシエラが上機嫌なインクに問いかけた。


「エターナさんはまだ帰ってきてないんですよね」

「うん、エターナは残業。終わらせたい実験があるんだってさ」

「助手のインクさんは先に帰ってきてよかったんですか?」

「エターナに『フェリシアが寂しがってるだろうから先に帰っておいて』って言われたの。さすがだよねぇ、娘のことをよーくわかってる」

「ママ上。わたしはそんな子供じゃないってちゃんと母上に言っておいてほしいぞ」

「フェリシアのことが心配だったんだと思うよ。テロリストに動きがあったって話はうちにも来てたから」


 フェリシアは自分が英雄の娘であるという自覚が薄い方だ。

 メルクやシエラと一緒に育ってきたため、あのフラム・アプリコットの娘に比べれば、どうしても影が薄くなってしまうところはある。

 それに魔力の数値は高いとはいえ、メルクのように親の跡を継ごうとも思っていないのだから。

 だがそれでも、まったく狙われないかと言われれば、そうではない。

 無防備に一人で夜道を歩いていれば、拐おうと考える人間もいるだろう。


「ま、しばらくはあたしが早く帰ってくるから、フェリシアは寂しがらなくていいんだよー?」

「だから、別に寂しいとは思っていない!」

「うんうん、わかるよフェリ。フェリはエターナさんもいっしょに帰ってきてほしかったから拗ねてるんだよ。ね?」

「メルクまでわたしを子供扱いするな!」


 頑なに認めないフェリシアだが、シエラがさらに動かぬ証拠を出す。


「先日、学校からの帰り道でどうしても二人で話しておきたいことがあると言っていませんでしたか? あれはエターナさんへのラブコールでは?」

「親と話したいだけでラブコールになるわけがないぞ!」

「フェリシア、そなの? だったらあたしからエターナに伝えておこっか?」

「このボードゲームを作るにあたって、術式がうまくいかないところがあっただけだ。まだまだ母上に聞かないとわからない部分も多いからな」

「あたしだってエターナの助手なんだから、聞いてくれたら答えられるよ?」

「ママ上はわたしに甘いから、ずっと撫でられて集中できないんだぞ」

「えーっ、だってフェリシアがかわいいんだもん。仕方ないでしょー?」


 一人娘ということもあってか、インクはかなりフェリシアを溺愛している。

 実際に今もインクは、ゲームは自分の手番だというのにフェリシアを離そうとせずひたすら愛でている。

 メルクもさすがに苦笑いを浮かべた。


「フェリとインクさんを見てると、アタシらの両親はそういうのお互いに向けてやってるんだなーって感じるね。さすがにあそこまでべたべたはされないもん」

「あの二人は、娘である私たちが入る隙がないぐらいですからね」

「あたしだってエターナとちゃんといちゃついてるよ? まあ、フラムたちほどオープンにはしてないけどさ。エターナが恥ずかしがるから」

「ママ上と母上がフラムさんたちみたいになったら、わたしは外を出歩けないぞ」


 例えばフラムとミルキットが街中で突然抱き合ってキスをしたとしても、コンシリアの民は名物として受け入れているし、娘たちもすっかり当然のこととして受け入れている。

 しかし本来ならば、〝当たり前のこととして受け入れられている〟という現実を恥じるべきなのである。


「あれを受け入れてる時点で、アタシたちが住む世界は狂っているのかもしれない……」


 打ちひしがれるメルク。


「ふふ……どうせ狂っているのならおこぼれをもらいたいですね」


 そして邪な笑みを浮かべ、ぶつぶつと呟くシエラ。

 寒気がしたので、メルクは慌てて話題を変えることにした。


「話をゲームの方に戻すけどさ。最近はこういう娯楽に魔法を使うことも増えてきたよね」

「そうだな。だが、母上の同僚にはいい顔をしない研究者もいると聞いたことがあるぞ」

「そうなんですか、インクさん」

「んー、偏屈なおじいちゃんにありがちかも。あたしやエターナはむしろ世界が平和になった証拠だって受け入れてるけどさ」

「平和かー……この街がほぼ更地になっただなんて、実際に見てないアタシからするとどうしても信じらんないんだよね」

「あはは、仕方ないよメルクは。てかあたしだって〝視て〟はいないし。でも臭いや感触は覚えてる」


 インクは寂しげな笑みを浮かべながら、軽くまぶたに触れた。

 彼女の使う義眼は日々進化を続けており、今ではほとんどメンテナンスすら必要ないほどだ。


「それほどまでにオリジンが恐ろしい存在だったということだな」


 フェリシアがそう言うと、シエラが目を伏せた。

 その反応を見てフェリシアが慌てて弁明する。


「違うぞっ、別にシエラに言ったわけでは!」

「わかっています。今のタイミングで真剣な顔をしたらどんなリアクションが見れるだろうと思っただけです」

「そのイタズラはタチが悪いぞ!」

「私は気にしていないと何百回と言ってきたじゃないですか、騙される方が悪いんです」

「あんまウチの娘をいじめないであげてねー、すぐスネるんだから」

「フェリはからかいがいがあるんですよ」

「あ、それはわかるかも」

「むー、ママ上までー!」


 フェリシアが唇を尖らせて拗ね、メルクはそのやり取りを聞いてケラケラと笑う。

 そのとき、階下から元気な声が響いた。


「たっだいまー!」


 どうやら、テロリストの後始末を行っていたフラムが帰ってきたようだった。


「家主のお帰りだぞ、娘たちは出迎えないでいいのか?」


 フェリシアがそう問うと、二人の娘は諦めたように首を振る。


「後でいいよ。どうせお母さんと乳繰り合うんだろうし」

「最低でも三十分は落ち着きませんからね」


 フラムとミルキットはあまりに二人で一緒に過ごすことが当たり前になったせいか、ほんの数時間離れただけで数年ぶりの再会かのように抱き合うのである。

 さすがの娘でもそこまでは付き合いきれない。


「ご主人様ぁーっ!」


 さっそく、一階からはスイッチの入ったミルキットの声も聞こえてきた。

 それを聞きながらインクはしみじみと語る。


「あーあ、エターナもたまにはあれぐらい熱烈だったらいいのに」

「さすがに娘としてやめてほしいぞ」

「でも部屋では割とあんな感じで――」

「親の夜の話なんて聞きたくないぞ!」


 そうしてフェリシアを適度にからかいつつ、四人はゲームを進めるのだった。




 ◇◇◇




 一方で帰宅直後、玄関でフラムとミルキットは固く抱き合っていた。


「んんーっ、やっぱりミルキットがそばにいると落ち着くねえ」

「私も寂しかったです」


 ミルキットはフラムの胸に頬ずりしながら、すぅーっと匂いを嗅いでいた。


「どうしてミルキットはこんなにかわいいんだろう。何時間も離れてたから余計にそう感じちゃう」

「私から見たご主人様だって負けてませんよ。私を見た途端に緩む表情といったら、赤ちゃんの笑顔よりかわいいんですから」

「赤ちゃん扱いされてるー。じゃあお母さんに甘えちゃおっかなー」

「ばぶばぶしますか?」

「するー!」


 こんなやり取りを毎日しているのだから、娘が呆れるのも当然なのである。


「ふふ、思う存分いい子いい子してあげますよ。せっかくだしあの服も出しましょうか」

「あれかあ……さすがに二人にはバレないようにね?」

「大丈夫ですよ、見られても今更ですからっ」

「開き直りすぎでは……?」


 フラムには辛うじて理性が残っているのだが、結局はミルキットに流されるのでその理性に存在意義はなかった。

 そして二人はさらに抱き合い、キスをして、人の目がないのをいいことに少し大胆なこともしてたっぷり二十分触れ合い――そしてフラムはミルキットをお姫様抱っこすると、見つめ合いながらリビングへ移動する。

 そのままミルキットを降ろすことなく椅子に腰掛け、彼女を膝の上に乗せるフラム。

 見つめ合う。意味もなく微笑みあう。唇を重ねる。


「まだクッキー残ってたんだ。食べさせてくれる?」

「もちろんです、二人で作ったものなんですから。はいあーん」


 ミルキットはつまんだクッキーを、フラムの口に放り入れる。


「ん、おいし。愛情もたっぷり詰まってるね」

「では今度はより愛情のこもったクッキーを……」


 再びクッキーをつまむミルキット。

 しかし今度はフラムの口ではなく、自らの口に持っていき、そして唇で挟む。


「んっ」


 そのままクッキーを口移し――いや、口移しを口実にしたキス、と言うべきだろう。

 フラムがクッキーを咀嚼する時間よりも、唇を重ねた時間の方がずっと長いのだから。


「ふは……あはは、クッキーで口移しは大変だね」

「そうですね……ふふ、たっぷり舐め取られてしまいました」


 頬を赤らめたミルキットは唇の端についたクッキーの欠片をぺろりと舐め取ると、蕩けた瞳でフラムを見つめた。


「そんな目で見られても、今からは難しいよ?」

「そうですよね……夕ご飯の時間ですから」

「いっしょに作ろ? そしてそのあと、いっしょにお風呂入ろうよ」

「ご主人様は疲れていませんか? お仕事をしてきたばかりですよね」

「心配してくれてありがと。でも、そんなに疲れるような内容じゃなかったから」


 微笑むフラムだったが、ミルキットはその表情にオリジンと戦っていた頃の残り香を感じる。

 すっかり平和な世の中になったけれど、フラムにはたまに王国から依頼が入る。

 その力は全盛期の状態を維持しており、彼女に依頼が入るということは、それだけ大きな事件が起きている、ということになる。

 また、相手は魔物ではなく、人間であることも多い。

 フラムがそう少なくない人間を殺めてきたであろうことは、想像に難くなかった。


『行方不明者はわかっているだけで六名。どこに行った? 一番詳しいのは誰?』


 フラムも抱き合いながら、今日の出来事を思い出す。

 性懲りもなくオリジンを復活させようとするテロリストたち。

 彼らは人間至上主義を掲げるテロリストと結託し、大規模な破壊行為を行おうとしていた。

 メルクとシエラを誘拐した組織は、オリジンの復活を目論んでシエラを拐ったようだが、バックについた組織はフラムの身動きを封じることを目的としていたのだろう。

 そして、未だに連携している他の組織のアジトをすべて発見できたわけではない。

 計画実行まであとわずか。

 だからフラムが呼ばれた。


『そう、あなたと資料があれば組織の情報はすべてわかると。なら、お前以外のゴミはいらない』


 話さなくとも、記憶があるなら情報は引き出せる。

 場所はわからずとも、繋がりがあるなら存在は掴める。

 その場にいなくとも、存在を掴めば皆殺しにできる。


『助けてくれ? 何人も殺しておいてよく言えたよね。それに何より……』


 フラムも正直に言うと、少しやりすぎた気がしている。

 情報を引き出すためにもう少し生かしておいてもよかったかもしれない、とも。

 しかし――


『私たちの大事な娘を巻き込んだお前たちを、私は絶対に許さない』


 テロリストたちはシエラとメルクに手を出した。

 自分とミルキットの間にできた、最愛の娘たちを。

 万死に値する罪であった。

 彼らとてフラム・アプリコットに喧嘩を売ったのだから、相応の覚悟はできていたはずだろう。

 だから気に病む必要などない。


消し飛べリヴァーサル・チェーンコネクト


 そしてテロリストたちは消滅(・・)した。

 誰に、どうやって殺されたのかを理解することもなく。


「ほんとに平気、ちょっとしたお掃除だけだったから」


 どれだけ英雄視されようとも、フラムは自分のことを英雄とは思わない。

 ただ、愛する人との愛すべき日常を守るために戦っているだけの人間だから。

 そしてそれはもう、終わったことである。

 家に持ち込む必要もない。


「それとも、顔に出ちゃってる?」

「少し出てます。かっこいいですけど、もっととろんとしてるご主人様の方がかわいいです」

「ミルキットが隣にいてくれれば、自然と戻るよ」

「……でも、やっぱり」

「我慢できない?」


 ミルキットは瞳を潤ませながら、無言でこくりと頷いた。

 フラムはその仕草のあまりの愛おしさに、思わず胸を押さえる。


「わかった。じゃあ、夕ご飯に差し支えない程度にね」

「手早く作れるメニューをもう考えてあります」

「ミルキットは抜かりないなぁ」


 あいかわらず愛情では敵わないなぁ……とニヤつきながら、フラムはミルキットに覆いかぶさるのであった。




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アプリコット婦婦、スキンシップがどんどん過激になっていないか??もうアラフォーだよね????? いや、2人に年齢なんて関係あるわけないか…
フラミル、相変わらずだね…
てえてえ!!!
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